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ガラスの靴を蹴っ飛ばせ!  作者: あんだるしあ
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魔法使いの正体を見破りました

「――あなた、魔法使いなんですよね?」

「もちろんだ。口からカードだって出せるぞべろべろべろ~」

「人真似はよくないですよ」


 魔法使いさんはむぅ、と子供みたいに膨れながら、無数のカードを片付けました。食事中に推奨された芸ではありませんね。


「魔法使いと名乗る割に、全っ然魔法を使いませんでしたね」

「よくぞ言ってくれた。実はそれにはワケがあるんだ」


 魔法使いさんは「ご馳走様」と手を合わせてから切り出しました。

 わたしも食べ終わっていたので、二枚のお皿を洗い場に持っていくために椅子を立ちました。


「師匠が今頃、向こうのほうの何とかって町の女の子を変身させて舞踏会に行かせている。同じことするのが俺の課題。綺麗なドレスとアクセサリでアンタを飾って、ちょこっと動物を使って足を確保する」


 わたしは厨房に入る一歩手前で立ち止まりました。


 先もって申し上げますが、我が家にネズミはいませんよ。わたしが清潔に保っていますから。フローリングは二度拭きして、絨毯はよくあるコロコロで。


 カボチャは昨日の晩に食べました。冷製スープにしてパスタ付けて。


 そんなあからさまに「想定外だった……!」って顔しないでください。


「仕方ない――段取り無視だが、アンタに直接魔法を掛けさせてもらう」


 ちょっと待った。煙と共に現れたそれは登山用のトレッキング・ステッキですよね? 先端尖ってますよ、それで刺すのが魔法ですか? バイオレンスですよ子供の夢が壊れますよ痛いのイヤですよ。


「アンタ自身をドレスアップするのと、馬車を用意するのとで、魔法は二回しか使えない。だから逃げるなよ。外したらそこで終わりなんだ」


 魔法使いさんは、じりじり、わたしと距離を詰めます。


「あのー魔法使いさん。さっきも言いましたけど、わたし、舞踏会行きたくないんですけど」


 鳩に豆鉄砲を食らったような顔になった魔法使いさん。

 そんなに見なくても、わたしの頭は普通ですよ。


「何故だ? 王太子の妻ともなれば贅沢し放題。朝は侍女が恭しく起こして飯もベッドの中でOK。政務をやるのは夫だから、適当に庭を散歩するなり子供と遊ぶなり好きにできる。ドレスは全部絹、アクセサリは国一の技師が作った代物。三食、最高級食材に年代ワイン付。招きに応じて楽師も来る。アンタだったら自分を使用人扱いする家族たちから解放されて万々歳だろう?」

「でも王太子様の奥さんは嫌ですねえ」


 わたしが王后になったとしても、王后らしい働きはできないでしょう。

 国民のための(まつりごと)なんて分かりません。税のことだって一つも知らない町娘ですもの。


 町娘は町娘らしく、お料理して、お掃除して、お買い物して、お洗濯して、時々友だちとお喋りして、ちょっと贅沢して、それだけでわたしは満足です。分相応という言葉もありますしね。


「何より」

「何より?」

「わたしは今の生活が気に入っているんです。王后だの王太子妃だのになったら、自分で炊事、洗濯、掃除、買い物、全部できないじゃないですか! 毎日働けないやんごとなき身分なんて願い下げです。一日一回はフライパンを握らなきゃ苛々しますし、夕方には市場に行かなきゃ夜眠れません。朝は自分で焼いたパンの香りを吸わないと胸焼けがするんです。こんなわたしに王后が勤まると思います!?」

「……思わない。俺が悪かった」


 魔法使いさんは、ずずい、顔を近づけてきます。


「でも、本当に意地悪一家から解放されたくないのか? アンタが望むなら、舞踏会に使わない魔法を、アンタの家族を消すのに使うぞ」

「魔法使いさん、それ犯罪ですよ。やめてくださいね。お金にズボラで、わたしがいないと一食も食べれなくて、すぐに絨毯埃まみれになって、キャベツとレタスの見分けもつかないような人たちでも、わたしの家族ですから」

「――って待てよ。つまり一家が意地悪なんじゃなくて、単にズボラなだけ?」

「そうなんですー。天才的に家事ができないんですよ、我が家の女性陣」


 魔法使いさんはオイオイと言いたげです。

 事実ですよ。魔法使いさんのお師匠さんがどんな境遇のお嬢さんを迎えに行ったか知りませんが、わたしの家はわたしが一手に家事をしている以外は至って平穏なんです。


「話は変わりますが、魔法使いさんはどうしてそんなにお城の生活に詳しいんですか?」

「………………………………………………………………魔法使いだからサ」


 その長すぎる間によって怪しさ倍増です。サって何ですか、サって。


「魔法使いさんってやけに小奇麗ですねえ。魔法の修行って汚れることないんですね。それとも修行をつけるお師匠さんが優しいんでしょうか」

「………………………………………………………………………師匠は鬼だ」


 あらあら。どんどん自分を追い込んでますよ。


「しかも青毛に赤い目。王太子と同じ色なんて縁起いいです」

「…………………………………………………………担がれる俺は大迷惑だ」


 ついにボロを出しました。


「担がれるのは王太子だけですよ。何故あなたが『担がれる』なんて言うのでしょう?」


 ぎくりと口を押さえる魔法使いさん。いいえ――


「この際はっきり言います。ずばり、あなたは王太子ですね!」


 しかも誘導尋問に弱い魔法かぶれ。およそ王位継承者には向かない王太子です。

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