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置き物さんの魔法  作者: 榎本あきな
置き物さん、「龍池躍龍龍己飛」
1/16

1 置き物さんと欠落者

※注意

・このお話は、差別的な表現が入っていますが、推奨しているわけではありません

・まったくそのつもりはないのですが、他の著者様の作品と万が一似たような点がございましたら、ご一報お願い申し上げます

・突発的に書いたもののため、もし疑問な点や不明な点、矛盾などがございましたら、感想欄にて質問、あるいは指摘していただけると助かります

・感想欄での他の方々が不快になる行為はおやめください

・この作品は趣味で書いているので、皆さまを長らくお待たせしてしまう場合がある可能性が高いですが、ご容赦願いますと嬉しいです

・この注意書きは臨時追加する場合がございます

以上


最後に、この先自分でもどうなるかわからない突発的に始めた話ですが、暖かく見守って下さると嬉しい限りです!!

よろしくお願いします!!!

 ある家の、それはとてもとても綺麗な貴婦人が、大きく膨らませたお腹を撫でながら、愛おしそうに呟いた。


「ああ、私の愛しの我が子……早く、私に姿を見せてくださいな」


 そういって、その貴婦人は来る日も来る日も、大切そうにお腹を撫でていた。

 そして、とうとう貴婦人のお腹の中にいる赤ん坊が、外の空気を吸い込む時が、やっと来た。

 貴婦人は、最近開発されたといわれる、お腹を傷めないでも赤ん坊を生むことができる魔法具に、手をゆっくりと当てた。


「ようやく……あなたに出会えるのね。この日が来るのをどれだけ待ったことか!!」


 歓喜の叫びを唇から空気へと発しながら、貴婦人はその魔法具に、触れるような、まるで自身の夫にするかのような、柔らかいキスを落とした。

 それと共に、キスを落とした所から光が溢れ出て、やがてその光は球体の形をしている魔法具の、ちょうど真ん中でぼんやりと浮かび始めた。

 ゆったりと揺れる光が、徐々に人の形を作っていき……やがて、小さな赤ん坊の姿になった。


 その赤ん坊は、泣きもせず、ただ、球体の中で浮かびながら、静かに眠るだけだった。

 愛おしそうに赤ん坊を眺めていた貴婦人は、ふと、視線を落とした。


 そして、驚愕に目を見開き、絶望に瞳を歪め、嫌悪、憎悪、悪意、この世の全ての悪感情を込めたような、悲痛な叫び声を、上げた。




欠落者(ルルア・フィトス)……っ!?!?」




 魔法具の、魔力……と呼ばれる物を量る所には、なんど目を擦ってもわかるくらいはっきりと……「0」と表示されていた。


***


 僕が住んでいるこの国、ベルリアントの首都、ルリージオには、この世界で最も有名な魔法学校、リザイクラントリック学校……通称、リザ学がある。


 このリザ学は、僕の通っている学校でもあり……僕が、何の興味も示さない学校でもある。

 いや、この学校にある本の知識にはとても興味を持っているんだけど……それ以外、人とか、授業とか……魔法とか。


 だって、僕には関係ないことだから。


 周りは僕を嘲笑の目で見つめ、避け、嫌うし、授業なんて、僕だけ授業に参加できず、課題を用意され、魔法なんてものは生まれてこの方、見たことや干渉したことはあるものの、関わるのもできるならばやめて欲しいと言われる始末だ。

 そんな風に扱われ、自分のやる気だけで変わる知識と比べたら、そんなもの興味も湧かないに決まっている。


 別に嫌いなわけじゃない。興味が湧かないだけで。


 そもそも、この学校だって、試験すら受ける資格のない僕を、親が卒業したときの肩書だけを求めて、気乗りしない僕を、無理やり入れたようなものだ。

 楽しいならまだしも、これじゃあ、無理だ。

 まぁ、寮暮らしだから、酷い扱いをされる家に帰らないで済むのは少し嬉しいし、パーティーなんかにも参加しないで済むから、あんまり好きじゃない親戚の人達に顔を合わせないですめるのは、とても嬉しいことなんだけれど。


 どうして僕がここまで人々に嫌われるのか……それにはわけがある。

 僕は、100万人に1人と呼ばれる、滅多に生まれない特性というか、体質を持った人間であるからだ。

 他の種族ならまだしも、僕ら人間にとって、その体質は生命の危機にも関わってくるものであり、僕がこの年まで生きてこられたのも、僕の家が大変裕福な家庭だったからだ。

 もし僕の家庭が貧乏、あるいは平凡な家庭だったら、余程の幸運に恵まれない限り、僕は死んでいただろう。

 それほどまでに、僕の体質は人間にとって大変厄介であり……死神からの使いと言われるくらい、忌み嫌われているものだ。


 両親には無視、兄妹からは軽蔑、親戚からは嘲笑、唯一味方であり、僕と同じような境遇でありながらも敏腕当主であった祖母は、僕が物心つかない頃に、僕を成人までは見捨てない事を遺書に残し、この世を去った。

 こんな体質を持って生まれて、何度死にたいと、何度助けてほしいと、何度苦しいと感じたかもわからない。

 けれど、祖母がせっかく僕のために、僕が自分で生きられるくらいの年齢になるまでは見捨てないと、遺書にまで残してくれたのに、それを無下にできるほど、僕は荒んでいなかった。

 そのため、現在では、親のコネで入ったこの学校で、僕はこの体質でも唯一いられる方法……筆記で1番を取り続ける、という方法で、今もなんとかこの学校でも留まることが出来ている。


 だが、そのためには、他の人よりも何倍も勉強しなければならない。

 けれど、僕が体質の所為でできない授業の合間は、先生達が嫌がらせの様に……いや、実際に嫌がらせなのだろうけど、他の人とは比べ物にならないくらいの課題を出してくるため、なんとかなっている。

 それでも、ほんの少しでも気を抜くと、あっさり1番の座を奪われてしまいそうな危うい立場のため、それ以上の努力は欠かせないのだけれど。


 今だって、そのために図書室へと足を運んでいる。

 コツコツと響く靴の音に意識を集中させ、周りの嫌な声を聞こえないようにしながら、手に抱えた紙の束を抱えなおす。

 だって、そうしないと、僕にとって最も耳障りな言葉が、聞こえてしまうから。

 ほら、今だって。


「おい、あの黒い髪……」

「マジかよ!しかも、噂は本当みたいだぜ!!」

「うわっ、ほんとだ……。じゃあ、あいつが―――」



「―――欠落者(ルルア・フィトス)……」



 聞こえてきた。


 その声に、何も感じないような、いや、本当に何も興味が湧かないまま、僕は図書館への扉を開ける。

 本の貸し出しカウンターに座っていた司書さんが、読んでいた本から僅かに顔を上げ、ちらりと僕を見ると、また本へと顔を戻した。


 最初は、僕を見るたびに嫌そうな顔をしていたけれど、この6年間、ずっと通い続ければ、さすがに慣れるのだろう。

 この方が心地いいと思いながら、いつもの場所、たくさんの本棚に囲まれて、司書さんでも把握しているかわからない本の山をかき分け、自然に隠れてしまったような、少し小さ目の、立て付けの悪い扉を、いつものように少し持ち上げながら、ドアノブを捻って静かに開けた。

 電気は一つもついておらず、唯一ある高い窓から差し込む光だけが明かりとなっている、少々埃っぽい、本に囲まれた部屋。

 魔法に頼り切った人達では、絶対に開けられない、この部屋。


 ここが、僕の居場所。


 誰の視線も浴びず、誰の悪意も向けられず、誰にも気づかれることはない、この場所。

 この場所が、この学校、この都市、この国、この大陸、この世界で、唯一僕の居場所。


 ここに籠っていれば、僕の体質のことも、この学校のことも、僕を嫌う家の事も、何一つ考えることをしなくても、いい。

 大好きなこの場所で籠っていると、時間を忘れてしまう。

 そのためか、休み時間などで僕を見る人は少なく、さっきの、この春先に新しく入学してきた生徒たちみたいな人以外は、授業でほとんど声も発さず、ただただ課題をやるだけの僕を、こう呼んでいる。



















置き物と。



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