14:「空気を変えるための突然の告白」
2つの料理を食べきると器の底に暗号がでてきた。
『宝とカギは表裏一体――それは少し月に似ている』
『扉とカギは同一存在――それは一見目に見えない』
僕ら4人は食べ過ぎて重くなったお腹をさすりながら話し合う。
四角いテーブルに、僕の正面には香澄が、隣には紅葉が、香澄の隣には舞が座っている。
「……これ暗号だよな? うっぷ」
「2つ、あるね。あうぅ、お腹が気持ち悪い……」
紅葉と舞はお腹を抱えて気持ち悪そうにしている。
本当にお疲れ様でした。僕はあんまり役に立てなかったな。
「これを解けばクリアにつながる、と信じよう。じゃあみんなで意見を出し合っていこう、僕がそれをまとめるよ」
僕が投げかけた言葉に3人は頷く。
まず、香澄は天井からぶら下がっている宝箱と壁に埋め込まれている扉を指差した。
「この2つの文の最初。宝と扉っていうのは……あれとあれのことよね」
「そうだね、これは宝箱の、そして扉の2つのカギがどれなのかを示す暗号だと思う」
暗号の意味を考えながらそう答える。
「でも宝箱のほうは……全部試したんだぜ? ナゾときも何もないだろ?」
紅葉は近くに大量に積んである試し終わったカギを一瞥した。
「僕の考えとしては……宝箱のカギはどこかに隠されているんだ、と思う。扉のほうはまだ試してないからなんとも言えないけど……」
「あの中から一つ一つ扉に合うカギを試す時間はない、わね」
そうなんだ。やっぱりこの状況だと、
「じゃあやっぱり、ゲームをクリアするにはこの暗号の意味を考えるしかないね」
僕の考えを代弁するように、舞は2つの器のほうを見てそう言った。
「うん。出来るかぎり、わかることをみんあで話し合ってみよう」
もう時間はあまり残されていない。これが解けなければタイムアップ。
あせって答えを出すとなにかを間違える可能性が高い。あくまで冷静に、かつ急いで暗号を解析しなければいけない。
「みんな、なにか2つの暗号を見てわかったこと、こうだと思ったことはある?」
「そうだなぁ、扉のほうの暗号だけどよ。やっぱ扉のカギは宝箱に入っていると思うぜ。ほら、『それは一見目に見えない』」
「舞は『扉とカギは同一存在』が気になるなぁ。どういう意味だろ? 同じ色? 同じ材質ってことなのかなぁ? まさか扉そのものがカギなわけないし……」
「私は、そうね、宝の暗号のほう。『表裏一体』っていうのは『それは少し月に似ている』にかかっているのよね? 月に裏表なんてあるのかしら? それが気になったわ」
それぞれ、自分で気づいたことを言ってくれる。
「うんありがとう。じゃあまずは一つずつ。紅葉の意見から確かめていこう。扉の暗号の下の文、『それは一見目に見えない』。これはやっぱり宝箱に入っているからだと思う?」
冷静に。1つずつナゾを解いていくんだ。
焦ってはいけないんだ。
ここからは一つでも間違えたら――命が危ない。
「そうだねぇ、舞もそう思うよ」
「私も同意見」
「僕も、やっぱり宝箱は開けないといけないと思っている」
紅葉以外の3人も同じ意見だった。
おしっ、と紅葉は少し嬉しそうに拳を握った。
「じゃあ次に舞の意見。扉の暗号の上の文。『同一存在』の意味。これを考えよう」
その言葉で皆は一斉にうーん、とうなりだした。
「……俺はあんまり頭がよくねぇ。考えてもよくわからん」
「私もこれは自信がない。ただ……同じ色って線は薄いと思うわ」
「僕は……そうだね。僕もやっぱり同じ材質って意味だと思う」
舞もとりあえずは材質って意見が有力で。
保留1に色否定1に材質2。
「じゃあ同じ材質って線で考えてみよう。扉を見てなにかわかったことはある?」
僕はそう言って扉を指差す。
4人は一斉に壁の扉に視線を向けた。
「扉の色は黄色だな、周りの土は……黄土色っぽいぜ。あんまり見てると目がチカチカするな」
「あの扉……素材は木かな? 多分だけど。紅葉くんは登ったとき見たよね? どうだった?」
「私は扉の錠前が気になった。間違いじゃなければ少し大きいように見える」
「僕も最初にそう思った。明らかに宝箱の錠前より大きい。そうだなぁ……」
紅葉は、舞の質問に「たしか、木だったような……」と相槌をうった。
「じゃあ……もし宝箱が扉に関係なくてもいいように。あの試し終わったカギの中からさっき出た意見に合うカギを用意しておこう。保険は多いほうがいい」
もし宝箱に入っているのが扉のカギじゃなかったら? またふりだしに戻ってしまう。
紅葉と香澄はわかった、と言って椅子から降りてカギを漁り始める。
「みんながカギを探している間に舞はテーブルを片づけているね」
「ありがとう。僕もあの中からカギを探すね」
舞はそう言って暗号が書かれている器以外をテーブルから下ろしだす。
舞以外の3人は、ピラミッド状に盛り上がったカギを漁りだした。
それにしても尋常じゃないカギの量だ。これを皆は全部試してくれたんだ。手伝えなくて悪いことした。
やがて舞もテーブルを片づけ終わるとカギの捜索に加わる。
テーブルが片づいて今上に乗っているものは暗号が書かれている器2つと。
『黄色いカギ』と『少し大きなカギ』
壁に架かっているカギはすべて鉄製だった。
――『木でできたカギ』は、一つも見当たらなかった。
『お目当てのものがなくて残念じゃったのう? かかかっ』
いちいちムカツクやつだ。
ここから出られたら覚悟しておけよ!
――7時間55分経過
「やっぱ素材が木でできたカギは宝箱に入ってるんだよ。ぜってーそうだ」
「そうとしか考えられないわね」
自分の意見が間違っていないと確信したのか紅葉はうんうんと頷き、その意見に香澄も同意する。
僕もそう思う、けど・
「竜也くん、次はどうしよっか?」
「まだ香澄の意見を検証してない。一応扉の暗号はやれることはやった。まだわからないこともあるけど……『宝とカギは表裏一体――それは少し月に似ている』。次はこれを解きあかさなきゃ。時間はもう少なくなってきている。みんなの意見を聞かせて欲しい」
その問いに4人はそれぞれ、
「……そうだな、月っていえば……丸いよな。う~ん、関係ねぇかな。どういうことだ? ……やっぱ俺じゃわかんねぇ」
「うん、丸いよね。舞も普通球体に裏表なんてないと思う」
「僕もそう思った。でもただの球体じゃない。『月』って指定しているんだ。なにか意味があるんだ。球体じゃなく、月じゃなきゃいけない理由が」
「いま……月は、見えないわね……」
そう呟き、香澄は天井を見上げる。
そうなんだ。僕らは今密室に閉じ込められている。上を見上げても空は見えない……。
上を見ても黄土色の土でできた天井が見えるだけなのだ。この部屋が、外の空間から4人を切り離していた。鉄製の椅子が、冷たく4人の体温を奪っていった。
それから少し時間が過ぎたが。
4人はいくら考えても何もわからなかった。
くそっ、ナゾが、解けない……!
「どうしよ~、もう時間がないよ~……」
舞がぐしゅぐしゅと泣き始めている。
「…………」
「…………」
紅葉と香澄も考え込んだまま黙っている。
何も思い浮かばないのだろう。暗い表情だ。
僕も、いい考えが浮かばない。……まずいな、みんなが暗くなり始めている。
ふと香澄のほうを見た。香澄の目には、少し、水滴が――
「…………香澄」
小さい声で香澄に話しかけた。
「……なに?」
「好きだよ」
「……うん…………え!?」
「僕、香澄が好きだよ」
「な、なにいきなり!? どどどどうしたの!?」
うわぁ、すごい慌てているなぁ。
でも、よしよし、涙は止まっているな。
「僕は香澄が好きだ、だから安心して、香澄は絶対僕が守るよ。昔もそう……約束しただろ?」
「こ、こんな状況でなにいきなり恥ずかしいこと……!」
香澄は顔を真っ赤にして怒鳴ったている。
紅葉と舞は驚きすぎたのかボカン、と口を開けて2人を見ていた。
「諦めないで、絶対にクリアできるよ」
そう言って3人に笑いかける。まだ希望を捨てるなと。
変わるんだ。絶対にこのゲームをクリアして、ここからまた始めるんだ。
「だから暗い顔しないで、香澄。笑ってよ」
「な……!? な……!」
香澄はおろおろしながらうつむいた。顔が赤い。
可愛いね。
「……ったく竜也のくせに。言ってからの行動がはえーよ。へへ」
「竜也くんカッコイイー……」
紅葉は少し嬉しそうに笑い、舞はキラキラした目で竜也を見つめる。
そして香澄は――
「た、竜也。私も、私も竜也のこと……」
「待って」
「え……?」
「返事はここから出られたら聞くよ。ご褒美があるほうが気合も入るし……ねっ?」
「……うん、わかった……ふふ」
香澄は少し目が潤んでいた。だがとても嬉しそうだ。
なんだ、結局泣かせちゃったな。
「このやろ! 生意気に格好つけやがって! このモグラ!」
隣に座っていた紅葉が笑いながらバシバシ竜也の背中を叩く。
痛いなもう、ったく力を抑えろよ……ん? モグラ?
「っそうか! 『モグラ』――それだ!」
思いつき勢いよく立ち上がった。3人はまたも驚いて竜也を見つめる。
「さっき僕はこう言った。“宝箱のカギは隠されていると思う”って。僕たちは暗号にばっかり囚われすぎていたんだ。そしてミコトはヒントを出した。『4人は何が治った?』――そう、場所だ、隠されている場所を見つける、能力。それが僕のコンプレックス『モグラ』だ‼」
僕の言葉の意味に気づいた3人は声を揃えて叫んだ。
「「土を掘る!」」
また一歩、前に進んだ。
――現在8時間25分経過




