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ガラスの靴を蹴っ飛ばせ!  作者: あんだるしあ
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家事を手伝わせてみました

 手始めにそこのテーブルに出ているお皿とボウルを片付けてもらいましょうか。ボウルは食器棚の一番上。いつも踏み台に乗るから面倒だったんですよね。


 お皿は適当に重ねないで、ちゃんと大小で並べないと崩れやすくなるじゃないですか。


 まな板はわたしがやりますから、包丁を洗って拭いて包丁立てに戻してください。調味料の備え付け棚の横にあるそれですよ。指切らないように注意してくださいね。

 手つきが危なっかしいですねえ。包丁を動かすと切れますから、布のほうを動かして拭くんですよ。


 生ゴミをオーブンの横に積んである紙で包んでから、居間のほうに来てください。


 はい、来ましたね。じゃあ、この花瓶の水を替えに行ってください。勝手口の横に水瓶がありますから。

 底に銅貨がありますけど捨てないように、花を長持ちさせる知恵なんです。


 で、そのまま外から玄関に回って郵便物を取ってきてください。


 ――。――。戻りましたか。お疲れの様子ですが、まだまだ仕事はありますよ。その手紙を仕分けしましょうね。

 テーブルに座っていいですよ。連名のはわたしに振り分けてください。少ないからすぐ終わりますね。


 次はこのコロコロ(そんな物がこの世界にあるかよ! って指摘はスルーします)持って、床の髪の毛を取ります。

 ええ、まあ、それなりに広いですけど、二人でやれば何とか終わりますって。夕飯ができる頃には終わりますよ。


 終わったらご飯食べてっていいですよ。


 ――嬉しそうですね。表情変わってませんけど、目の輝きが格段に増しましたよ。そうすると魔法使いさんの赤い目、ルビーみたいです。ルビーの実物、見たことありませんけど。

 はいはい、手を動かしてください。


 わたしはサボってませんよ。わたしの半分は終わりましたから、この本棚の整理してるんです。

 上の義姉さんは読書好きなんですけど、戻す時に元の場所に置かないんですよね。


 ――そろそろ炊けた頃ですね。魔法使いさんのほうも大方綺麗になりましたし。


 ……ああ! わたしとしたことが洗濯物を干しっぱなしでした。

 魔法使いさん、取り込みお願いします。わたしは夕飯の用意して待ってますから。


 魔法使いさんがブツブツ言いながら出て行ってから、わたしはふと床に落ちた物に気づきました。

 ワッペンみたいです。盾の上に兜と鷲、両脇に花が刺繍してあります。

 この紋章はパレードとか国事とかでよく見ます。何せこの国で一番やんごとなき身分の方々のものです。

 どんな身分の方でも自分の紋を持ち歩くので、これ自体には驚かないんですけど。


 魔法使いさんが戻って来たので、わたしはワッペンを持ったまま厨房に入って、竈からお鍋を下ろしました。

 蓋を開けると鶏スープの香りが湯気と共に漂いました。


 今日の献立はこの鶏がらスープで炊いたチキンピラフです。

 モモ肉も具に入れてあります。柔らかいモモ肉だけだと物足りないので、食感のアクセントにマッシュルームのスライスを。野菜ももちろん、ニンジンとタマネギが入ってます。


 チキンピラフを混ぜてお皿に盛って、彩りにちぎったハーブを載せて、二人分を居間に持って戻りました。


「こ、これで全部すんだ、のか……?」

「一応は。座ってください。夕食にしましょう」


 魔法使いさんは力なく椅子に腰かけて、背凭れに上体を預けましたが、わたしがチキンピラフを目の前に置くとガバッと姿勢を整えました。

 おいしいご飯に反応するのは全人類共通だと思いますが、いかがでしょう?


「いただきます」

「い、いただき、ます」


 魔法使いさんは恐る恐るピラフをスプーンで一口含んで噛んでいましたが、ふと勢いよく食べ始めました。


「――――おいしいですか?」

「かなり旨い。師匠以外でここまで旨いのは初めてだ。料理の腕いいんだな」

「それは、どうも」


 わたしとしては味付けが濃かったように思うんですけど、喜んでくれたなら、まあ、よしとしましょうか。そんなに幸せそうに食べてもらえれば料理人冥利に尽きますから。


「アンタは料理だけじゃなくて掃除も片付けも手際がよかったよな。清潔な部屋での食事は気持ちいいよ。アンタみたいなのがいるこの家は好運だな。俺のほうは結構酷いから、師匠以外にもちゃんと、ちゃんと! 料理も掃除もできる女がいると分かっただけで救われるよなあ」

「部屋、散らかってるんですか? 緑とか紫の薬とか、怪しい魔道書とか、カエルとか蛇とか、箒とかビーカーとかで」

「アンタ、魔法使いにも偏見持ってるんだな。師匠の家に構えてもらった俺の部屋はそんな感じだけど、実家は別。管理人みたいなのがいてな、これがまた微妙で」

「微妙ですか」

「微妙なんだ。隅っことかよく見ると汚れてるとか、細かいところが何とも言えん。机の陰にペンが転がってるのは普通だし、ベッドの下なんかゴ」

「自粛してください。食事中ですよ」


 その生物はわたしにとって、生まれた時から宿命づけられたと言っても過言でない、永遠の仇敵です。


「魔法で片付ければいいじゃないですか」

「一応周りには俺が魔法使い志望ってのは隠してるからな」


 おかわり、要ります? 一杯だけですよ。義母さんと義姉さんたちの夜食でもあるんですから。

 はい、どーぞ。


 二杯目を食べ始めた魔法使いさんに、わたしは何気なさを装って訊いてみました。


「――あなた、魔法使いなんですよね?」

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