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12:「お腹が空いては謎ときできぬ」


『なるほど、タツヤはそんなにゴリラが好きなのか。気付いてやれずすまぬ、これは奇跡でなにを叶えるか決まったかのう?』

「お、おおお前マジでふざけんなよっ、お前がそう言えって書いたんじゃないか!」


 確かに教えるかどうかは気分次第って書いてあったけどさ。

 これで何もヒントが貰えなかったらただの恥ずかし損だよ!


『わかった、わかった。そう怒るな。ほんに、冗談の通じぬ奴じゃのぅ』

「笑えない冗談はただのイジワルなんだよ!」


 ひとしきり笑って満足したのか、ミコトは面倒くさそうにヒントを告げる。


『それではお待ちかねの「ひんと」じゃ、心して聞くんじゃぞ――「規則をよく読め」はい、ひんと終わり』

「……」


 ……え、それだけ?


「もっと何かないのかよ、そんなのヒントになってないだろ、当たり前のことを言っただけじゃないか」

『えー……、まったく、少しは「ナゾとき」を楽しんで欲しいのぅ。これじゃ何のためにげーむを用意したのやら』

「ふざけるな、こっちは命が懸かっているんだぞっ」

『だからこそナゾときを楽しんで欲しかったのじゃが……。まぁよい、ちゃんと恥をしのんで頑張ったしの。うほん、それじゃこれが最後のひんとじゃぞ? ――「おぬしらは何が治った?」以上じゃ、ではの』

「それだけかよ。おいもっとカギのこととか有益な情報を教えろよ!」


 天井に向かって怒鳴るが、ミコトの返事はもう返ってこなかった。


 くそう、ゴリラ大好きとか言ったのに、あまり実にならないヒントばかりだ。


「はぁ……とりあえず、2つヒントを手に入れたよ?」


 しょんぼりした顔で、みんなにそう告げる。

 もうなんか、色々と精神的に疲れていた。


「おつかれさん。お前はよく頑張ったよ。……まぁかなりマヌケだったけど」

「これからも頑張ってね、いつかいいことがきっとあるわ。……多分、ね」

「ファイトだよ、竜也くん! 舞は応援するよ! ……応援しかしないけど!」


 3人はにこやかに激励してくれた。

 その励ましは多分人生単位で頑張れという意味なんだろう。


 ありがたいなぁ、その澄ました顔がやたらとムカつくけど、ありがたいことに変わりはない。




 4人はテーブルで顔を見合わせながら会議する。


「それじゃこれからどうしようか?」


 3人に向かってそう言うが、みんなの反応は少し予想と違っていた。


「これから頑張ってくれるモグラくん、お前が意見をまとめるんだ。もう4人でバラバラに行動していたら間に合わないからな」

「そうね、竜也が決めた指示に従うわ」

「舞もそれでいい」


 さっきまでのふざけた雰囲気が嘘のように3人は真剣な顔で竜也を見つめる。

 。なんで僕なんだよ……。


「いや、そここだわるところ? 紅葉がまとめればいいだろ、僕には――」


 その言葉を遮るように、紅葉が僕の胸倉を掴んで怒鳴ってきた。


「ったくいつまでウジウジしてんだ! もうそんなのが通用する状況じゃねーだろ、俺たちがお前にまかせるって言ってんだ。覚悟決めてバシッとやれや!」


 も、紅葉……?


「竜也くん、お願い。舞もいっぱい協力するから!」


 舞まで、なんで僕に。


「……」


 香澄は何も言わず僕を見つめてくる。

 なんで、そんな目で。


「……わかった、分かったよ。僕が意見をまとめる。それでいいんだろ?」

「おう、お前がこのゲームをクリアするんだ。俺たちも死にたくない。お前に任せるのが一番クリア出来る可能性が高いって、お前が倒れている間に皆で話していたんだ。任せたぜ?」


 紅葉が胸を掴んでいた手を離し、今度は肩を少し叩いてニカッと笑う。


 そうか、僕のいじけた態度が直るように気をつかってくれたのか。

 少しずつ変わるなんて甘い考えも許されないんだな…………でも、ありがとう。


 僕は、変わらなきゃ、頑張らなきゃいけないんだ。

 ここから、また始めるんだ。

 

「よし、そんじゃこれからどうする?」

「うん……。そうだね、今の状況だと少し整理が必要だ。せっかく気合いが入ったところで悪いけれど、みんなは休んでいて欲しい。僕はルールをもう一度確認してくるよ。ミコトが言ったヒントの意味も考えなきゃ」


 紅葉の言葉にそう返して、ルールの紙が張ってある場所にすたすた歩いていく。


「へへ。あいつ、スイッチ入ったかな?」

「多分、もう大丈夫だと思うよ」

「……そうね。本当に、よかった」


 後ろから、紅葉と舞は少し嬉しそうな声が聞こえてきた。

 香澄の声は、小さくて耳に届かなかった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ミコトが言ったヒントは2つ――


『ルールをよく読む』

『4人は何のコンプレックスが治ったのか?』


 確かにどんなゲームもルールを把握してなければクリアできない。

 基本中の基本だ。


 もう一度詳しく、隅々までルールを読む。

 相変わらずむかつく口調だがそこは我慢だ。


 そしてヒントの意味を考える。

 最初の奇跡――4人はミコトになにを治してもらった?


 紅葉は『猫舌』

 香澄は『カナヅチ』

 舞は、『虫歯』だったな。


 そして僕は……『土を掘る』


 やっぱり僕だけおかしくないか!?

 ――お、落ち着け。今は怒っている場合じゃないんだ。


 クレバーに。戦場では冷静じゃなくなった人から死んでいくのだ。

 ここは頭脳労働の戦場だけど、実際に命がかかってる。


 ――考えろ。


 僕ら4人になにか共通点はあるか?

 そしてルールの中で、それが当てはまっているものは……。


 ――よく探せ。


 …………………………そうかっ、食べ物!

『お腹がすいたら緑のボタンを押せ』!


 ――っこれだ!


 思いつきに任せ、勢いよく壁から出ている緑のボタンを押した。


「うわわっ!? な、なんだいきなり」

「きゃぁ! ご飯がでてきたよ!?」


 椅子に座っていた紅葉と舞は驚いて悲鳴をあげる。

 香澄は目を丸くして、口を半開きにしてテーブルの上を見ていた。


 そう、ご飯がテーブルに突然現れたのだ。

 色んな食べ物がある。


 カレー、ラーメン、から揚げ、天ぷら、シチュー、果物、アイス、パフェなど様々な料理がテーブルの上にこれでもかというほどひしめきあって乗っていた。


 どういう原理で出てきたのか分からないが、これも神さまの奇跡ってやつなのだろう。

 僕はテーブルに向かって走った。

 

 これに宝箱を開けるための『なにか』がある。

 そう思うと少しわくわくしてくる。こんな状況で不謹慎かな?

 いいんだ、僕はもうこのゲームを楽しむと決めた。みんなで、クリアするんだ。

 ――この命懸けの脱出ゲームを。



 ――6時間15分経過



「おいおい、どうしていきなりご飯が出てきたんだ?」

「竜也ひょっとして、あのボタンを押したの?」

「怪しさ大爆発なのに……。竜也くんよく押せたね?」


「うん……。ミコトが言っただろう? 『4人はなにが治った?』って。……で、4人の中の2人が食べ物に関係することだった。だから、なにかあるんだろうなって思って」

「なるほどな~。ま、関係ありそうだな」

「それに、お腹もすいたでしょ?」


 そう言って3人に笑いかける。

 僕ら4人はお昼休みの途中でここに飛ばされた。朝ご飯を食べたあと、なにも食べてないのだ。


 その言葉を耳にして、紅葉がニカッと笑う。


「おう、そういえば腹減ったな!」


 紅葉は食いしん坊だし、お腹のすき具合は人一倍だろうな。


 舞も口に手を当てて笑う。


「……緊張してて忘れてたね。へへへ」


 命が懸かっているんだ、緊張して当然だ。


 香澄も微笑みながら、背筋を伸ばして座り直す。


「じゃあまずは食べましょうか」


 うん、腹が減っては戦は出来ぬ、ってね!

 それでは――


「「いただきまーす!」」


 僕ら4人は声を揃えて挨拶をしてから、ご飯を食べ始めた。


「うん! こりゃあうめぇ! もっと早くボタン押せばよかったなぁ!」

「お腹に染み渡るねぇ~♪ おいしぃ~☆」

「うん、美味しい。……? 竜也、食べないの?」

「うん……。ちょっと、考えることがあってね」


 なにか関係しているはずなんだ。

 扉か宝箱――どちらかのカギに繋がる何かが、この食べ物に。


 制限時間はもう半分以上も時間が過ぎてしまった。

 悠長にしている場合じゃない。


「そう……、でも少しは食べなきゃダメよ」


 そう言って、香澄は僕に食べ物を勧めてくる。

 ホワイトシチューだった。分かった、とそう返してスープを口に含む。


「あちっ! これ熱いね、舌を火傷しちゃったよ……」

「はははっ、竜也も猫舌だったっけか? 俺はもう猫舌じゃないからな! 熱いものが逆に美味しいくらいだぜ」


 紅葉が胸を張って得意げにそう言った。


 ――そうだ、ヒントは『なにが治ったか』

 弱点、コンプレックスに関するもの!


 ヒントの食べ物にかかっている、紅葉の『猫舌』と舞の『虫歯』


 この2つに関係するものは――

 テーブルの上の料理を見渡す。


 ぐつぐつと煮えたぎっているラーメンと……。

 どう見ても1人用じゃない量のパフェ。


 ……この2つだっ!


『まったく。わしも食~べた~いの~、ずるいぞずるいぞーっ』


 お前は1人で食ってろよ!



 ――6時間30分経過



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