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置き物さんの魔法  作者: 榎本あきな
置き物さん、「龍池躍龍龍己飛」
6/16

6 置き物さんと青色

 皆が最初の状態……輪の形に座り直すと、非常に怠そうな表情をしたレイト君が、早く進めたいのか口を開いた。


「……残るは2人になったわけだけど、どっちも自分からやりそうにねぇしなー……。……あー……指名してもらえるか?」


 先ほどリリィさんに怒られたのが頭をかすめたのか、できるだけ雰囲気を和らげて隣に座っているアンセさんの方を窺うレイト君。

 だが、彼の努力も空しく、ビクリと肩が跳ねたアンセさんの表情を見て、レイト君がなんだか面倒くさそうになった。

 たぶん、アンセさんの反応でレイト君を睨みつけたリリィさんの視線を感じ取ったのかもしれない。

 レイト君の問いかけに、さっき向けてくれた微笑みは幻だったのかと言いたくなるくらい怯えながら、高速で首を縦に振るアンセさん。

 そして、チラチラと怯えた表情で僕とレイト君を見ながら、青髪の子を指差した。


 ……やはり、レイト君だけじゃなく、僕も怖いらしい。

 そんなに僕の無表情って怖いのかなぁ……誰だったかはあんまり覚えてないけど、僕を嫌わなかった唯一の親戚の子が、僕の顔はぽやぁってしててなんか緩いって言ってたんだけどなぁ……。

 やっぱ、人によって感じ方って違うのかな……。


 そんな考え事をしていると、青髪の子のほうから、小さな声が聞こえた。

 あれ、聞き逃した?と思って周りを見渡すと、皆不思議そうな顔をしている。

 皆に聞こえないくらいの小さな声だったみたいだ。


「……ごめん。もう一回言ってくれる?」

「………………ㇾ……」

「……もっと大きな声で。その声じゃさすがに聞き取れねぇよ」

「…………」


 青髪の子は少し黙った後、口元を覆い隠していたフードが付いている黒く長いコートのボタンの、口元の部分だけを外した。

 鼻先と目を覆う位の長い青髪しか見えなかった顔が、ボタンを外したおかげで、頬と口元も見える様になった。

 その頬は、真っ白だったが…………どこか、ほんのり赤らんでいるように見えた。


 あれ?と思って目を擦ってもう一度見ると、そこには真っ白な頬があるだけ。

 目がおかしくなったかなぁ……と思っていると、青髪の子が、小さい声ながらも今度は皆に聞こえるくらいの声で、自己紹介をした。



「…………メレーテ」



 …………あっれー?いくら待っても続きの自己紹介が来ないんだけど……。

 ……まさか、名前だけですか!?

 いくらなんでも短すぎるっていうか、自己紹介って自分を知ってもらうための物だと思うんだけど、名前だけっていうのはさすがに秘密主義すぎやしませんかねぇ!?


「…………って、それで終わりかよ!?」

「いや、もっとこう……なんかあるでしょ!?どういう経緯で学校に来るようになったとか、得意魔法とか、そういうの!!」

「……兄貴が、入る……から。…………補助魔法が……得意……。属性は、一……通り」

「……それ以外にも自分で考えてなんか紹介しなさいよっ!」


 リリィさんが怒ると、プイっと可愛らしい仕草でそっぽを向いた。

 そのそっぽを向いた視線の先には……メレーテ君を見つめて、キラキラと瞳を輝かせたイージス君の姿が。


「ねぇ、フードの中どうなってるの!?」

「へっ!?あっ……」


 メレーテ君の許可も取らず、好奇心に身を任せたままイージス君がフードを取ると……そこには、真っ赤に染まった耳と、イージス君の手から逃げようとして動いたせいで揺れた目を覆う青い前髪。


 そして……その隙間からチラリとのぞき見えた、青い瞳と桃色の瞳。


 イージス君がそれを見てポカンとしている間に、メレーテ君はフードを目深に被り直し、口元のボタンをはめた。

 その動きをポカンとしながら眺めたままだったイージス君は、小さく呟いた。


「……カルマ・アイリス……」


 その言葉が聞こえたとたん、フードの隙間から見える鼻先が、一瞬で赤く染まり、次の瞬間、後ろを向いて勢いよく逃げ出した。

 速度を上げる風の補助魔法を使っているのか、結構広い結界の部屋の中、隅の方へとすごい速度で逃げていく。


「あっ、待て!!」


 逃げ出されると思ったのか、慌てて追いかけるレイト君と、後ろから追いかけてくるレイト君をチラリと見、また顔を前に戻して走り続けるメレーテ君。

 でも、逃げ出す事はないと思うんだけどな……だって彼は……。


「っ!?!?」


 部屋の隅まで行き、そこから壁を沿う様にして走り続けるメレーテ君を見て、訳が分からないという顔をしつつ、流れでそのまま追いかけるレイト君。

 彼はきっと、あの真っ赤に染まった顔を見てわかる様に、恥ずかしいからただ隅に行きたかっただけなんだろう。

 口元のボタンを外した時に見えた頬の赤らみは、きっと気のせいじゃなく、彼が必至で恥ずかしいのを抑えようとしたときの名残なんだと思う。


 カルマ・アイリス……片目だけ桃色の瞳の事を言われて、なんで恥ずかしがるのかはわからないけど、もしかしたらそれでからかわれた事でもあったのかもしれない。

 それに彼は小柄で色白で、遠目から見たら女の子にも見えるから、男子からいじめられることもあったのかもしれない。

 苗字がなく、庶民の子供なのだから、そういう可能性は十分高いと思う。

 後ろをチラリと見た彼は、その時にいじめられた男子と、追いかけてくるレイト君を重ねたのかもしれない。

 だから彼は、隅で止まるはずだったのをやめて、壁を沿う様にして走り続ける事にしたのだろう。

 ……ここまで推測しといて、全部違いましたーって感じだとしたら、非常に恥ずかしい事になるけどね……。


 彼らは未だに走り続けているが、これ以上行くといくら扱いが上手いと言っても、魔力の少ないレイト君がバテるだろう。

 そうすると、この後あるだろうとある事に支障が出てきてしまうかもしれない……。


 それは、僕らとしても非常にまずい。


 出来れば彼らの鬼ごっこを止めたいのだけれど、僕の予想が当たってなければ、見た感じ聡そうな彼を止め、レイト君に捕まえさせることはできないだろう。

 まぁ、予想が当たってない場合は、レイト君の方を止めるって言う方法もとれるわけだけど、一番心配なのは、言っても効果が出ない事だ。

 解除の呪文は、魔法一つ一つにきちんとあるが、距離が遠いと解除の呪文を言っても効かない場合がある。

 その上、彼らは僕らが万が一にも巻き込まれないように、壁沿いで鬼ごっこをしているため、一向に距離が縮まらないから、近くに来たら……とか、そういうのが出来ない。

 指を3回鳴らし、準備万端な僕が、どうしようかとあと一歩の所で戸惑っていると、何かが聞こえた。


《『呪文は、必ず効く』……これで、心配はないでしょ?》


 それは、嘘を言えない悪魔が、対価の代わりに言う、必ず実現する言葉。

 いつの間にか近くに来ていたアンス君にビックリしながらも、どうしてそれを言ってくれたのか、と僕の頭よりも少し上の所で浮いているアンス君を見上げる。


《君が迷ってるからだよ。君を見てたら、僕にとってすごい面白そうな事を思いついたような顔をしてるのに、全然やってくれないんだもん。これを言えば、君がやってくれるかなーって。……あ、対価はいらないよ。しいていうなら、君が思いついた面白そうな事をやってくれることが対価かな》


 そういって、クスクスと笑うアンス君は、妖精の様だけれど、面白そうな事にその言葉を言ってしまう所が、確かに悪魔なんだと思わされた。

 早くと目で急かしてくるアンス君を見てから、すごい勢いで走り回るレイト君とメレーテ君……その、メレーテ君の方へと目を向け続ける。

 出来れば成功してくれれば、この後安心できる……その思いを胸に、小さく息を吐き、そのまま口だけを動かして呪文を唱える。


「……っ!?うっ、わっ!!」


 突然途切れた風の補助魔法に驚きながら、体制を立て直すメレーテ君。

 それを見ながら、次の呪文を唱える。

 彼は、補助魔法が得意だから、次もまた補助魔法を唱えるだろう。

 そして、なるだけレイト君と離れたはずだから、風の次に速い雷の補助魔法を使うはず……。


 当たった。


 そして、この2回で聡そうな彼は、補助魔法はダメだと思うはずだから、風魔法で主に移動目的に多く使われるあの魔法を使う。


 当たった。


 次は火魔法。次は水魔法。次は風の補助魔法。次は雷魔法。次は…………。


 視界が狭まって、フードが付いた黒いコートのメレーテ君以外、何も見えなくなって……ちらりとフードから見えた、桃色の右目が、僕をチラリと見た気がした。


「捕まえた!!!」


 レイト君のその声で、僕の狭まっていた視界が、一気に開けた。

 何かと思ってレイト君を見ると、メレーテ君を抑え込んでいるレイト君の姿が見えた。


***


「いやー……まさか、あそこまで捕まえられないとは。久々に本気出したぜ……。まぁ、思いのほか魔力減ってねぇからいいんだけどさ。ってか、お前すげぇな……。あんなに速い奴、久しぶりに見たぜ」

「すごい速かったね!!見てて俺も混ざりたいって思っちゃった!まぁ、回復魔法以外はからっきしだから、混ざれなかったけどね!」

「……あんたら、あんな鬼ごっこよくやるわねー……。でも、レイトの持続力と、魔法が止まってもすぐに他の魔法で代用するメレーテの機転は、すごいと思うわ」

「ふふっ、ふ、2人ともすごいですっ……!わた、私、ああいう魔力をちょっとずつ使う……とか、他の魔法で、すぐに代用する……とか、そういうの、ぜんっ、全然できないので、あの、その、っすごいです!!」


 皆から口ぐちに声をかけられ、フードから見える鼻先を真っ赤にしながら、視線だけは、僕の方をずっと向いていた。

 僕は一言もしゃべらず、違う方向を向いて視線から逃げていた。

 だ、だって、そんな子じゃないとは思うけども、あれが僕だって知られたら、欠落者のくせにってすごい嫌われそうだもの!!

 あと純情に視線が怖い!!


「……で、さっきのはどうやってたんだ。そこの黒いの」


 ……ま、まさかのやられた本人じゃない所から来ますかっ!!

 いや、総合成績1位の彼だったら、僕がやったって簡単にバレると思ってたけど、追求してくるなら、皆が居なくなった後とか、それか自分で予想して納得してると思ってたから、今ここでは言わないと思ってたよ!

 ……そっぽ向き続けるのも、正直辛いです視線が痛いです。


《……ククク……。ハハハ!!いやー、予想してたけど、結構面白いことしてくれたねー!!相手の心情を状況や行動、言動から把握して、次に相手がどう動くのか予測するなんて!普通じゃー、結構難しいことだと思うよ?それに、動きじゃなくて何百と数えきれないほどある魔法の中から的確にどれを出すって当ててくるんだもん!もう、予測じゃなくて未来予知だね!》


 笑いながら解説してくれるアンス君に、バラすなよ……と思いながらうなだれる。

 そう、僕は、ただ予測しただけ。

 これが出来るのも、全ての魔法の解除呪文の知識と、色々な種類の本、あと、僕に様々な感情を表情とわかりにくい遠回しな嫌味でぶつけてくる、たくさんの人々との経験からなんだけどね……。

 そう思いながら、皆の気味が悪いという視線を受け止める覚悟を決めて、皆の方を振り向いた。


 ……けれど、そんな視線は一切なく、まったく普通の視線を向けてきた。

 気味が悪いという視線でも、なんなんだこいつという視線でも、欠落者のくせにという視線でもなく、まったく普通の視線。

 そして、何事もなかったかの様にまた輪の形に戻り座ったのを見て、僕も慌てて最初の時と同じ場所に座る。

 普通過ぎて逆に怖く感じる空気の中、頭の片隅で嫌な予感を感じながら、なんだかんだ司会の役割をしてくれているレイト君を僕は見つめた。


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