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~アーバンジプシー~  作者: 石田 幸
2/7

ゲーム

孤独を抱えた由貴(ゆき)の大胆な誘いにひるまない少年、(たまき)。二人のゲームの行方(ゆくえ)は如何に…。

早る気持ちを落ち着かせるべく、私は平静を(よそお)ってトイレに入った。


鏡に向かって自分を見詰める。


サラサラのショートカットの乱れを手ぐしで直す。意図的に赤い口紅を塗り直す。

白いジップアップセーターの胸元のジッパーをさっきより大きく開ける。全身の鏡で、黒のダウンジャケット、黒いレザーのミニスカート、黒のロングブーツのバランスを確かめるように見てから、香水を耳の後ろと胸元に吹きかけた。


「パロマ・ピカソ」


(たまき)が最も愛した香り。生涯忘れることのない記憶。


再びフロアに戻った私は、わざとゆっくりとフロアを闊歩(かっぽ)した。


その頃の私は、(はす)()な態度をとることで、自分を誇示し、自我を守っていた。自分がいっぱしの娼婦を気取っていることで、今にもひび割れてしまいそうな心を両手で掲げ持っていたと言っていい。


(たまき)のグループは、先程のカーゲーム機の前でたむろしていた。


私はさっきより、やや挑戦的な目で(たまき)を見た。しかし、(たまき)は一向にひるむことなく、むしろ更に挑むような目で、私を見返した。


ほんの一瞬見つめあった私達の間にもう壁など存在しない。


グループの一人が(たまき)の耳元で何か(ささや)いた。明らかに、少年達の中で私のことが話題になっているのを見て取った私は、最近の常套手段で(たまき)に近寄った。


「すみません。私、欲しいぬいぐるみがあるんだけど、UFOキャッチャーって苦手なの。君、すごくゲーム上手(うま)そうだし、お金出すから取ってくれないかな?」

少年達がなかば驚き、色めき立つのが分かった。

よくこんな下手な芝居ができるものだと、自分で自分に興醒(きょうざ)めする思いがしたが、意外に(たまき)はあっさりと返事を返した。

「どのゲーム?」

「あ、こっち。」


私はぐるぐる回転する玩具のような小さなUFOキャッチャーまで(たまき)を案内した。

少年達は呆気に取られてポカンと遠巻きに(たまき)を見送るばかりでついて来る様子はない。

(たまき)は値踏みするようにゲームを一瞥すると、

「このゲームは無理。俺、自信ないから。あっちのなら100%取れるけど。」

と言って、くるりと(きびす)を返して、大型の最新式らしい明るく発光しているゲームに向かった。急いで後に続く。

「これでいい?」

(たまき)が振り返ってひたと私の目を(とら)える。

「あ、うん。」

私が慌てて、両替した五百円を(たまき)に差し出すと

「いい。これなら百円で絶対取れるから。」

と、手のひらから百円玉だけ()まんで投入した。


ゲームがスタートした。

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