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置き物さんの魔法  作者: 榎本あきな
白粉さん、「待雪草」
13/16

13 置き物さんと魔力制御


 アンセさんが一息をつき、話が終わった。

 閉じた本に片手を置いて、俯いたまま、じっと息を張り詰めて、何も言わないで黙っている。

 僕が椅子から立ち上がると、ビクリとアンセさんの肩が動いた。

 そして、再び口を開いた。


「……ルノ君に会いたい……。でも、この状態じゃあ、私、ルノ君に会えないんです……。もっと、頑張らなきゃ……もっと、努力しなきゃ……。……だけど、どうすればいいのか、私、わかんないんです……」


 自分の過去を話して、自分の状況を思い出して、顔を両手で覆い、体を丸め、小さくなった。

 立ち上がってアンセさんに近づき、優しく両手で包む。

 アンセさんは、一瞬ビクリと固まったが、すぐに肩から力を抜かし、僕の体に肩を寄せた。


「いいんですか……?こんな私でも、寄りかかっても、支えられても、……仲間に、なっても……いいんですか?」


 そういって、寄りかかりながら服を掴んだアンセさんの背中を、ゆっくり、優しく叩く。

 そうしていると、段々、アンセさんから鼻をすする音が聞こえてきた。

 僕はアンセさんに何も声を掛けることをせず、また、アンセさんも何を喋るでもなく、2人共黙ったまま、時間だけが過ぎていった。


***


「お見苦しいところをお見せして、すいません……」


 目元を赤くしながら、恥ずかしそうに僕に謝るアンセさん。

 その姿に少し笑みを浮かべながらも、別に大丈夫というように首を振る。

 ……まぁ、僕が大丈夫でも、アンセさんにとっても泣いている姿を見られたのだから、恥ずかしいに決まってるけど。

 そんなことを思っていると、アンセさんが真剣な表情で、僕に話しかけてきた。


「……あの、こんなお見苦しい姿を見せた後で申し訳ないのですが、えと、あの……私に、この強大な魔力を制御する術を、教えて欲しいんです」


 そう言われて僕は、アンセさんのそばにある、アンセさんが読んでいた本を手にとった。

 アンセさんの話を聞きながら、本のページをパラパラと捲る。

 アンセさんは、真剣な表情で俯いて語りだしたため、僕が本を手にとったことに気がついていないようだった。


「こんなこと、魔力を実際に使えないモノさんに頼むのは、お門違いかもしれません……。ですけど、モノさんは魔法が使えない分、知識に秀でていると聞きます。そんなモノさんなら、何か知っているんじゃないかと思って……。……私は、誰かに頼って、支えてもらわないと、1人で立てないくらい弱い人間です。でもっ!その分、私も誰かを支えた……って、え?」


 支えたいと言おうとしたのか、そこで俯いていた顔を上げた瞬間、目の前に開かれている文字が並んだ紙に、疑問の声を上げた。

 アンセさんの目の前に開かれているのは、先ほど、アンセさんが読んでいた強大な魔力を持つ少女が主人公の「シロイキボウ」という本だ。


 この本の中には、主人公が巨大な魔力持ちというのもあって、魔力の制御を習うシーンが描写されている。

 その部分を参考にすれば、きっとアンセさんの魔力制御の手助けになると思い、そのページをさっきまで探していたのだ。




 私は、真剣な表情で先生を見つめた。


「先生。まず最初は、どうすればいいんですか?」

 私がそういうと先生は、腕組みをしながら私に問いかけた。

「媒体……というものを知っているか?」

「媒体……ですか?あれですよね、なんか……仲介するものみたいな」

「……まぁ、大体そんな認識でいいか。いいか?巨大な力を制御するためには、その媒体となるものが必要だ。別名、魔力の物体化とも言われている」

「……先生。難しすぎてよくわかんないです」

「馬鹿のお前には難しかったか。簡単に言うと、魔力を使って杖や剣など、自分自身が扱いやすいものを作れ。最初の課題はそれだ」

「りょーかいしました」


 そういって私は、自分の奥に眠る力を、暴走しないようにゆっくり、ゆっくりと手のひらに集めていき……そして現れたのは、杖だった。




 読み終わったらしいアンセさんは、首を傾げた。


「これをすれば……いいんですか?」


 その言葉に頷くと、僕の手から恐る恐る本を手に取り、それをじっと見つめたあと、ゆっくりと机の上に置き、そして、手のひらを前に出して、目を閉じた。

 小さく何かを呟きながら、手のひらに光が集まっていく。

 最初は淡い光だったものは、どんどん強い光を発し始め、とても強い光になったところで、その光が長い棒状のものになっていく。


 アンセさんの身の丈以上の大きさになったあたりで、棒上のそれは、ゆっくりと光が消えていく。

 そうして、光が消えて現れたものは……木でできた身の丈以上の大きさの杖だった。


「これが……私の媒体……?」


 その杖を手に取って、感動したように目を輝かせながら杖を見つめるアンセさん。

 その姿が微笑ましくて1つだけ笑みを零してから、本に目をやった。




 光の中から現れたその杖は、二の腕くらいの長さの木で出来ており、持ってみると、木とは思えないほど滑らかだった。


「お前にしては……随分綺麗な杖だな」

「私にしてはってどういう事ですか!?」

「そのままの意味だ。それより、次行くぞ」


 その言葉に、私は先生に言いたかった文句を、喉の奥に閉じ込める。

 文句を言うのは、先生から魔力の制御を教わってからでも十分できるのだから、今は魔力の制御を習うほうが先だ。

 そう自分に言い聞かせながら私は、先生の話に耳を傾けた。


「次は、媒体……お前で言う、その杖から魔力を出すための方法だ」

「魔力……ですか?でも、魔力を魔法にした方が制御しやすいって……」

「それは、普通の場合だ。お前の魔力の大きさだと、まず難しい魔力から制御していった方が確実だ。魔法だと、暴走した時に多大な被害をもたらす可能性もあるからな」

「……とりあえず、どうすればいいんですか?」

「杖に魔力を込め、そこからゆっくり蓋を開けていくみたいに、細い管から出すみたいに、ゆっくり、細く、小さく出していくんだ」

「わかりました」


 私はそう言われて、杖に魔力を込め始めた。

 ゆっくり、ゆっくり、私の大きすぎる魔力が、杖の中へと入っていく。

 ある程度入ったところで、その杖の中の魔力を、ゆっくり蓋を開けていくように、細い管から出していくかのように、ゆっくりと、細く、小さく、出していく。

 魔法を使うときより難しいけれど、これを完璧にすれば、きっと私は、魔力を制御できるようになる。

 親友が死んだあとに湧いてきた、この魔力を。

 ……諦めなけりゃ、なんとか、なるはずなんだから。

 そう思いながら、私は、魔力を杖から出していく。




 アンセさんも僕と同じところを読んだのか、小さく深呼吸をしてから、ゆっくりと目を閉じた。

 光ってはいないから僕にはみえないけれど、少しずつ、少しずつ、杖の中に自分の魔力を込めていっているのだろう。

 小さく、小さくいれたその大きな魔力は、ほんの少しだけ開けた、魔力を出すところから、ちょっとずつ、出て行く。

 細くて白い、光を放つ糸が、杖の先端部分あたりにある球体から、しゅるしゅると、まるで糸が解かれていくかのように出てきた。


 その糸は、始めは1本だけだったのに、徐々にその数を増やしていき、やがて沢山の糸が合わさって太い1本の糸になった。

 ずっと震える両手で杖を握っていたアンセさんが、恐る恐る瞼を開き……そして、目を丸くした。

 アンセさんが驚きに目を丸くしていると、集中が途切れたせいか、糸はバラバラになって空気の中に溶けていった。


「こんなに思い通りになったこと、初めて……」


 感動で目に涙を溜め、杖を大切そうに、けれど手放さないようにしっかりと握っているアンセさん。

 こぼれ落ちそうになるたびに服の裾で涙を拭い、感動の余韻に浸っていた頭を左右に振って、余韻を飛ばす。

 先程まで、感動していたとは思えないくらい真剣な瞳をしながら、アンセさんは本の続きに目を通した。




 こんなに思い通りに魔力を操れた経験がなくて、驚くと同時に、感動と、そして、この制御をあの時きちんとできれば、村を半壊にまで追い込むこともなかったんじゃないかと思う。

 ……まぁ、普通より多い上に、あの時までただの村娘だった私が、そう簡単にできるわけないんだけど。

 今だって、これまでよりってだけで、普通と比べたら全然扱えてないと思うし。

 そんなことを考えていたら、先生が頷きながら言った。


「ま、お前にしては、上出来なんじゃないか?」

「はい!これまでより、大分思い通りに操ることができました!……まぁ、普通の人と比べたら、まだまだなのかもしれませんけど……。でも、こんな操れたのは初めてです。先生のおかげです。ありがとうございます!」

「いや、別に礼はいい。……ついでに、魔法を使わずにできる、必殺技を教えてやろう」

「へ?」

「いいか。よく見てろよ」


 悪い笑みを浮かべて、唐突にそんな事言う先生に驚いていると、先生は私に背を向けた。

 先生が何をしているのかみえないため、見る為に横に移動をすると、先生はそれを待っていたかのように、手元から先生の魔力の媒体である、音楽隊の指揮者の人が持っているような先端が尖っている小さい杖を出した。

 そうしてから、私をちらりと横目で見てから、尖った部分の先に、魔力で球体を作り出していく。

 いつも普通くらいな先生の魔力は、その球体に注がれ、魔力でできた球体はいつもの先生の魔力よりもとても濃縮されていて……なんて言うんだろう、それだけ、私の魔力並の濃さになっていた。

 驚きに目を丸くしている私を見て、ニヤリとまた悪い笑みを浮かべてから、先生が前を見据えて、小さく呟いた。


「線」


 その声と同時に、球体から細い針みたいなのが飛び出して、その先にあるレンガでできた頑丈な壁を貫いた。

 その針が光のように空中に溶けて消えると、何かがそこを通ったかのように、レンガの壁にはさっきの針の形のまま、丸い穴があいていた。

 その穴のふちは、壊すというより、溶けたような形をしていた。

 唖然と穴を見つめる私に、先生はしてやったりという顔をしながら、私に言った。


「さっきの制御が慣れると、魔力を小さく纏めることができるようになる。そうすると、当然その分、魔力は濃度をまして強力になる。それを線のように放出させると……さっきみたいなことができるわけだ」

「……す、凄いです先生!あの制御をやり続けると、こんなことができるようになるんですか!!」

「ああ。お前だったら、俺よりももっと強いあれを放出できるようになるだろう。……だが、あくまで必殺技だ。普通のやつがやっても危険なのに、お前がやったらさらに危険になる。魔物などを相手にして、本当に危機が迫った時、対人戦の時は、牽制のため……といっても、お前じゃ制御が難しいと思うから、こっちは極力やらないほうがいいと思うが……」

「ん……んんん?つまり?」

「魔力制御を、俺がいいというまで、あれは使うな。俺がいいと言っても、本当に危険になった時以外は使うな」

「わかりました」


 でも、魔力を制御できるようになれば、あんなことができるようになるんだし、魔法だって暴走することだってなくなる。

 そのためだったら、なんでもする。

 ……あいつのためにも、そして、私のためにも、もう誰も、傷つけたくないから。




「魔力の制御をし続ければ、戦う時の切り札ができて、なおかつ、魔法もできるようになる……ということですか?」


 こちらを伺うように尋ねるアンセさんに、僕は頷く。

 魔法が暴走しないようになれば、アンセさんの目的も達成できるし、切り札があれば、今度やるチーム内戦で向こうの不意を突くことができるかも知れない。

 それに、魔法は今まで暴走してきた経験から、また暴走すると自分自身で無意識に暗示をかけてて、暴走しやすいって可能性もあるけど、魔力だったら今日の経験から、できるって思ってるだろうから、成功しやすいだろうし。


 確かに、魔力を凝縮してそれを放出するのは、とても危険なことでもある。

 もともと、魔力自体も、何もない純粋な水が僕らにとって危険な事と同じで、そのままの状態だととても危険なものだ。

 それを、魔法というものに加工して、危険を和らげているのだ。

 だから、魔法同士は同じ力がぶつかると消滅するし、その加工部分には必ず弱点があるから、解除の呪文がある。

 まぁ、属性とかの相性で、同じ力じゃなくても、大きい魔法が小さい魔法に負けることはあるけどね。


 だけど魔力は、純粋なものだから、相性もないし弱点もない。


 同じ強さの魔力をぶつけて相殺することしかできない。

 だから、この本でも、先生と呼ばれる人は主人公に自分が許可を出すまでやるなと言っていたのだろう。

 そんなに危険なのに教えたのは、魔力……というか魔法を使えないことが、身を守れないということが、死につながるからだろうけど。


 ……まぁ、今回のチーム内戦は、攻撃が当たると痛みはあるものの、結界の部屋に痛みを軽減する魔法がかけてあるし、回復魔法もかけてあるから、大怪我をしても瞬時に回復する。

 魔法を重ねがけするなんて大変だろうに、死ぬことを心配しないで戦えるのは本当に嬉しい。

 まぁ、僕らが死んだら困るのは向こうだから、死なないようにするのは当たり前なんだろうけど。


 そんなことを考えながら、僕は図書館へと向かった。

 アンセさんも真剣に魔力制御に励んでいるから邪魔しちゃ悪いし、確かあの本の次の巻にも、魔力制御だったか魔法制御だったかは忘れたけど、確かそういうのが載ってたはずだし。



 本以外の事で久々に、気分が高まった。



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