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19:「騒がしい日々はまだ続いていくENDでお茶をにごす」


 あの地獄のような思いをした脱出ゲームから1ヶ月が経った。


 相変わらず何もない日々、平和な毎日。つまらない日常。

 ――でも変わったことが3つある。


 1つはまたサッカー部に入ったこと、また頑張ろうと思って。

 相変わらず性格は暗いままだけど。いいんだ、ゆっくりで。


「竜也、最近雰囲気変わったね。明るくなった気がする」

「そう? ありがと。ねぇ香澄……たっちゃんて、もう呼んでくれないの?」

「っばか! ふ、二人きりの時に、呼んであげるわよ……」


 香澄は顔を赤くして先に歩いていってしまう。ういやつめ。

 2つめは、もう説明しなくても分かってしまうことだけど、僕に可愛い彼女が出来ました。でへ。


 それと……、3つめは、友達が増えた。


『タツヤ! 今日はなにをする? 昨日は「からおけ」に行ったからのぅ。次はなにに手を付けるか……』


 学生鞄からひょこっと顔を出したミコトは元気にそう言い放つ。


「おいおい、部活で僕は疲れているんだぞ。少しは手加減をしてくれよ……」

『なにを言う! 遊べと命じたのは他ならぬおぬし達じゃろうに。わしはまだまだやってみたいことが沢山あるんじゃぞ』


 そう言いながらの満面の笑み。

 まったく……。この騒がしい神さまはいつも変わらないなぁ。


 後悔なんてしていない、あのときの選択を。

 ただ、やっぱり少し疲れるんだよね、この神さまと一緒にいるのは。


「大体お前はだなぁ……」


 瞬間――僕の言葉を遮るように目の前に光が溢れる。


「え? な、なんだ……!?」


 この光、ミコトのものと同じような……なんだか嫌な予感がするよ!


『探しましたよ、玉依たまよりノ(の)みこと。まったく、自分の神社を放っておいてこんなところで遊んでいるとは……。お仕置きが必要ですね?』


 綺麗な長い白髪に、動きにくそうな十二単。

 神秘的なくらい美しい女性が目の前に現れた。

 ミコトが人間サイズになると、こんな感じだろうか。


 ていうか、この美人さんよく見ると宙に浮かんでいるんですけど!?


『あ、あわわ……見つかってしもうた……』


 ミコトはその女性を見てから、がちがちと歯を合わせて震えている。

 えっと、知り合い、なんだよね?


「ミコト、なんでそんな怖がっているんだ。お前を見ていると逆に落ち着いてきたよ」

『もうダメじゃ、わしはもうおしまいじゃ……すまんの、せっかく助けてくれたのにもうお別れのようじゃ……うぅ、ぐすっ』


 そんなに泣くほど怖いのか……。

 ていうかミコトの知り合いって、まさかこの人も神さま、なのか……?


『そうですね、あなたは規則を犯しました。よって罰則があります。心して受けるように』


 宙に浮いている美人は、そうにこやかに告げる。


『うぅ、こ、怖いぃ……ぐす』

「ちょ、ちょっと待ってください! あなたは何者ですか!? それに罰則って、ミコトは何もしていないでしょうっ」


 話に割り込んで、つい目の前の女性に食って掛かってしまう。

 あまりにも事情が分からなすぎるよ。


『……ふぅ、あなたですね、玉依ノ命が消えゆく運命を変えてしまったのは。あなた達4人にも、罰則がありますよ。覚悟をしておいてください』


 僕たちにも!?

 い、いやそれよりも――


「あなたは誰なんですか! それに僕たちは友達を救っただけだ、罰を受けるいわれは無い!」

『タ、タツヤぁ、ぐす、逆らうのはやめぃ、こやつは、いやこのお方は……』


『申し遅れました。私は「夜陰やいんざくら」、櫛の付喪神。サクラとお呼びください。関係は、この子の上司みたいなものです』


 そう言って一瞬溜めたあと、


『あなた達が犯した罪とは、神と人が係わりすぎたこと。それだけです。神が奇跡を使って人を助けるまではよかった。玉依ノ命が消えてしまうことでそれは美しい神話となったことでしょう。ですがあなたはその運命を変えた、そして今も神と人が常に寄り添っている。それは見過ごせない事実なのです。よってあなた達は5人とも罰則を受けるのです』


 そう、涼やかに罪状を語り終える。


「ちょっと待ってください、頭が混乱してきました。えっと……サクラ、さん?」

『私のことは呼び捨てでかまいませんよ。タツヤ殿』

「いや、あなただって僕を呼び捨てじゃないじゃないですか。サ、サクラさん、あなたが言わんとしてることは理解しました。ですが納得は出来ません。僕たちが罪を犯したということを認めてしまったら僕はあのときのことを誇れなくなる。そんなことは絶対に出来ない」

『た、タツヤ、おぬしがそこまでわしのことを思ってくれているなんて……うるうる』


 うるさいなっ、相変わらず空気をぶち壊すやつだ、ちょっとお前は黙っていてくれよ!


『存外、真直ぐですね。気持ちのいい青年です。気に入りましたよ。では少しだけサービスしてあげまましょう。選択権を与えますので、どちらか好きなほうをお選び下さい』

「せ、選択権……? どのようなものです?」


 なぜかこの人には敬語を使ってしまう。

 これが格の違いってやつか……誰かさんとは違うなぁ。


『一つ、記憶を消します。あなた達が玉依ノ命に出会ってからのことを全て、消去します。当然与えてもらった能力も消えることになるでしょう』


 な、なんだって!?

 そんなことになったら、またコンプレックスが――


「も、もう一つは……?」

『一つ、あなた達も神になってもらいます。神になる道筋は苦しい試練の連続です、死んでしまうこともあるでしょう。ですが記憶はそのままです』


 ま、また命懸けか……、これは僕一人では決められない……っていうか神って!!


「あの、ちなみに本来の罰則はどちらのほうです?」

『当然、前者です。本来神と人は係わった記憶を持ってはならないのです』


 だから、僕たちも神になって記憶を守るのか……。


『タ、タツヤ! これは――はっ! うぅ……』


 サクラさんはミコトを睨んでいる。話しかけられたが途中で遮られてしまったようだ。

 あの人、顔は笑っているが目が怖い。


「あの、僕だけじゃ決められないので、みんなと話し合いたいんですが……」


 その申し出にサクラさんは少し考えてから、


『ええ、いいでしょう、選択権は全員に平等です』


 そう謂ってサクラさんはパチン、と指を鳴らした。

 すると僕の周りに3つの光が現れる。


「のわっ、な、なんだなんだ!? 俺の立ち食いそばは!? あ、朝の優雅なひと時がぁ……」

「……あれ、さっきと景色が違う……え? なんで竜也がここに? 私は先に行ったはず……」

「にょわぁぁ!? なんで外!? なんで舞ここにいるの!? あっ、服! 見ないでーっ」


 箸を持ったままうろたえている紅葉、

 冷静に辺りを見回すが事態はよく分かっていない香澄、

 そして、着替えの最中だったのだろう。制服を半脱ぎの状態でここに連れてこられた舞。


 かわいそうに……。でもちょっとラッキー。

 ギロリ、香澄に睨まれた、怖いよぅ……。


「あっ竜也! なんだこの状況は!?」

「竜也、この女性はだれ? なんか後光が差してて眩しいんだけど」

「うぅ~ぐすっ、見ないで~見ないで~……」


 三者三様の反応、舞は急いで制服を着直している。


『では、4人集まりましたね。どうぞご相談を』


 サクラさんは爽やかに告げる。

 なにもこんな風に集まりたいとは言ってなかった……。

 やり方が強引すぎるよ。


「あ、あのねみんな、実は……」


 かくかくしかじか。


「「なんじゃそりゃーーーっ!!」」


 説明を聞いた3人は、同じタイミングで叫んだ。

 やっぱり幼なじみだなぁ僕たち。


「う~ん。でも、悩むことないよな? こんなの」

「ええ……そうね、答えは一つしかないわ」

「これも竜也くんが誠実だったからだね、偉い偉い」


 み、みんなぁ。ということは――


「さ、竜也、お前が言ってくれ」


 僕ら4人とも、迷わず命懸けのほうを選ぶんだね。

 本当に、バカだよ……。


「分かった、じゃあ僕から言わせもらうよ。サクラさん、僕たちは神になります。記憶は、消さない」


 僕ら4人の目は澄んでいる、決意は固い。


『ふふっ、良いのですか? 個別に選択することも可能なのですよ?』


 サクラさんは不敵に笑っている、本当に嬉しそうに。


「ええ、僕たちはあの決断を後悔してません、なら、どこまでも突き通すまでです」


 もう僕は『モグラ』じゃない。

 みんながいる、恐れることは何もないさ!


『分かりました、では準備があるので一旦私は失礼します』

『タツヤ! みなもよく考えろ! これは罠……はっ、ぶるぶるぶるぶる』


 ミコトがなにか叫んだ気がしたけど……、震えている。なにかあったのかな。


『玉依ノ命、余計なことは言わないように』


 サクラさんは笑顔でミコトに忠告していた。

 今度も顔が笑っているが、目が、本当に怖い……。


『は、はいぃ……怖いよぅ……ぐす』


 ミコトはまた泣き出した。

 よっぽどサクラさんが怖いんだなぁ。


 目の前に浮かんでいるサクラさんから光が放たれる。眩しくて目を瞑ってしまった。

 次に目を開けると、もうサクラさんはどこにもいなかった。


『や、やっといった、怖かったよぅ……ぐす』


 ミコトはサクラさんがいなくなっても泣いている。

 いや、どんだけ怖いんだよ。


「どうしたのミコト、なんでさっきからそんなに怯えてるんだ。サクラさんは礼儀正しい良い人?  いや神さまだったじゃないか。サービスもしてくれたし」

『アホぅ! おぬしらはサクラの本性を知らんから笑ってられるのじゃ! だいたい罰則なんて嘘っぱちに決まっておろう! サクラがでっち上げたのじゃ、なぜ気づかん!!』


 えぇ!? な、なんだって……?


「だって、お前が言い出したんだろ、罰則がどうのこうのって……」


『だからお前はバカなんじゃ! わしらは付喪神、本来「人の物」なんじゃぞ! 人に触れるのが仕事みたいなもんなんじゃ! それに規則に反しておったのなら、もっと大物の神さまがくるわい! それこそ選択権なんぞないほど、一瞬でわしたちはお叱りを受けておるわ!』


「だ、だって、記憶を残したらどうのこうのって……」


『だ・か・ら! わしは例外だと言ったじゃろう! 付喪神は人と係わり合いになる機会が多い、そんなものいちいち禁止していたら付喪神なんぞやってられんわ! それに、おぬし達が命じたんじゃろう! みなと「遊べ」と! だからわしがもうおぬしたちと一緒にいても何も問題はないんじゃ! 口車に乗せられおってバカモンがーーっ。げほっげほっ、しゃべりすぎて息が切れた……』


 ぜぃぜぃと息を切らせながら、文句をまくし立てるミコト。


 なんてことだ……それが本当なら僕は、とんでもないことを――


『とんでもない奴に目をつけられてしまった。サクラはわしよりも長生きしておる。当然蓄えた力も格段に多いぞ。まさかあやつに見つかるとは……最悪じゃ。しかもみなまで巻き込むとは……想定外じゃった……』

「え、ってゆーかどうやって知り合ったんだ? ミコトは手鏡の中で動けなかったんだろ?」


 紅葉は話の流れで気になったことを聞いていた。


『年に一度、神が強制的に一カ所に集まらねばいけない時期があるのじゃ。ほれ、10月は神無月と表されるじゃろう。日本中の神は出雲に集う、例え動けない神でも精神のみはな。そして、あやつに会うたびに、わしはいつもいじめられておった……。それにあやつは力があるので自由に精神を飛ばすことが出来るのじゃ、多分わしが行った脱出げーむを見ていたのじゃろう。でもあやつも所詮は付喪神、本体が動くことは出来んし、根本的に力は人のためにしか使えん。退屈しておったんじゃろう……』


「て、ことは、まさかサクラさんは暇つぶしのために……」


『じゃろうな、試練を受けさせるためにおぬしを煽ったんじゃろう。だから罠だと言ったんじゃ。やれやれ、まったく。タツヤの頭が悪いから……』


 サクラさんがいなくなったとたん、偉そうにするミコト。


「「たーつーやー (くーん)?」」


 事情を理解したらしい3人は、なぜか僕のことを睨んでいる。


「い、いやいや、みんなも了承したじゃないか。神になる試練を受けるって!」


「俺は一言もそんなこと言ってねーぜ。“悩むことない”って言っただけだ」

「私も“答えは一つしかない”って言っただけだわ」

「舞も竜也くんに“誠実だねー”って言っただけだよ」


 こ、こいつらー!!

 都合の悪い時になんて連携力だ! これも幼なじみスキルなのか!?


「「さぁ、責任取ってもらおーか!」」


 3人はずずいと攻め入ってくる。

 そのときまた目の前が光った。


『準備が整いました。さっそく神になる試練を……おや? さてはミコト、しゃべりましたね』


 突然現れたサクラさんがミコトをギロリと睨む。


『う、怖いぃ……だが今度ばかりは負けんぞ! タツヤ! 力を合わせてサクラを……あれ?』


 残念、ミコトがしゃべりかけたとき、僕はすでにその場にいなかった。


「もう命を懸けるのはこりごりだーーーっ」


 全てから逃げるように走り出す。

 だが、その足取りはしっかりと前に進んでいただろう。


 ――走る姿はさながら『モグラ』のようだけれど。


 だが、どこまで逃げても奴らは追ってくる。

 とても厄介で、とても可愛らしい外見の、人と一緒に遊びたがる『神さま』が。


 教訓:神さまに会ったら迷わず逃げろ、奴らはいつでも退屈している。



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