表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/81

Ver.了エンディング

「勝利の女神ーっ!」


 すごい単語を叫びながら、絹は飛び付かれた。


 その勢いと重さに、よろめいてしまう。


 強い男を目指してきた彼は、たったいま高校生の頂点に立った。


 そんな身体で、昔と同じノリで飛び付かれると、絹も支えきれなくて当たり前だ。


「すごかった? 強かった? かっこよかった?」


 汗びっしょりのまま、全身で褒めてとアピールが押し寄せる。


「うんうん、すごかったし強かったしかっこよかったよ」


 タオルで汗を拭いてやりながら、絹は笑った。


 昔、宣言した通り、中身は可愛いままだ。


「やったーわーい!」


 無邪気に、思い切り抱きしめられる──人目があるにも関わらず、だ。


「ちょ…ストップ。周りを見て」


 絹は、慌てて彼を制止した。


 このまま、キスまでされそうな勢いだったのだ。


「えー…」


 しかし、まったくもって周囲の空気を感知せず、彼は頬をふくらませる。


「じゃあ、誰もいないとこいこ!」


 その目が。


 一瞬できらっと光る色をたたえ、絹の腕を引っ張って会場を後にする。


 あ、あからさますぎる。


 引っ張られながらも、絹は爆笑したい気持ちを抑えるので大変だった。


 本当に、自分の生きたいように生き、やりたいようにやる男になったものだ。


 強引でワガママで、それでいて、どうしても憎めない。


「これで大会も終わったから、絹さんとどこへでも行けるよ…待たせてごめんね」


 会場裏手に、てきぱきと絹を連れ込む手際とは裏腹に、本当に嬉しそうに言葉を吐く。


「海がいい? 山がいい? 星を見に行く?」


 にこにこしながらも。


 更にてきぱきと、絹を抱きしめる。


 ギャップが、おかしくてたまらない。


「進路はいいの?」


 学年的には、ダブりの絹よりひとつ下になる彼は、いま高校三年生。


 夏の大会が終わったら、次は進学が待っているだろうに。


「うん、大丈夫…僕、進学せずにアキさんとこいくから」


 笑顔で──とんでもないことを言い出した。


「アキさんとこって…」


 具体的な想像がつかずに、絹は眉をひそめる。


「いまね、武道家を指導員として、世界に派遣してるんだよ、アキさんとこ」


 そういえば。


 昔に起きた、あの事件の後。


 絹の後輩たちの半分近くは、アキの里に引き取られたと聞いた。


 社会にすぐに復帰できない子らを、彼女が面倒を見ていたのだ。


 武道の才能のある子は、その方向で育てているとも聞いた。


 そうか。


 あの子たちも、ちゃんと社会へ戻っていっているのか。


「ぶー…絹さん、いま遠い目をした…僕、それ嫌い」


 遠い思い出に引っ張られかけた絹は、一瞬にして彼に足を掴まれ、引きずりおろされた。


 暑いのに、ぎゅうぎゅうに抱きしめられる。


 日陰なのが、唯一の救いか。


「僕をちゃんと見てよ! かっこいい僕を!」


 本人が至ってまじめに言えば言うほど、どうしてこうおかしくなるのだろう。


 確かに、彼を見ていると、遠い目をする暇もなさそうだ。


「見てるわよ」


 くすくす笑いながら、絹は答えた。


「ほんと?」


 疑いのまなざしが、真正面。


 見ていると言った手前、この近距離でも目はそらせない。


「ほんとほん…」


 笑いながら、肯定しようとしたのに。


 我慢のきかない可愛い坊やは──ちうちうと、ねずみのようなキスを始めている。


 口紅、塗ってるのに。


 自分の口紅が、はげる心配をしているのではない。


 彼が口紅をつけたまま──表彰台に上がってしまう方を心配したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ