legend of examination
周りの受験者がシャープペンシルをカリカリと動かす音だけが耳に入ってくる。時計の秒針が動き続け、試験終了時刻が切迫してくる中、俺の手の動きは止まったままだ。
何故だろう。4つあるうちの2つ目の大問で躓き、そこから前へ進めない。過去問の合格点などからして、最低2つの大問は完答しなければ合格は不可能。まさに絶体絶命だ。
何が足りないのだろうか?
努力?素質?経験?
どれも違うように思われる。高校に入ってから部活にも入らず、ただひたすら勉強に打ち込んできた。他にも努力している人間はいたが、校内模試では学年主席の座をキープした。模試や過去問も徹底的に受けて、経験不足も感じていない。
だったら何故解けないのか・・・
その時頭によぎったのは「目標」という言葉だった。
「そういえば俺は何故勉強しているのだろう?」自分自身に問いかけてみる。これまでは東協大学合格を目標に、勉強に取り組んできたが、それは目標とは違う気がする。そう、東協大学に入るため、ではなく東協大学で何をしたいのか、そこが重要なのだ。
考えてみれば、将来何こんなことをしたい、だからそのために勉強する。そういった意識が無かったのだ。具体的な目標もなく闇雲に勉強していただけだ。
勉強もスポーツ等と同じく、一種の競技である。本当に強い意志が無ければここ一番という本番では、真に自分の実力を出し切ることはできない。
勉強を始めたばかりの小学生のころのことを考えてみよう。何故勉強をしたのか?
先生に言われたからだろうか。いや違う。
そうだ、算数が大好きだったから、「算数博士になる」という目標があったのだ!
算数博士になるために算数を勉強していたあの頃は、勉強が何よりもエネルギッシュな活動に思われたし、実力はみるみるついていった。
ところが、算数が数学へと変わっていくうちに数学は受験のためのツールとなっていき、目標を見失っていたのだ。
改めて自分の目指していた「算数博士」を認識しよう。
それこそが俺の意志の強さであり、潜在的な真の得点源なのだ。
目標を再認識した今、問題用紙にプリントされた数列やsinθなどの記号は無限の可能性を持った魔法の言葉のように思われた。
ー今の俺ならどんな問題でも解けるー
意志の強さが実感へと変わり、俺は右手でゆっくりと、力強く握り拳を作り、手を開いてシャーペンを握った。
その瞬間
「試験終了です。回答用紙を回収します。」
試験管の声が教室内に響き、大問2で止まったままの回答用紙が回収された。