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置き物さんの魔法  作者: 榎本あきな
置き物さん、「龍池躍龍龍己飛」
8/16

8 置き物さんと仕返し

 自己紹介が全て終わったところで、僕は立ち上がる。

 もうそろそろ、“あれ”が流れるはずだから、先に皆にどうやってやるのか、言っておいた方がいいだろう。

 そう思って立ち上がると、僕が何をしようとしているのか気づいたレイト君が、ニヤリと笑みを返しながら立ち上がった。


「お前、“あれ”が流れると同時にやるつもりか?……いいぜ。面白そうだ」

「あれ……って、なんでしょうか……?」


 少々ビクビクしながらも、レイト君に質問したアンセさん。

 その疑問に、そういえば外部受験組だったな……と小さな声で呟いてから、レイト君は“あれ”について言った。


「“あれ”って言うのは、チームで最初の授業である、この結界の部屋の中での交流。その授業時間が残り10分になると、必ず流れる、『この結界部屋を自分達の力で破壊し、脱出しろ』っていう放送の事だ」


 そう説明してから、僕を見る。

 とても楽しそうに。


「……で、どうやって脱出するのか、考えてあんだろ?モノ」


 そういって、彼は早く説明しろと伝えてきた。

 皆も、どんな風に結界の部屋を破壊するのか気になっているみたいだから、早く言っちゃおうと、僕は説明を始めた。

 そして、説明を終えると、アンセさんが顔を青白くさせ、ガタガタとその場で震えていた。


「むむむ、無理ですよそんなの!!できっ、できっこないですって!!ただでさえちょっと使っただけで暴走する危険があるのに……。それに!万が一失敗したら、モ、モノさん、巻き込まれて怪我しちゃいます!!」

「……それ、俺らに喧嘩売ってんの?」

「そんなに信用できないかしら?私達の魔法の技術」


 アンセさんの言葉が少し不快に思ったのか、少しだけ目を鋭くしてアンセさんを見つめる2人。

 それを見て、アンセさんが首が引きちぎれるんじゃないかというくらいに首を横に振る。


「そそそっ、そんな事思ってないです!喧嘩にゃ、なんて、売ってないです!信用もして、してます!……でも、3割も魔法を使うだなんて、怖くて……」

「……大丈夫……。僕、ら……が、ついてる……。ちゃん、と、抑……える」

「俺だってできる限りのことはするし、なんとかなるよ!」

《ま、いざって時は僕が止めてあげるよ》


 皆の言葉に不安そうな顔をしながらも、覚悟を決めた様に小さく頷くアンセさん。

 それを見た僕らは、最初に決めてあったそれぞれの定位置につく。

 僕は、自分の身も守る事が出来ないということで、少し離れた場所で。

 アンス君は、いざというときに僕を守り、なおかつ暴走をすぐに止められるように、僕の近くに。

 他の五人は、アンセさんを真ん中にして、ひし形を作るようにして位置についた。


「じゃ、じゃあ―――」


 そういって、アンセさんは大きく深呼吸をしてから、目蓋を一回、強く閉じ、開けた。

 弱気ないつものアンセさんは、そこにはもういなかった。


「行きます」


「アィ・エォ・ロァ・ピゥ・チゥ・ミゥ・ホァ・テォ・キゥ・エォ・キゥ、アィ・エォ・ホァ・ソァ・ケォ・ヒゥ・ソァ・ナィ・ケォ・ロァ」





「―――火の柱」





 その言葉と共に、僕の視界はほとんどが真っ赤に染まった。

 結界の部屋の天井を突き抜けるんじゃないかというくらいに伸びた火の柱は、さらにその太さを大きくしようとするが、しようとしたところで、白い障壁に阻まれる。

 普通の障壁よりも大きいように見えるけれど、たぶん、メレーテ君がレイト君を補助しているのだと思う。

 リリィさんは、下からどんどん土の壁を作っていっている。

 イージス君は、そんな彼らの魔力がなくなりかけた時に、彼らの魔力を回復させる役割だ。

 そして、真ん中に立つアンセさんは……この結界の部屋破りの要という重要な役割にも関わらず、それに怯える事も、声をあげることも、泣くこともなかった。


 ただひたすらに、彼女に与えられた仕事……3割を維持しながら、結界の部屋の天井を突き破る事。

 アンス君は、もしものことがあったときの控え。

 何の力もない僕はというと……ただ、見守っているだけ、傍ではなく、安全な、少し離れたところで、彼らの活躍を見ているだけ。

 その立ち位置は、絶対に変わらないだろう。

 僕以外の皆はもしかしたら交換したりするかもしれないけど、僕だけは、絶対に。


 そのことが、わかっていたのに、なんだか悲しい。


 彼らは僕をリーダーだと思ってくれているのに、そんな僕が一番に出て何もできないだなんて。

 ……ずっと続くことなんだ。慣れなくちゃいけない。


 天井まで昇る火の柱が、皆の力で徐々に細くなっていき、大きな力を1つに集める。

 下唇を噛みながら、他の皆よりも若干苦しそうに魔法を使うレイト君は、天井を見上げ、皆に大きな声でいった。


「おい!もうすぐ結界部屋破壊開始のアナウンスが流れるから、それと同時に一気に抑え込むぞ!!」

「……」

「りょー……かい」

「苦しい、苦しい!あーっ!楽しい!!たっくさん魔力使っていいよ!!」

「これよりも魔力上げて抑え込む?上等じゃない!!」


 真剣な目をして頷くだけのアンセさん、呟くように了承したメレーテ君、目を輝かせながら催促するイージス君、口角を上げながら威勢よく声をあげるリリィさん。

 そして、その声に待ってましたとばかりに片頬を持ち上げるレイト君。

 噛みしめていたからか、少し血がにじんでいる唇を舌でなめ、口を開く。


「そろそろだ!3・2.1……!!」


『時間になりました。交流をやめ、結界の部屋を力を合わせて破壊してください』

「盾!」

土隆(アース・クエイク)!!」

「威力増強、範囲拡大」

「ハイマジックヒール!!」


 4人が同時に呪文を唱えると、元々の魔法がさらに輝きを増し、火の柱が細くなった。

 横方向へ膨れ上がるのを止められた火の柱の力は、そのまま唯一の出口である上……天井へ向かって先ほどの威力よりも強い力で吹き出す。


 その威力に、今までギリギリで耐えていた結界の部屋の天井は、ヒビが入り、そして、砕け散った。

 天井を突き破ったうえに、青い空が見える。

 突き破ったのが感覚で感じられたのか、段々と弱まっていく火の柱。


「コァ・二ゥ・ンァ、コァ・二ゥ・ンァ、コァ・二ゥ・ンァ、コァ・二ゥ・ンァ…………」


 だが、それも大変なようで、目を閉じて、必死に魔法を抑える呪文を唱えるアンセさん。

 せめてもの手助けをと思い、アンセさんに近づき、火の柱の解除呪文を唱える。


 火の柱がなくなったのに気がついたのか、呪文を唱える事を止め、こちらを見たアンセさんは、少し唖然とした顔でこちらを見つめた後、アワアワと慌てながらお礼を言ってきた。


「えと、えと、その、ありがとうございます!!」


 それに言葉を返そうとしたとき、結界の部屋がパラパラと崩れていき、外の景色が見えた。

 緑の芝生に、白色の校舎。

 その校舎に囲まれているここは、中庭だ。


 辺りを見回すと、巨大な箱の様なものがたくさん立っているため、あれが結界の部屋なのだろう。

 アナウンスと同時に壊した僕らが、一番乗りみたいだけれど。

 そうやって辺りを見回していると、1人、僕らに近づいてくる人影が見えた。

 僕のクラスの担任だ。

 その人は、僕を無視して僕のすぐ横を通って、レイト君の元へと歩いて行った。


「いやはや、アンセさんの強力な魔法を使い、しかも、自らが傷つかないように威力を弱めさせ、範囲を自分達の魔法で小さくする事で結界の部屋を破るだなんて、大したものですな」

「いえいえそんな。やったのは僕たち5人ですが、それを考えたのは僕らのリーダーですから」


 レイト君が、僕の方を指差す。

 その言葉と行動に、笑顔だった担任の顔が、ピクリと動いた。

 そして、ゆっくりと首をこちらに向けて動かしたかと思うと……般若のような顔で僕を睨み付けた。

 一緒にいたアンセさんが、驚いて僕の後ろに隠れる。

 それを見て、担任はにっこりと笑顔になってから、レイト君へと顔を向けた。


「……アレは君たちを引っ張る器ではありません。むしろ、足の方を引っ張るでしょうね」

「そんなことありません。彼には才能があります。それに努力家でもあります。そんな彼の、どこに足を引っ張る要素があるんですか。彼を侮辱することは、チームメイトでもある僕らも侮辱したと捉えますよ」

「い、いえいえ、君たちを侮辱するだなんて……!!私はただ、彼は相応しくないんじゃないかと……」

「相応しい、相応しくないは、僕ら自身が決める事です。口出しされることではありません。それとも、彼にしてはいけない、なんてルールがあるんですか?」

「……そういうわけではないですが……」

「なら、いいですよね」


 反対を押し切って僕をリーダーにしたレイト君は、他の人からみたら綺麗な笑顔を張り付けたまま、満足気に頷いた。

 その顔を見た担任は、僕の方をチラリと睨みながら、胡散臭そうな笑顔でレイト君に言った。


「ところで、チームでの最初の課題、首席のレイト君なら把握していると思いますが……」

「はい。頭に入ってます」

「さすがですね。さらには、結界の部屋の破壊も一番に完了した、成績優秀なこのチームには、その課題で、特別措置を導入させていただきます」


 その言葉に、レイト君の張り付けた綺麗な笑みが、僅かに動いた。

 担任とレイト君の会話を聞いていた僕らは、特別措置という言葉に、訝しげに顔をしかめた。

 僕らと同じようにしたいのを、気合で耐えたのだろうレイト君は、不思議そうな顔を作って担任に問いかけた。


「特別措置……とは?」

「通常、最初の課題では誰とも組まずに、チーム内で戦うものなのですが、このチームは5人全員が(・・・・・)自らの力を弁え、そして、各々の力も把握しているようなので、最初の課題では、2人1組になってチーム内で戦ってもらいます」


 またもや顔を動かしそうになるレイト君が、気合で耐えているのが僅かにわかる。

 よく見ないとわからないその変化は、本性をしらない担任では、気づかないだろう。

 猫がまったくもって取れないレイト君に、逆に感心していると、レイト君が口を開いた。


「そうですか。わかりました。実はこちらも、皆の実力はもう把握済みのため、他の課題がいいと思っていたんです」

「そうだったんですか!それは、良いことですね」

「そうですね。ところで、2人1組になる人達は、こちらで決めても構わないんですよね?さすがに、最悪の相性の人達同士で組ませるわけにはいきませんから」

「……確かにそうですね!では、そちらで決めておいてください。期間や日時等は、あとでリーダー会議があるので、そちらで資料を配布します。では、後ほど」


 そういってレイト君に軽く会釈をすると、元の方向へと歩いて行った。

 途中、僕を横目でチラリと見た時、その顔がにやにやとしていたのはなぜなのか、なんとなくわかるけれど、あまり考えたくない。

 そう思っていると、アンス君が僕の元へ空中を滑る様にやってきた。


《……さっきの、お姉さんが認めてる人を侮辱した上に無視したんだけど。八つ裂きにしていいよね》

「ダメに決まってんでしょ。バカ」


 そういいながら僕の元へやってきたリリィさんは、アンス君の尻尾を掴んで自分の方へ引き寄せた。

 それに変な声を出しながらリリィさんの横へふわふわと移動するアンス君。

 その様子に1人頷きながら、僕の方へと顔を向けた。


「でも、今のはイラついたわね。まるでモノをいないものとして扱ってるんだもの。モノはこの場に存在しているってのに!!」


 歯を食いしばってまで僕の為に怒ってくれるリリィさんの姿に、このチームにだけは、僕は居ていいんだと、少し胸の内が暖かくなる。

 そんな風に皆と話をしていると、アナウンスが鳴った。


『1年生のチームで、リーダーと副リーダーになった方は、特別棟2階の第3会議室に集合してください。繰り返します。1年生のチームで―――』


「招集がかかったみたいね」


 その言葉にうなずいてから、レイト君の方へ顔を向けると、僕にとっては気持ち悪い笑みを浮かべたまま、手を差し出してきた。


「さぁ、招集されてるよ。行こうか」


 ……確かに、人は沢山ではないけれどいるんだから猫を被っているんだろうけど、気持ち悪くて鳥肌立つよ。

 そんなことはいえないまま、頷いて彼の手を取った


***


「あぁー!!疲れたー……」


 僕の部屋に入るやいなや、あの気持ち悪い笑顔を取り、僕のベッドに飛び込んだレイト君は、本当に疲れたという声を出した。

 本当に、疲れただろう。

 なんせ、司会である先生が僕を無視するため、普段は嫌味や皮肉を投げかけてくる生徒達も、僕を無視していた。


 そのせいで、僕らのチームへの話などは、全てレイト君が聞かれ、僕が話したことは全て無視されるため、僕の話をレイト君に話し、レイト君が全員に向けて話すという、なんとも面倒な事をしてくれたのだ。

 面倒な事が嫌いだろうに、そんなことをさせてしまって、本当に申し訳ない……。

 そう思ってレイト君に謝ろうとすると、レイト君に手で制された。


「謝んな。こういう事になるってわかってて、それでもお前をリーダーにしたんだ。お前が謝る事じゃない」


 そういうレイト君の言葉に嬉しくなって、謝る代わりに笑顔を返すと、照れた様に横を向いた。

 それがなんだか気恥ずかしいのか、さっきの事をなかったことにしようとするかのように、口を開いた。


「そ、そういえば!招集かけられる前に、俺達のとこに先生が来ただろ?あの先生ってお前のとこの担任だろ?いつも、あんな感じなのか?」


 そう問いかけてくるレイト君に、何も言わず、ただ黙ったままでいると、怒ったように顔をしかめた。


「やっぱり。……仕返ししろとは言わないけど、なんかあったら俺らに言えよ?代わりに文句言っといてやるから。俺とアンスは、文句じゃ済まねえと思うけど」


 その言葉に頷くと、満足そうに笑みを見せたレイト君。

 そして、何を思い出したのか、ニヤリと口角を上げたレイト君が、言った。


「まぁ、俺らだけ2人1組にするだなんて学校側の見え見えの魂胆、最悪の相性が~とか言ってこっち側で組む奴を決めれるようにしたし、お前を無視した分は取り戻したけどな」


 そういうレイト君に、やっぱりと苦笑いを浮かべる。

 僕の担任は、レイト君達みたいな有望な子が、僕と仲良くなっているのが気に食わなかったのだろう。

 そこで、2人1組にして戦わせ、戦いの最中に僕と組んでいる子に僕を裏切らせる。


 仲良くなり始めた今だったら、先生がちょっと言うだけで簡単に裏切ると思うだろうし、そんな仲良くなくても、今まで優しくされなかった僕が優しくされた子に裏切られたら、結構ダメージを受けると思うだろう。

 確かに、彼らの内誰に裏切られても、僕は他の生徒から悪意を受けるより悲しむだろう。


 裏切られたら(・・・・・・)


 たった1人だけ、僕を裏切ったら学校側に不利益をもたらす人がいる。

 本当は、組ませる人も学校側が決める予定だったのだろうが、レイト君が最悪の相性の人と組ませるわけにいかないと言ったため、学校側の裏切れという言葉を簡単に呑む人を選ぶという意味にとり、組む人の人選は、僕らに託された。

 レイト君は、僕にとって最悪の相性の人、という意味で言ったというのに。


 ちなみに、最悪の相性の人というのは、裏切るという意味ではなく、僕と組んだら力が十分に発揮されない人の事だ。

 そのため彼は、仕返しすることができたと、笑っているわけだ。

 あとは、皆で全力で戦うだけ……なんだけど、……ちゃんと、戦えるのかなぁ……。

 僕の不安そうな空気を察したのか、安心するような笑顔でレイト君が声をかけてくれた。


「大丈夫だって!今日だって、ちゃんと自分の仕事こなしたんだから、コミュニケーションがとれれば、いけるって」


 ……そうだよね。やる前から無理って言ってたら、失礼だ。

 レイト君の言葉に勇気付けられた僕は、レイト君の言葉に力強く頷いた。

 それに笑みを返してくれたレイト君は、「じゃーな」といいながら僕の部屋を出て行った。


***


「チームは、俺とイージスのチーム、リリィとメレーテのチーム、そして……アンセとモノのチームだ」


「よ、よろしくおねがいひましゅ!!」


 不安げに僕を見上げるアンセさん。

 壊滅魔法士であるアンセさんは、1人で国を潰せるほどの力があると言われている。

 そんな人材が、仲間である僕を、先生の言葉1つで裏切ったとなれば、将来、この国の切り札となった時に、裏切る可能性が出てくる。

 アンセさん以外は、将来国に仕えて裏切ったとしても、力技でなんとかなるが、アンセさんだけは、巨大な力を持っている為、力技でもどうにもならない。

 唯一学校側が脅すことができない人だが……。


 ……本当に、アンセさんとコミュニケーションが取れるのだろうか……。

 そう思って、とりあえず握手をしようと手を差し出すと、飛び上がって僕からすごい勢いで離れた。


 ……これ、無理だって……


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