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4:「場を誤魔化すときはゴリラが出る」

 学校に着いた僕ら4人と神さま。

 走ったおかげでまだ時間に少し余裕があるようだ。

 僕は預かっていた鞄を舞に返す。


「んじゃみんな昼休みにな! 竜也も土掘ってモグラっぷりをアピールしろよ!」

「せっかく神さまから貰った力だもの、有効活用しなきゃね……ぷっ」

「鞄ありがとっ! 人気者になれるチャンスだよ! 頑張って!」


 幼なじみの3人は、そう言いながらそれぞれの教室に入っていく。

 僕らは4人とも別のクラスなのだ。


「しないよっ! まったくもう……、また昼休みにね!」


 僕が3人にそう言って別れを告げたとたん、


『……ん? そうか、4人とも離れるのじゃったな。では……タツヤっ!』


 学校に入るとき人に見られないようにと、舞にひっついていたミコトが、ぴょーんと僕に向かってジャンプしてきた。


「うわっ! なんで僕のほう来るの? 舞のところでいいじゃん……」

『おぬしは少々特別じゃからのぅ。まぁ良いではないか』


 ミコトはそう言ってモゾモゾと制服の内ポケットに入り込んだ。


「そっかぁ……わかった。竜也くん、ミコトちゃんをよろしくねっ! また昼休みに!」

「う、うん! 昼休みで!」


 残念そうな様子だが、舞もミコトの意思を尊重したようだ。

 改めて自分の教室へ入っていく。


 はぁ、昼休みまでの時間をミコトと一緒にいなきゃいけないのか。

 やれやれ……。


 も自分の教室に入る。すたすた歩いて自分の席に座ると、


「おはよ、相変わらず賑やかな4人だね」


 隣の席の女の子が珍しくも話しかけてきた。


「おはよう。ははっ、ごめんね朝からうるさくて……」

『タツヤのくせに朝から女の子に話しかけられるとなかなかやるぎゃ!』


 僕は慌てて胸ポケットを叩く――しゃべるな、と。


「……いま女の人の声聞こえなかった?」

「はは、空耳じゃない?」

『タツヤ! 何をするのぐぇ!』


 今度は強めに叩く――だからしゃべるなよ、と。


「やっぱり聞こえるんだけど…………なんで胸を叩くの?」

「あぁ、それは……。えっと、僕ゴリラに憧れているんだ。いいよね、ゴリラ。知ってる? ゴリラって威嚇するとき自分のウンチを相手に投げつけるんだ。カッコイイよね」

「あ……うん。そうだね。ごめん予鈴なるから」


 そう言って、隣の席の女の子は慌てたように僕から目を背けた。

 ちなみに予鈴は鳴らなかった。


 あぁ、終わった……。

 なんてこと言ってしまったんだ僕は……。


『ぷぷっ』


 くっ……! お前のせいで……!


 今度はムカつきで胸を叩いた。


『へぶっ』

「…………ばい、やばいよなんか……」


 隣の女の子が反対方向の男子生徒にひそひそ話しかけている。


 ふふっ、グッバイ、エンジョイライフスクール。

 心の中でさめざめと泣いた。顔は、なぜか笑っていた。



※ ※ ※ ※ ※



 よしよし、やれば出来るじゃないか。


 授業中はさすがにミコトも雰囲気を察したのか、終始黙ってくれていた。

 1時間目が終わって次の授業が始まるまでの休み時間、みんなに聞こえないよう僕は小さな声でミコトに話しかけてみる。


「おい、次の授業もそのまま空気をよんで黙っていろよ?」

『……ん? なんじゃタツヤ、わしは今考え事をしているのじゃ。あまり話しかけるでない』


 前言撤回、こいつは周りの空気を読んでいなかった……。

 たまたまかよ、はぁ。

 でもどんな理由にせよ黙っていてくれるのはこちらにとってありがたい。


「……わかったよ。いいからそのまましゃべるなよ?」

『…………』


 無視ですか。そーですか。

 ふんっ、別にこっちだってお前に話しかけたいわけじゃない。

 何を考えているのか知らないけど。このまま黙っていてくれればそれでいい。


 僕はミコトの存在をいったん頭から外して、次の授業の教科書を取り出した。


 そのまま時間が過ぎて、今は4時間目の授業の途中、これが終わったら昼休み。

 ミコトはずっと無言のまま。


 昼休みになったらミコトを舞に渡せばいい。

 僕がそう思って安心しきっていたところに、


『これじゃ! おいタツヤ! これでおぬしの願いも叶うしわしも楽しめふぎゅ!』


 慌てて胸ポケットを叩く。

 すると叩いた音が響いた僕のほうを見た男性教師が、怪訝な表情を浮かべて授業を止めた。


「……井土、どうしたいきなり。なぜ胸を叩く」

「えっと……、第6感です。シックスセンスです。感じました。この教室には悪霊がいます。でも安心してください。今僕が退治しました」

「……そうか。ありがとう。だが授業中は静かにな」

「……はい」


 うわあああぁっ!

 またやっちゃった!

 僕はどんなキャラなんだよ!

 あぁ……、あの平凡を嘆く日々に帰りたい……。

 もうここから挽回するのは僕には無理だ。


『おい、タツヤ』


 落ち込んでいると、ミコトが小さな声が話しかけてきた。

 また授業を止められたら敵わないため、僕も小さな声で返す。


「なんだよ。お前のせいで僕の学生生活が崩壊したんだぞ、あまり話しかけるなよ」

『それはおぬしが変な言い訳するからじゃろう。わしのせいにするな』


 ……お前がしゃべらなければっ!

 いや、大人になるんだ井土竜也。クレバーに。

 今までそれで上手くやってきたじゃないか。


「……で? なんだよ? なんか用か?」

『うむ、おぬし好きな女子はおるかの?』

「は!? そんなのもしいてもお前に言うわけないだろ!」

『ちと、おぬしの意思を確認しようと思っての。タツヤ、おぬし生きていて楽しいかの?』


 くぅ、どの口でっ。

 たった今お前のせいで楽しくなくなったよっ!


「楽しくない」

『それはなぜかの?』


 それは……。どうしてだろう。


 思わず出た言葉だが、僕は考えてしまった。


「なんでそんなこと聞くんだ?」

『だから確認じゃよ。おぬしの意思の』


 だからなんで確認を取るのか、それを聞きたかったんだけど。


「……はぁ、まぁいいや。そういえばミコト、お前学校来たとき僕のこと特別って言っていたよな? なにが特別なんだ?」

『あぁそれはの。わしとタツヤは波長が似ておるんじゃよ。だから特別なんじゃ』

「波長が似ている? 僕とお前が? 信じられないなぁ」

『3月に神社に来たとき、わしの声が聞こえたんじゃろ? それがれっきとした証拠じゃよ』

「そういえば、みんなは聞こえてないようだったな……」


 特別とは、そういう理由だったのか。

 なんとなくこいつと波長が合っている、というのはイヤだなぁ。


「あとさ、なんでかみんな、あの旅行のことを覚えてないみたいっていうか……、深く考えてないっていうか、僕しか気にしてないみたいで、ちょっと違和感あったんだけど」

『それは力を使うときわしがそういう風にしたんじゃ、タツヤには効き目が薄かったみたいじゃがのう』

「……なんでそんなことしたんだよ?」

『本来神と人は触れ合ってはいかんのじゃ。まぁわしは例外じゃろうけどのぅ、一応な』

「なんだよそれ? 神さまにも決まりがあるってこと?」

『わしは付喪神じゃし神の中では格も低い。そういうのは疎いほうじゃがな。決まりは守らねば罰則もあるらしいからのぅ』


 ふぅん、神にも社会があるんだなぁ……ん? 罰則?


 ミコトは、低い声で語り始める。


『タツヤ、わしはのぅ、400年間ずっとあの手鏡のままじゃった。知っておるかの? 付喪神が神になる経緯を。

 正式には九十九(きゅうじゅうきゅう)と書いて九十九(つくも)(かみ)と呼ぶのじゃ。

 九十九年間、月の光を浴び続けると物にも意思が宿り、神に昇華出来るのじゃ。

 わかるかの? わしは意思が芽生えた300年もの間、ずっと動けんかった。

 ずっと、何も出来なかったのじゃ。

 ……わかるかの? この苦しみが、この絶望が、おぬしに理解できるかの?』


 今までのふざけた口調とは違う真面目な物言いに、僕は気圧された。


「突然なんだよ。そんなのわかるわけないだろ?」


 つい、冷たく言ってしまった。

 それを受けたミコトは、ふっ、と小さく鼻で笑う。


『わしはの、もう生き飽きたんじゃ。死ぬ機会をずっと探しておった。だが自分では動けん、どうしようもなかった。

 だからあのとき、雷が神社に落ちたとき。これでもう開放されると思った。やっと死ねると。

 ……だがあのとき……自分に危険がせまったとき、わしはなぜか言ってしまった――“たすけて”と』


「…………」


『嬉しかった。命が助かったことが。そして力を使った。助けてくれた4人にお礼をしたかった……みなの役に、立ちたかった。

 タツヤ……、わしは手鏡の姿でおぬしを1ヶ月見ていた。だが……正直もう見ていられんかった。

 タツヤ、おぬしもわしと同じじゃった。人生に飽きておる。

 人生を楽しんでおらん。

 なんとかしてやりたいと。ずっと……心配しておったよ』


「…………」


『タツヤ、もう一度聞く。おぬしは自分を変えたいかの?』

「……そりゃ変えられるものなら変えたいさ! 僕はもう“モグラ”が、嫌なんだ……!」


 つい大きな声で言ってしまった。


『あい、わかった。おぬしの気持ちを受け取ったぞ』


 そう言って、ミコトはまた黙ってしまった。


 なんだよ。人のことわかったように。

 なんなんだよっ……!


 会話が終わって静かになったそのとき、クラスメイトたちのひそひそ声が聞こえてきた。


「……ひとりごと……? 自分の胸に向かって、ぶつぶつしゃべってるよ」

「違うよ、霊としゃべっているんだよ」

「ゴリラになるためのイメージトレーニングじゃない?」


 あぁ、またやってしまった……!

 僕は某キャラのように、真っ白に燃え尽きたまま4時間目を過ごした。



※ ※ ※ ※ ※



 授業終了のチャイムが鳴った。昼休み突入だ。

 クラスのみんなに、白い目で見られながらひそひそと噂される拷問が終わりを告げたのだ。


 僕は重い足取りで皆との待ち合わせの場所に向かう。


 高校に入ってから、お昼ごはんは決まって屋上で食べるようになった。

 本来危ないとのことで鍵がしてあるのだが、「せっかくあるのにもったいない」と香澄がどこからか合鍵を持って来たので、僕ら4人の秘密基地になったのだ。

 どこから調達してきたのだか。


 誰にも見られないよう注意して、屋上へ続く階段を上っていく。

 施錠されているはずの鍵が開いている、どうやら先に誰か屋上に来ているみたいだ。

 扉を開けると眩しい日差しが目に入った。光を遮るようにと、手のひらで目を隠す。


「遅かったわね、竜也」

「聞いたぜー。ゴリラのマネしたんだってな? モグラからゴリラにジョブチェンジか?」

「ミコトちゃん大丈夫だった? 噂でひとりごと言っていたって聞いて心配してたんだ」


 3人ともすでに屋上に集まっていた。

 もうさっきの噂まで出回っているようだ。


 携帯電話を使ってまで噂を広めるなよこんちくしょう。

 授業は真面目に受けましょう!


「ねぇ竜也。ミコトは?」

「うん。胸ポケットに……」


 香澄がそわそわと僕を見ながら、手をわきわきさせている。

 まだ無言で何かを考えているミコトを取り出して香澄に渡した。


「考え込んでいるミコトも可愛い」


 香澄はそう言いながらすりすり頬ずりをする。

 幸せなのか、頬が緩んでいた。


「さぁ~飯だっ! ミコトのおかげで熱いものが食えるようになったんだ。感謝しなくちゃな! 今日は魔法瓶にお湯入れてきたんだぜ? へへっ」


 得意気にカップラーメンを取り出してお湯を注ぐ紅葉。


「えへへ~、舞もお菓子をいっぱい持ってきてるよ。ミコトちゃん、一緒に食べよ?」


 舞の言葉に返事は返ってこない。

 ミコトはまだ無言で香澄にすりすりされている。


 僕はなぜかその光景にムカついたので、ミコトにデコピンした。


『ふみゅ! ……はっ! ここはどこ? わたしはだれ?』


 おいおい、ショックでじいさん口調じゃなくなっているぞ。

 少しやりすぎたかな。


『おいタツヤ! ぽんぽん叩きすぎじゃ! わしは神さまじゃぞもっと敬え!』

「何が神さまだ。このチビすけ!」


 ふん、ミコトのせいで僕のクラスでの評判は地に落ちたんだ。

 これくらいの罰は当然だよ。


『……あくまでも謝る気はないようじゃな。ちょうどいい。さっき素晴らしいことを思いついたのじゃ、ふっふっふ、今さら泣いて謝っても許してやらんぞ?』

「誰がそんなことするか!」


 僕は怒っているんだぞ。

 こっちが逆に謝ってもらいたいくらいだ。


『カッチーン。よしわかった。わしにそんな口をきいたこと、後悔させてやるわ!』


 カッチーンって自分で言うなよ。恥ずかしいやつ

 僕がそんなことを考えていたとき、

 

 ――気づくと視界が暗闇に包まれていた。


「は……?」


 ここ……どこだ?


「な、なんだ!? 真っ暗で何にも見えないぞ!? 俺のカップラーメンは!」

「あれ? 私はいまミコトをすりすりしていたはず……。なんで視界が暗いの?」

「ふぇ!? なんで何にも見えないの? あっ持っていたお菓子がない! どこ!? 待ちに待ったスイーツタイムはー!?」


 僕以外の3人もここに飛ばされているらしい。

 だがやはり事態をつかめていない。


「……ミコト! どこにいるんだ! ここはどこなんだ!」


 ミコトに状況説明をさせるため話しかけた。というか叫んだ。

 すると返ってきたミコトの声はなぜか上の方から響いて聞こえてきた。


『ふっふっふ、みな上手くここに来たようじゃの。ここはのぅ、わしが作った「げーむ」の中じゃ。この試練を乗り越えることが出来ればみなは1つずつ神の奇跡を使うことが出来るぞぃ。精一杯頑張るようにな』


 ……は? ゲームの中?

 どういうことだ。意味がまったく分からない。


 僕も含めて4人とも驚きすぎたのか、言葉を出せずぽかん、と口を開けてミコトの説明を聞いていた。


『1ヶ月間、わしは手鏡の姿でタツヤにひっついておった。そして色々なものを見た。

 見たことのない風景、見たことのない食べ物、そして……見たことのない、遊び。

 その中でも1番とびっきりだったのが“げーむ”じゃ!

 あれはすごいのぅ、いやはや、時代の移り変わりを感じたわぃ。

 そしてわしは思った! わしも「げーむ」で遊びたいと! みなと一緒に遊びたいと!

 どうじゃ? この「げーむ」を解決出来ればみなの願いは叶うしわしの願いも叶う。一石二鳥の企みじゃろ?』


 ミコトはふふん、と得意げに言う。

 相変わらずどこからしゃべっているかはわからない。


「「ふざけんなっ、今すぐここから出せー!!」」


 幼なじみ4人の声が重なった。

 きっと今なら心も1つになっているに違いない。


『それは無理じゃのぅ、なんせこの“げーむ”を作ったことでわしの神力は切れてしまったのじゃ。早く戻りたいのならげーむを解決するしかないのぅ』


 返ってきたのはミコトの無情な言葉。

 そして、みな準備はいいかのぅ、とミコトが確認をとってきた。


『あ、言い忘れておった。この「げーむ」に失敗すればみなの命はないからの』

「え!? ちょっとまっ」


 その言葉を遮るように手鏡の付喪神・玉依ノ命が始まりの合図を告げる。


『さぁ、命を懸けた脱出げーむの始まりじゃ。頼むからわしを退屈させんでくれよ』

 

 真っ暗だった空間が明るくなり、4人の命を賭けたゲームが幕をあけた。



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