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6:「まずは正規ルート以外から試そう」


 僕以外の3人は、密室に閉じこめられ、その上ふざけたルール説明を見たことで心がやられてしまっていた。


 どうしよう、みんなバラバラに行動してちゃまずいよね。

 とりあえず3人をなんとかしなきゃいけないかな……。


 説得しやすい方からいくのが無難かな。


 無言で近くの壁を殴っている紅葉に目をやる。

 また拳を振り上げて殴ろうとしたところを、バシィッと腕を掴んで止めてみた。


「もう止めるんだ! お前の拳は……こんなところで使うもんじゃないだろう?」


 おぉ、なかなかカッコよく決まったぞ?

 そんなことを思った次の瞬間、


「お前のせいでこうなったんだろうがっ! このモグラっ」

「ぐふぉっ!?」


 紅葉はゴスッ、と腹にパンチしてきた。


 ちょ、マジ痛い。かなり本気で……。


 だが、ゴホゴホと腹を抱えて咳き込む僕を見て、紅葉は少し落ち着いたらしい。

 正気に戻ってくれたか。犠牲を払った甲斐があった。


「ったくどーすんだよ竜也。ゲームクリアしないとみんな死んじまうかもしれないんだぞ」

「と、とりあえず、みんなで集まって考えてみようよ……」

「おぅ、わかった」


 紅葉は、いったん香澄がいるテーブルを一瞥したあと。また僕に視線を戻す。


「じゃあ……次は舞だな」

「そうだね、香澄は……後にしたほうがよさそうだ」


 幼なじみの経験則でわかっている。

 ぷっつんとキレた香澄はそりゃあもう怖いのだ……。

 

 次は、まだミコトの絵に寄りかかってトリップしている舞を救出することに。


「舞? 大丈夫……?」

「正気に戻れ、制限時間があるんだ。早いとこクリアしちまおう」


 2人で舞に優しく話しかけてみる。

 現実に帰って来い、と。


「え~うんうん。舞はねぇ~ドーナツが1番好きなんだよ? え? ほんとにぃ~? やだもうっ、そんなことないってミコトちゃん。うん、今度一緒に食べようね☆」

「…………」

「…………」


 くじけそうだ……。


「舞、現実に戻ってきて! そのミコトはしゃべらない!」


 でもここで諦めるわけにはいかないので。

 必死に話しかけながら、舞の肩を掴んで激しく揺すった。


「きゃわぁぁああっ、な、なに? どーしたの? えっあれ? ここどこ……?」


 よかった。

 なんとかリアルの世界に戻ってきてくれたようだ。


「舞、ここはミコトが作った空間の中だよ」

「んで、クリアしなきゃ危ねぇって言ってた。とりあえず香澄と合流しようぜ」

「そっか。そうだったね、わかったよ、じゃあ香澄ちゃんとこ行こー!」


 3人でテーブルのほうに向かう。


「………………………………………………」


 おおぅ、見ただけでわかる香澄の不機嫌オーラ。


 誰でもこの状態で話しかけるという行為に勇気が必要だということは分かっていた。

 その為に犠牲者はできるだけ少なく、3人でお前行け、いやお前がいけと話しかける順番を決める。

 結局、ジャンケンに負けた僕が話しかけることに。


 いつも僕だよ。

 うぅ、ジャンケンは法律より重いよね……。


「あの、香澄さん?」

「……………………チッ」


 はい舌打ちはいりましたー、オーダーお願いしまーす!


 ひきずるような弱い足取りで2人のところに戻って相談する。


「……怖い」

「俺だって怖いわ! お前のせいでこうなったんだからお前がなんとかしろよ!」

「ご、ごめんね竜也くん……。お願いしていいかな?」


 うぅ、でも確かに僕のせいでこの状況になったのは間違いないので、なにも反論できない。

 弱い立場だなぁ。怖いがもう一度チャレンジしてみるしかないか……。


 気持ちが表れたんだろう、僕はゾンビのような動きで再度香澄へと近付いた。


「か、香澄さん? あの、機嫌を治していただけないでしょうか? このゲームを……み、みんなで一致団結してですね……」

「土下座」

「え……? え?」


 香澄はこちらに顔を向けないまま、指をトン、トンとテーブルにリズムよく打ち付けている。


「土下座しろって言ってんのよ、モグラ」

「…………はい」


 キレイな3点土下座だったと思う。

 そのまま10秒くらい経った頃だろうか、ようやく香澄は許しをだしてくれた。

 

『…………プフッ、ククク………』

 

 うん待ってろミコト、すぐに殴ってやるから!



 ――40分経過



「……で? どうするの?」


 とても怖い目つきを浮かべていたが、香澄が合流したことで作戦会議が開始された。


「ねぇねぇ、どこか別のところから出ることはできないのかな? 周りは全部土なんだし……掘ってみたら意外に出られるかもよ?」

「クリア以外の方法で出られないかってこと?」

「うん、そう。できないかな」


 なんと舞はゲームクリア以外の方法でこの部屋から出るやり方を提案した。

 なんて不敵な。いきなりチャンレンジ精神が溢れているぞ。


「掘る、かぁ。道具もねーしなぁ……あっそうだ!」


 紅葉はそう言いながら、なにかに気づいたように僕を見た。

 ……え、なんでしょう?


 紅葉につられるよう香澄も舞も気づいたようで、同時に僕を見てくる。

 うわぁ嫌な予感。


 そして声を揃えて――


《モグラ!》


 なにも声をハモらせなくても……。


「竜也よぉ、お前ミコトから貰った能力で土掘るのが上手くなったんだろ? やってみろよ!」

「やっ、やだよ! それに僕はモグラじゃないぞ、大体どうやって掘ればいいんだよ」

「そりゃ手じゃないのかな?」


 紅葉に加勢するように、舞はにこやかに笑いながら手をスイスイ動かして空中を掘るマネをしている。


 くぅ、ミコトと同じジェスチャー

 バカにされているなこれは。間違いない。

 どんなに促されても、絶対に僕はモヅラの真似なんかしないぞ!


「い、いや、いくらなんでもそれそれは――」

「……やりなさい」

「…………はい、やります。やらせていただきます……。でも、どこを掘ればいいんでしょう?」


 香澄の冷気が出ているんじゃないか思えるほどの冷たさに、すぐ屈してしまった。

 相変わらず目つきが怖い。


 断れない。弱い立場だなぁ……うぅ。


 でも本当に、掘ると言ってもどこを掘ればいいのか。

 壁には無数のカギが架かってあって、手が届く高さの壁は大体カギで埋まっている。


「上は……天井には届かないよね、下かなぁ? でもここがどこなのかもわかんないんだよね~」

「とりあえずどこでもいいわ。でも下よりは横の方が出られる可能性は高そうね」


 香澄は、舞のつぶやきを補足する。


「でも壁にはカギが架かっているぜ? 横を掘るならどこを掘るんだ?」


 紅葉もそこが気になっているようだ。


「あるじゃない。ほら、そこのところ」


 香澄が指差した方向を揃って3人で見る。

 その場所は、ルールの紙が張ってあるところだった。


「い、いやいや。そこはルールが書かれている紙が張ってあるじゃない。まさか紙ごと?」


 ルールの紙はだいたい胸くらいの位置に張ってある。

 そして紙の少し上には2つのスイッチがある。どこにも掘る場所はないように見えた。


「違うわよ、その下」


 した? って言うと?


 紙の下の方に少しだけカギが架かっていないスペースがあった。

 まさか……。


「――這いつくばって土を掘りなさい、モグラなんだから」


 香澄の目は、とても冷たい。


「はい……、掘ります……。僕はモグラです」


 そう呟いて、僕はテーブル側から反対方向にある壁に向かってトボトボと歩いていく。

 モグラ、かぁ……。



 ――50分経過



 とりあえず、しゃがんで掘ってみようと手を壁に近づけてみると――


 さくっ。


 おおっ、すんなり掘れたぞ。

 どうやら本当に土を掘るのがうまくなっているようだ。


 ……やばい。少し楽しいかもしれない。


 さくさくっ。


 ノリノリで壁を掘り続けていると、頭の中に声が響いてきた。


『ぷぷっ……掘る姿がモグラみたいじゃのうタツヤ。本当はその能力気に入っておるのか?』

「お前がこんな能力にしたんだろ!」


 ミコトだった。

 こんなわけの分からないゲームに強制参加させておいてなんだこいつ。


「おいミコト。なんで上からじゃなくて頭に声が響いてくるんだよ?」


 壁を掘る手を休めないまま、ミコトと話しかける。

 さくさく。


『それはの、タツヤにだけ聞こえるようにしたからじゃ。ちと聞きたいこともあるのでのう』


 そんなことも出来るのか? 神さまって便利だな。


「……なんだよ聞きたいことって?」


 さくさく。


『おぬしが、なぜそう暗いのか気になったのでのぅ、元々そういう性格だったわけではあるまい? そうなったきっかけがあるんじゃろう?』


 さく。

 僕は思わず掘る手を止めてしまった。


「……なんだよ、いきなり。そんなのないよ。元から僕はこんな感じだよ」

『それは嘘じゃな。わしは1ヶ月おぬしを見てきたのじゃ、それくらいはわかる。だがその理由までわからんかった……話しにくいことなのかの? わしを信用して話してみぃ』

「しつこいな。そんなのないって言っているだろ」

『ふん、もういい。おぬしがしゃべらんのであれば他の奴に聞くわい! まったく真面目に「げーむ」にも取り組まないでズルしようとばかり。ちっとは「くりあ」する努力をせんか!』

「お前にそんなこと言われたくないよ! 僕はこんなゲームやりたくなかったんだ。大体本当なのかよ、どういう原理でここに飛ばしたんだ。死ぬなんてことも実は嘘なんじゃないのか?  証拠を出せ証拠をっ」

『やれやれ、人を疑ってばかり……、ろくな大人にならんぞ』


 お前人じゃないじゃん。

 神なんて胡散臭いもの信じられるかよ。


「質問に答えろよ」

『……本当じゃよ、時間になったら水が溢れておぬしたちは溺死してしまう。この部屋はわしの力で作ったが、肉体はそのまま閉じ込めた。「といれ」に行きたくなるのもそのせいじゃよ』

「この部屋はどこにあるんだよ……?」

『少なくてもこの世ではないのぅ、神の力で作った亜空間じゃ。だからどこを掘っても脱出は出来んぞ。無駄な努力は早々に止めることじゃな』

「……だったらあの通気口はなんだよ。空気が通っているんじゃないのか?」

『あれは水を出すために作ったものじゃ。じゃから通気口とは呼べんかものぅ。期待させてしまったかの?』


 ミコトのカラカラと笑う声が頭に響く。

 神さまの力ってのはなんでもありだな……あれ?


「おいミコト。肉体がそのまま飛ばされたって……外の時間はどうなっているんだ?」

『当然ここの時間と同じく進んでおるよ?』


 マジかよ……!? てことは今学校は……。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「せんせー、井土くんが昼休みに出て行ってから戻ってきません」

「他のクラスの3人も昼休みからいなくなったと連絡を受けた。なにか事情を知っているか?」

「除霊でもしにいったんじゃないんですかー?」

「やれやれ……。井土、早退と……」


 男性教諭は出席簿に赤色のペンで書いた。

 井土竜也、早退。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 とりあえずミコトの言葉を信用して、壁を掘るのを止める。


 先が見えないゴールを追うのは疲れるしね……。

 バカにされてまではやってられないよ。


 テーブルのところに戻ると、3人は難しい顔をしたまま何かを考えていた。


「どうしたの? 暗い顔して」

「あっ竜也くん。壁のほうはどうだった? この部屋から出られそう?」


 舞がパッと期待した目を向けていた。

 その瞳を裏切るのは心苦しいけど、ちゃんと報告はしないと……。


 僕はミコトにされた説明をみんなに伝える。

 正規の方法じゃないと出られないと。


「そっか……。まぁダメでもともとだったしね。お疲れ様でした」


 そう言って、舞はペコっと頭を下げてくれる。


 舞は優しいなぁ。どっかの誰かとはやっぱり違うよな。


 僕も舞にごめんねと言いながら香澄を一瞥する。

 すると香澄は、その視線に気付いたのか真剣な顔で呟いた。


「……そんなことよりまずいことがわかったわ」


 そんなことって……、僕の壁堀りはなんだったんだ。

 モグラの言われ損だ……。


「なにか、あったの?」

「……ああ。竜也が壁掘っている間に俺はしごに登ってみたんだよ……そしたらさ」


 紅葉が言いづらそうに衝撃の事実を口にする。


 最初に扉を見たときに気づいておけばよかった。

 はしごは扉の下から直接地面まで伸びている。そう、だが、


 ――足場が、ないのだ。


 はしごに登った状態から手を伸ばしても錠前には手が届かなかった。

 かといって無理な体勢をすれば落ちてしまう。

 扉の位置の高さは天井に近い位置にあるので大体15メートル。

 落ちると運が良くても骨折、当たりどころが悪いと死んでしまう高さだ。


 つまり、カギを見つけても……開けられない。


「……どうしようか?」


 絶望感が、僕ら4人を包んでいた。



 ――1時間15分経過



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