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3:「モグラだけ方向性が違う」

『なんじゃ、おぬしらわしが怖いのか? ……ふぅん』


 手鏡を落として割ってしまったと想ったら、思わず目を瞑ってしまうほどの光があふれて、気が付いたら小さな女の子が現れていました。

 うん、なにを言っているのか全然分からないね。


 僕らの反応を見た小さな女の子は、顎に手をやってにやり、と笑うと、


『とつげきじゃーーー!!』


 全速力でこちらに向かって走りだした。


「「うわあああああぁぁぁっ」」


 僕らは2人で必死に近くの電柱へよじ登る。

 人間、本気を出せば意外と凄いことできるんだ。


『あははははっ、愉快ゆかい! 外の世界は面白いことがたくさんあるのうっ』


 小さな女の子は、僕らを見てケタケタと電柱の下で笑いこけていた。


 く、くそう! 僕らの行動を笑ったなっ。


「おい竜也、俺あいつぶん殴ってもいいか?」

「止めはしないよ。でも待って紅葉、得体のしれない相手と戦うには情報が足りない。少し様子を見た方がいいんじゃないかな」

「一理あるな。それじゃあ唾でも吐きかけてみるか」

「いいね、付き合うよ」


 そんなアホなやり取りをしていたら、先ほどの光を見たのか香澄と舞が戻ってきていた。


「たつやー? さっきの光はなんだった……キャー☆」

「竜也くん、どしたのー? ……はぅ! か、かわいぃー☆」


 2人とも小さな女の子を見たとたん、ダッシュでこちらに向かってくる。

 すごい勢いだ。さらに電柱の上へ非難したくなるくらい恐い。


「なにこれ! かわいすぎ! お持ち帰りしていい!?」

「おかし食べるかな? ねぇこれ食べる? あなたのお名前はなにかな~?」


 小さな女の子を囲むようにしゃがんで、キャッキャと話しかける女子組2人。

 香澄は若干キャラが崩れるほどテンション高めで、舞は小さな女の子を不気味に思うことなく、学生鞄から取り出したクッキーで餌付けしようとしていた。


 いやいや、いくらなんでもそんな簡単にコミュニケーションが取れるわけ――


『ふむ、くれるのかの? ……うむ、うまい! おかわりじゃ!』


 小さな女の子も、特に警戒することもなく貰った食べ物にかぶりついていた。


 ……なんか、思いのほか和やかですね。

 あれ、これってもしかして勝手に恐がった僕らがマヌケだった?


「おい竜也……、降りようか?」

「……うん」


 僕らはそっと電柱から降りた。



※ ※ ※ ※ ※



 遅刻しても困るので、とりあえず舞の手のひらに小さな女の子を乗せて運びながら学校へ向かう僕ら幼なじみ一行。

 周りの人に見られたらどう説明したらいいかわからない、ということで舞の手のひらを隠すように左側に竜也、右側に香澄、前方に後ろ向きで歩く紅葉がいた。


 ガラスが割れた手鏡は、とりあえずまた鞄にしまう。

 あのまま放置もしておけなかったし、破片も集めてしまっておいた。


『ふむ、これはなかなか良い乗り心地じゃの。マイ、クッキーをもう一枚』


 手のひらの揺れに感想をもらしながら、小さな女の子は図々しくもお菓子のおかわりを要求していた。


 ……ん? マイ?


「えへへ、いっぱい食べてね♪ 竜也くん、鞄から取ってくれない?」

「わかった、あっ鞄も僕が持つよ」

「ありがとー!」


 舞の視線は小さな女の子にかぶりつきだったから、お礼の言葉はあまり胸の内に響かなかった。

 学生鞄を受け取りつつ、中を覗く。


 うわっ、お菓子だらけ!

 勉強道具の方が少ないじゃないか……。さすが舞だな。


 鞄の中身に呆れつつも、とりあえずクッキーを取り出し小さな女の子に渡した。


『うむ、くるしゅーないぞ』

「……う、うん」


 そ、尊大だなぁ!

 苦しゅうないって、きょうび聞かない言葉だよな。


「それで? あんたはいったい何者なんだよ?」


 紅葉が警戒心たっぷりに質問していた。

 女の子は、自分の体と同じくらいのサイズのクッキーにかぶりつきながら返事を返す。


『ふむ? わしはのぅ、神さまじゃ』

「は……? 神さま? ……まぁ、どう見たって人間のサイズじゃないしなぁ」


 紅葉は女の子の答えに、首をかしげながらも納得していた。


 え、納得するなよ!

 神さまって、説明になってないだろ!


 ……なってないよね?


「なんだっていいのよ、かわいいは正義なんだから」


 そう力強く宣言する香澄。

 息づかいが荒い。まぁ、その理屈には納得できなくもない。


『すごいねぇ~神さまなんだ~。お名前はなぁに?』


 舞は頬を緩ませながら女の子の名前を聞いた。


『わしの名は「玉依(たまより)(みこと)」という。長いからの、ミコトと呼んでくれ』

「わかった! ミコトちゃんだね! えへへ♪」


 女の子は意気揚々に名乗り上げる。

 舞は嬉しそうに、自分の手のひらにいる神さまに笑いかけていた。


 ……なんで、みんなそんなに受け入れるのが早いんだ?

 怪しすぎるだろう。ていうか人間サイズじゃないだけで、怪しさ満点だろう。


「それで? なんであんたは僕らの前に現れたんだ? あとさっき“マイ”って呼んだよな? まだ僕らは名前を名乗ってない。どうやって知ったんだ。あと、神ってどういうことなんだ。なんで手鏡が割れたら出てきたんだ、あの手鏡はなんなんだ」


 だからだろうか。

 つい、強い口調で疑いの言葉を次々投げかけてしまう。


 僕の警戒心を感じたのか、ミコトと名乗る小さな女の子は、


『ミコト、と呼べと言うておろう。ちゃんと呼ばんと質問に答えてやらん』


 ぷいっ、と顔を背けてしまった。


 なんて腹立たしい。

 だが。が、我慢だ……!


「ミ、ミコト? 質問に答えてくれる?」

『ふむ……、顔が怖い。先ほどから態度も悪いの。イ・ヤ・じゃ』


 こ、こいつ! 性格悪いぞ!

 あっかんべーとか、いちいち古めかしい動作しやがってこの野郎っ。


 僕らのそんな険悪な雰囲気を感じ取ったのか、舞がミコトにお願いする。


「ね、ねぇそんなこと言わないで、教えてもらえると嬉しいな、ミコトちゃん。ホラっ、クッキーもっといっぱい食べていいよ!」

『おぉ! マイがそう言うなら仕方がないのぅ。おいタツヤ、よぉーく耳をかっぽじってありがたく聞くのじゃぞ?』


 ミコトはコホン、と一息入れて、


『わしはのぅ、付喪神つくもがみじゃ。タツヤが持っておる手鏡が本体になる。歳は今年で400にはなるかの。だがタツヤが落として割ってしまったせいで外の世界に出られたようじゃな。それと、マイの名前を知っておったのは手鏡を通して聞いていたからじゃ。カスミに、モミジ、じゃろ?』


 ふふん、とミコトは2人を指差し名前を言い当てた。


 ま、マジか? マジで神さまなのか?

 400歳……なるほど、それでじいさん口調なのか。

 あれ? ということは旅行の時の――


「なぁ、ミコトはあの神社にいたんだよな? じゃあ、あの時『たすけて』って僕を呼んだのも……?」

『むろん、わしじゃ』


 そうだったのか。

 旅行の時の声、助けを呼ぶ声。

 あの声、こいつだったのか。


 なんだか力が抜けてきたな……。


 あれ? じゃあどうして何も覚えてないんだろう。

 あのとき、僕は意識を失ったあと気付くと自分の部屋のベッドで寝ていたんだ。

 もしかして、それもこいつが……?


『そうそう、そういえばまだ礼と告げておらんかったな。あのときは、わしを助けてくれてありがとう。おぬしらも身体は大丈夫かの?』

「からだ? なんともねーけど……、てかなんかあったっけ?」


 紅葉……、お前はホントなにも覚えてないんだな。

 旅行のことをまるっきり忘れているのか?


「あったよぉ~、旅行のとき、倒れてきた柱にみんな潰されちゃった……あれ? なんで舞たち無事だったんだろー?」


 舞……。

 お前も、いま初めて疑問に思ったのか……?


「身体が無事、ねぇ。そういえば……、あの旅行のあと、舞は虫歯、紅葉は猫舌が治っていたわね。もしかして、ミコトが何かしてくれたの?」


 香澄、お前だけは信じていたよ!

 僕もなにか、おかしいと思っていたんだ!


『その通りじゃ。わしは人の為にしか力を使えんのでな。助けてくれたお礼に、と思っての。気に入ってくれたかのぅ?』

「「そ、そうだったんだ。ありがとうミコト(ちゃん)!」」


 紅葉と舞がミコトに感謝の言葉を述べている。

 懐柔されるのが早いよ。


 でもそうか、コンプレックスが治っていたのは、こいつの仕業だったのか。

 ……あれ? でも、そうなると……僕と香澄は?


「そう、やっぱりミコトの力なのね。ということは私も何か治してくれたの?」


 僕の疑問を代わりに口にしながら、香澄はミコトを期待を込めた目で見つめていた。


『香澄はのぅ、泳げるようになっているはずじゃぞ?』

「…………ホ、ホントに……? 今までなにをしても泳げるようにはならなかったの。本当に私のカナヅチが治ったの?」


 香澄はミコトの言葉が信じられないのか、とても動揺していた。


『だからホントじゃと言うに。わしが信じられんのか?』


 ミコトがえへん、と自信ありげに胸を張る。

 信じられるわけないだろう。怪しさ全開じゃないか。


 香澄は泣きそうに目を細めながら、自分の手のひらを見つめていた。


「本当に治ったの……?」


 どうやら本当に、ミコトは3人のコンプレックスを治しているらしい。

 じゃあ――


「な、なぁミコト。香澄は『カナヅチ』、舞は『虫歯』、紅葉は『猫舌』。じゃあ僕は? 僕は何が治っているんだ? 自分じゃ分からないんだ。教えてくれよ」

『……タツヤか、タツヤはのぅ、ちと言いにくいのぅ。みな、タツヤの弱点はなんじゃと思う?』


 ミコトに促され、紅葉、香澄、舞は順番に答えていく。


「地味なところだろ」

「……モグラ?」

「えとえと……ちょっと、暗いところ」


 みんな……。

 一応自覚はしているつもりだけど、さすがに傷つくよ……。


『ぷぷっ、カスミ、正解じゃ』


 口に手を当ててクスクス笑うミコト。


 こ、こいつ。つぶしてやろうか!


 えっ、ちょっと待ってくれよ。

 ということは――僕が治ったコンプレックスは……『モグラ』か!?


「モ、モグラってなんだよ。いったい僕は何が治ったんだよ!」

『タツヤはのぅ。土を掘るのが上手くなったのじゃ。ほら、モグラは土を掘るのが得意じゃろ?』


 ミコトは、空中をスイスイ掘るようなジェスチャーしている。


 えー……、ショック~……。

 しかもそれ、モグラが治ってないじゃん。逆にモグラが進行してるじゃん。


 ミコトの言葉を聞いたみんなは、もう我慢できないと言ったように、


「モグラーーー!! 竜也よかったじゃん! これでモグラそのものじゃん!」

「ぶはっ! お、お似合いね竜也。おめでとう、これで今日から掘削機の仲間入りよ」

「み、みんな……笑っちゃかわいそうだよ。……くすっ、かわいーね。モグラ……くすくす」


 ギャハハハと腹を抱えて笑う紅葉。

 吹き出しつつ、またも新しいあだ名をつけてくる香澄。

 舞に至っては笑っているのを隠せていない。


「…………」


 死のう、死んで人生やり直そう。

 次の人生ではきっと楽しいことが待っているさ。

 そして“モグラ”なんて二度と呼ばれないよう、精一杯頑張るんだ……。


『タツヤ、気に入ってくれたかのう?』

「アホかーーー!! 気に入るわけないだろ! しかもモグラ治ってないだろ! どうして僕だけそうなんだっ! 断固やり直しを要求するぞっ」

『すまんのぅ、タツヤだけは、どうしたらいいか分からんかったのじゃ。それならばいっそ、モグラに近づけてしまえ! とな』

「ふ、ふざけんなよおまえっ!」


 最悪だ。

 最悪の判断をされてしまった。

 せめて事前に相談して欲しかったよ。


 どうしてみんなは普通に喜ばしいことで、僕だけこんなに不遇な扱いを受けなくちゃならないんだ。


『名の通り“モグラ”らしくなったじゃろ? それにやり直すのは無理じゃのぅ。力を使うには段階をふむ必要があるんじゃ。どうしてもイヤかの?』

「イ・ヤ・だ!! 即刻やり直しを要求する!」

『ふむ……』


 そう言ったきりミコトはしゃべらなくなった。何か考えこんでいるようだ。


 立ち止まったまま話をしすぎた。登校時間は刻一刻と過ぎている。

 黙っているミコトを手のひらに乗せたまま、時間がそろそろ危ないと僕ら4人は走って学校へと向かう。


 学校に着くまでのあいだ、僕はモグラネタで3人からバカにされまくった。

 少し泣きそうになった。


 いや、泣いた。



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