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置き物さんの魔法  作者: 榎本あきな
白粉さん、「待雪草」
15/16

15 白粉さんと戦闘不能


 眩しい光に包まれたと思った時には、もう、目の前の景色は、真っ白な空間へと様変わりしていた。

 壁や建物などが建っているから、まるで街のようだけれど、色彩がまったくないのがここは違う空間だと主張しているみたいだった。


 なんだか、色がついている私たちの方が場違いな感じがする。

 とりあえず、もう勝負は始まっているため、これからどうすればいいのか、隣にいるモノさんに視線を向ける。

私の視線を受けたモノさんは、少し考え込んだあと、探知の魔法をかけるように言って来た。

 やっぱり、先に相手の居場所を見つけて、後ろから奇襲を仕掛けたほうが、相手に大きな損傷を与えることができる可能性が高いかららしい。


 でも……私にうまく魔法が使えるのか。

 初級魔法だから、そんなに難しくないはずだし、前よりも格段に制御は上手くなっているはずだから、成功する確率は高いとは重いけれど……それでも、心配だ。


 だけど、私がやらなくちゃ。


 だって、2人の内魔法が使えるのは私だけで、実際に武器を交えて戦う接近戦が苦手な私は、こういう時と、決定打を与えるときぐらいにしか役に立たない。


 だから、私がやらなくちゃ。


 杖を作り、馴染ませるようにきちんと握ってから、構える。

 なんだか、いつもよりも魔力が変な感じがしたけれど、気のせいだと思い、私はそのまま、呪文を唱える。


「サィ・ホォ・ヨァ・ホォ・オァ・タィ・ザィ・テォ、サィ・ホォ・ヨァ・ホォ・オァ・タィ・ザィ・テォ、アィ・ナィ・チゥ・ホォ・ナィ・エォ・ヒゥ、イゥ・ン・ハィ・ホォナィ・エォ・ヒゥ(彼のものを探せ、彼のものを探せ、私のために、皆のために)」


「探し者」


 そう唱えると同時に、体から前よりもゆっくり、少しずつ、魔力が体から抜けていく感覚がする。

 これなら大丈夫だと私が息を吐くと、ガクンと衝撃がはしった。


 一気に、魔力が持って行かれた。


 ハッとして杖の先を見ると、探知の魔法では十分すぎる……ううん、十分すぎて暴発するくらいの魔力が集まっていた。

 なんとかその魔力を抑えようとするものの、逆に魔力をどんどんと増やしてしまう。

 私が止めようとしている間にも、魔力はどんどん光り輝いて……。



 ……あぁ、ダメだな。



 そう思うと同時に、一際強く光輝き、私が目を閉じると同時に、魔力の塊が打ち上げられた。

 目を少しだけ開けると、光はだいぶ高いところまで打ち上げられ、とても高いところで、弾けとんだ。

 それと同時に、私の頭の中に、私とモノさん以外の人の居場所と、この空間の全体地図が浮かび上がる。


 どうやら、成功したみたいだ。

 ホッとして安堵のため息を漏らしたあと、隣にいるモノさんを見ると、何故か全く違う方向を睨んでいた。

 首をかしげながらも、モノさんの邪魔をしてはいけないと思い、居場所のことは後で言おうと口をつぐんだ。


 その直後、モノさんが急に私の手を掴んで、睨んでいた方向と反対方向に走りだした。

 その方向は、脳内の地図で見た他の人がいる場所と、反対だった。


「ちょ、ちょっと待って下さい!反対に、誰かい―――」




「おせぇよ」




 背後で、何故かレイトさんの声がした。


 唐突に、私は前方に投げ出された。

 顔面はぶつけなかったけれど、ぶつかって痛む肩を咄嗟に抑えながら、後ろを振り返る。

 そして私が見たのは、脳内の地図で瞬間移動をしたかのように移動している1つの点と、空中でモノさんを回し蹴りで攻撃するレイトさん、そして、それを腕を交差させて防ぐモノさんの姿だった。


 モノさんの腕とレイトさんの足がぶつかり、鈍い音がしてから、モノさんが回し蹴りの勢いで少し後ろに下がる。

 回し蹴りを繰り出したレイトさんは、地面に着地すると、そのまま動きを止めた。

 構えたモノさんが、いつ来るかと鋭い視線で睨みつけ、私も、足でまといにならないように、急いで立ち上がる。

 そして、始める前に決めていた、接近戦が始まったら巻き込まれないように逃げるというのを実行しようと、逃げようとしたとき、レイトさんが急にしゃべりだした。


「……お前、ほせぇよ!!」


 …………?

 え、いや、どうしたんですか急に。

 なんですかご乱心ですか?いや、そもそも、「ほせぇ」って何が細いんですか?

 私のその疑問に答えるかのように、レイトさんが叫ぶように喋る。


「全然食べないってさっきアンセも言ってたし、細いって言ってたから、まぁ、ある程度は細いんだろうなって予想してた。けどさ……お前、それは細すぎだろ!?俺、結構強めに蹴ったはずだけど、よく折れなかったな!?」


 その言葉に、モノさんが構えていたのを解除して、オロオロと両手を空中に漂わせている。

 そんなモノさんに気がつかないレイトさんは、俯いて、何かをブツブツと……あれ、なんか、黒いの集まってきてますけど、大丈夫ですか!?


「……俺らが勝ったら、俺と同じ反応なんてものさせるから、飯を食わせるのは他のやつより優しくしようと思ってたけど……やめた!!俺らが勝っても、強制的にまではいかなくても、ある程度は、ぜっっっったいに食わせてやる……!!」


 レイトさんの周りに漂っていた謎の黒いのが、レイトさんの右手に集まり、レイトさんがそれを掴むと、黒いのが一気に下に落ちて消えていった。

 そしてレイトさんの手には……キラリと光る、見るからに切れ味の良さそうな、短剣。

 その短剣の柄を逆手に持って構えたレイトさんは、小さく唱えた。


「重」


 その瞬間、一気にレイトさんが加速した。

 少し離れた場所から、急にモノさんの目の前に現れたが、モノさんは慣れたように半身を翻してレイトさんを避けると、着ているコート内側の背中へと左手をいれた。


 レイトさんが地面に足をつき、反転して再びモノさんめがけて、一気に加速して、自身の持っている短剣を突きつけようとする。

 けれど、モノさんが左手で持っている物を目にして、突き刺そうとしていた剣を横に構えた。


 ガキンと、剣と剣がぶつかる金属音がする。


 モノさんは、刃がギザギザな剣でレイトさんの短剣を挟み、色々動かしているが、レイトさんも同じように動くため、思うようにできないのか、顔をしかめている。


 けれど、そのまま押せばいけそうなレイトさんは、何故か後ろへと下がって距離をとった。

 レイトさんの、悔しそうな声が聞こえる。


「ソードブレイカー、ダガーモデルかよ……とっくに生産は停止してるって聞いていたが……まさか持ってるとは。折られるか叩き落とされるか……分が悪いな」


 そうレイトさんが呟いている間に、モノさんから視線で逃げろと合図される。

 ハッとして、たった1、2歩でもつれて転びそうになる足を叱咤しながら、レイトさんとモノさんがいる方向と逆方向に逃げる。


 ある程度離れたところで後ろを振り返ると、白い建物や壁に阻まれて、見えなかった。

 安心できるところまできたと一安心して、荒げた息を整えるために、1つ深呼吸をする。



「安心するのは、早いんじゃない?」



 後ろからイージスさんの声が聞こえて、咄嗟に振り返るが、後ろには誰もいない。

 どこにいるのかとキョロキョロと辺りを見回してみても、それらしき影も形も一切みえない。

 さっきの声はなんだったのだろうかと思うと、再び声が、今度は上から(・・・)降ってきた。


「正解は…………」



「上だよ!!!」



 上を見上げると、剣を振り下ろす時の格好で上から降ってくるイージスさん。

 反射的に、杖を上に掲げて、防御をする。

 ガンッという音がして、イージスさんの持っている剣と私の杖が十字に交差する。

 けれど、上から攻撃を仕掛けられたため、支えきれなくて、地面に背中を勢いよく打ち付ける。


 背中からの衝撃に思わず咳き込みながら、緩んでしまいそうになる腕に無理やり力を入れて持たせる。

 けれど、私が男の子のイージスさんに力で勝てるはずもなくて、右手だけ、力を抜いてしまった。


「うわっ」


 それが功をなしたのか、杖が右に傾き、杖と十字に交差していた剣も、同じように右の方へと流れる。

 急に地面の方に落ちた剣に驚いたのか、思わず声を上げるイージスさん。


 その隙に、左側に転がって逃げ出し、それと同時に杖を引き抜いて立ち上がる。

 私が立て直している間に、イージスさんも立て直しており、立って杖を構える私に、困ったように頭に片手をやりながら言った。


「ここで仕留めるつもりだったんだけどなー……レイト君に怒られるなー」


 困ったような笑顔でそういうイージスさんが、なんだか怖くなりながらも、これからどうするかを考える。


 魔法は、使えない。


 制御も完璧でないし、なんだか今日は調子が悪いのに加えて、制御のための呪文が私はとても長いから、唱えている隙に攻撃されてしまう。

 魔力を凝縮して放出するのは、少し自信がないし、なにより、怪我はしないと言っても痛みは通常より弱めてあるものの、感じるのだから、できれば魔法より強力なあれは使いたくない。


 そう思っていると、いつの間にかイージスさんがこちらに向かって駆け出してきていた。

 いつの間にか驚く暇もなく、瞬く間に空いていた距離が詰められ、咄嗟に杖を振る。

 そして、はまった。


「「……え?」」


 思わず、イージスさんと共に声をあげる。

 私の身の丈以上にある長い杖には、先端の方に輪っかがあり、その真ん中に魔力の媒体であることを示すかのように、緑で丸い宝石のようなものが浮いている。

 この丸いものは、魔力の媒体には必ずついていて、目の前のイージスさんが持っている剣の柄の後ろの部分にも、さっき、レイトさんが使っていた短剣の鍔の部分にも、色は違うが、同じものがはまっている。


 その球体が浮いている輪っかの中に、イージスさんの剣が挟まったのだ。

 しかも、抜こうとしても、いい具合に球体が邪魔して、輪っかから剣が抜けない。

 とりあえず、この状態を保っていれば、なんとかなるかもしれないと思い、少しだけ安心する。

 けれど、その安心も、長くは続かなかった。


「……面倒なことになっちゃったなぁ……仕方ないや」


 少し困ったような笑顔で言いながら、私の杖からガタガタと外そうとしていたのを止め、小さく息を吸った。

 そして、イージスさんの顔から、全ての表情が抜けた。

 突然の事に固まると、イージスさんが突然叫んだ。


「折れろぉっ!!!」


 輪のふちの部分に力任せに剣をあて……カンッという音を立てて、剣が真っ二つに折れた。

 驚きに固まっていると、イージスさんはこれ幸いとばかりに剣を素早く元の状態に直し、私の喉元につきつけた。


 その時のイージスさんの顔は、さっきみたいな表情が全くない顔じゃなくて、ちゃんとした、いつもの笑顔だったため、思わず座り込みそうになったけれど、喉元の刃を思い出して、足に力を入れる。

 そんな私に構わず、少し安堵したような笑顔を浮かべるイージスさんは、言った。


「よかったー。これで怒られないで済むよ」

「……誰に怒られないんだ?」

「それはもちろん、レイト君……って、レイト君!?」


 話題に出していた本人が真後ろにいて、驚いて剣を私の喉元から外しそうになるが、レイト君の「外すな」の一言で、ピタリと止まった。

 レイトさんは、イージスさんにその指示を出してから、イージスさんの後ろから少し離れた。

 その左手には、フードを被ったモノさんの、縛られた両手首が握られていた。

 思わず息を呑む私に構わず、イージスさんとレイトさんは2人で話を続ける。


「……ってか、戦闘不能にできてねぇじゃねぇか……。まぁ、予想はついてたけどな」

「予想してたの?というか、予定ではモノ君はそっちでって話じゃなかった?……記憶を消しちゃう王子様も、懐にいれた相手にはさすがにってこと?」

「ちげぇよ。お前がアンセを戦闘不能にできないだろうって予想してたから、アンセが戦闘不能になる場面を見せれば、戦意喪失して、利用できるかなと思って」

「うわ、悪趣味だね」

「苦痛を生きてるって感じるやつにいわれたくねぇよ」


 2人が話している間にそろそろと後ろに下がって逃げようとするけれど、その度に気づかれて刃を近づけられる。

 モノさんも、両手首を掴まれているから、下手に動けないみたいだ。


 ……もう、ダメかもしれない。


 っ、ううん!諦めなければ、なんとかなる!

 今日はちょっと魔法の調子が悪いけれど、この魔法なら呪文なしでも唱えられるし、目くらましにできると思う。

 その機会を伺う私に、チャンスが回ってきた。


「じゃあ、剣刺すか」

「わかった」


 その言葉を聞いて、イージスさんが剣を後ろに引く。

 タイミングがずれたら、私は戦闘不能だと思いながら、イージスさんの手元を見つめる。


「これで……終わりだよっ!!」

「瞬く光!!」


 イージスさんが私の喉元に剣を突き刺そうとしたとき、私は魔法を発動した。

 その言葉とともに、杖の先が驚くくらい明るく光る。

 強烈な光がおさまり、光る瞬間に目を閉じたおかげで目の前がまだ見える私は、いそいでその場を離れようとする。


「っ……!!」


 けれど、光をもろに受け、あまりの眩しさにしゃがみこみ、いまだ前がみえないであろうイージスさんが、剣を下から上に振る。


 その剣が、私の足に迫ってくる。


 ダメだ、このままじゃ足を怪我して、動けなくなって、逃げれなくなって、戦闘不能にさせられてしまう。

 けれど、避けろと命じても、私の足は動かない。

 そしてその剣は、私の足にあた―――



カキンッ



 イージスさんの剣が、横から飛んできたレイトさんの剣によって、弾き飛ばされた。

 剣が飛んできた方を見ると、地面に手をついているレイトさんと、左手をこちら側に伸ばしているモノさんの姿があった。

 今はもう取れてしまっているが、フードを被っていたモノさんは、光による被害が少なく、レイトさんの目がくらんでいる最中に彼の拘束をとき、レイトさんの持っていた探検を奪って投げたのだと思う。


 助かった……と、安堵したのも束の間、モノさんが唐突に右の頬を抑えてしゃがみこんだ。

 突然どうしたのだろうとモノさんの右頬のあたりを注視すると、モノさんの肌がどんどん黒色に染まっていくのが見えた。

 急な事に私が驚いていると、レイトさんが、まだ眩しそうに薄目になりながらも、立ち上がっていた。


「目くらましとは……結構やるな。まぁ、その混乱に乗じて、モノに毒魔法をかけれたから、普通って所だな」


 毒魔法……確か、直接肌に触れないと発動しなかった魔法。

 もしかして、私を助けるために、モノさん1人だったら受けなかったであろう毒魔法を受けてしまったのでは……。

 拘束を振りほどくために必要なことだったのだから、全てが私のせいではないと、頭の中では理解しているのだけれども、それでも、モノさんに魔法がかかってしまった要因の1つに私が入っていることが、とても恐ろしい。


 逃げなければ。


 少し離れていたからか、レイトさんにはそこまで効かなかったようで、だいぶ立て直し始めている。

 モノさんは毒魔法にかかり、回復魔法も接近戦もできない私は、チームが勝つためにも、ここで逃げて、勝つための機会を伺わなければいけない。


 ……けれど、足が動かない。


 戦闘不能になるのが目に見えてわかっているけれど、それでもモノさんをおいて行きたくないというのもあるし、今のこの状況が怖いというのもある。

 だけど、なによりも、私は、戦闘不能になりたいのだ。

 私が探知の魔法に失敗したから、私たちの居場所がバレて、レイトさんが襲ってきた。

 私がイージスさんに捕まったから、私を助けるためにモノさんがレイトさんに接触して、そのせいで毒魔法を受けた。


 私が……魔法を、もっとうまく扱えたのならば。


 動かない私を、立て直したレイトさんが見つめている。

 次の瞬間には、私は、レイトさんの魔法でやられているのだろう。




 ……やっぱり、人なんてそう、変われるものじゃないよ。




 俯いた私の耳に、人と人とがぶつかる音が聞こえた。

 顔を上げると、痛みに呻きながらも、レイトさんにしがみついて、魔法を発動させまいとしているモノさんの姿があった。

 モノさんの2つの瞳は、私を見ていた。



 逃げろ。



 瞳から伝えられたその三文字に、今まで、地面に張り付いたように動かなかった私の両足は、とたんに軽くなった。

 後ろを振り向いて、私が持てる全速力で彼らから離れるために駆け出す。


 いつの間にか、私の頬に涙が伝っていた。

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 勝手に諦めようとして、ごめんなさい。

 魔力がなくて、決定打がなくて、私だったら、最初っから諦めているような状況で、モノさんは諦めてないんだ。

 魔力がある私が勝手に諦めて、これじゃあ、モノさんに申し訳が立たない。

 体を張って、モノさんが私を逃がしてくれたんだ。


 ……私も、体を張らなければいけない。




 涙を拭って、私は白い建物中に隠れ、2人を戦闘不能にする算段を付け始めた。


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