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Ver.森村エンディング

*****注 意*****

ここからは、おまけのエンディングです。


絹の未来のひとつひとつに分岐していますので、サブタイトルから好きなものを選んでお読み下さい。


****************


「久しぶり」


 偶然、というには変な話だ。


 こんな山奥で、たまたま会えるはずがない。


 彼は。


 ゆっくりと、絹の方を見た。


「ああ…久しぶりだな」


 しかし、驚く様子はなかった。


 穏やかとは言いがたいが、自分を包む棘を、自分で折り続けているのが分かる瞳。


 若いのに、綺麗に丸められた頭が、彼の心の現われか。


 3年たった。


 正直に言えば、猛烈に探したかったわけではない。


 ただ。


 心のどこかに、ずっと引っかかっていた。


 当事者というよりは、織田の犠牲者だった彼のことを。


「兄さんは、元気かい?」


 絹に話すことは、きっとそれくらいしか思いつかないのだろう。


 高校時代も、同じだった。


「ええ、皮膚の再生手術を自分でやって、綺麗に身体の傷を消すくらい元気よ」


 大きな大きな身体の傷を、そうしてボスは消した。


 あの日のことを、なかったことにしたかったわけではない。


 もう、いらないのだと。


 誰もが、過去の記憶から抜け出てゆく。


「……」


 あの日と、もうひとつ別の業を背負ってしまった男が、そこにはいた。


 何かを聞こうとして。


 しかし、唇を閉じてしまった男が。


「そういえば、ボスがすごい義手を作ったのよ…人の手に限りなく近い奴」


 絹は、くすっと笑いながら、話題を変えた。


 不自然な話題の転換だ。


「……」


 彼が、コメントしないことなんか、分かっている。


 だが。


 頭の中で、何かを思い描いているのだけは、痛いほどよく分かった。


 そんな絹の足元に。


 ひょこ。


 ちっちゃい子供がいた。




 あら。


 ひょこひょこ。


 しかも、増える。


「おねーちゃん…だぁれ?」


 無邪気な目が、珍しいもののように絹を見上げてくる。


「お客さまだよ…あいさつをしなさい」


 静かな静かな、声。


 子供らには、それがまっすぐに耳に入るらしい。


「こんにちはー」


 ぴょこっと、素直に頭を下げる。


「中の方に行ってなさい、すぐにゆくから」


 彼は、子供らを寺の方へと促す。


「はーい」


 はしゃぎながら、はねながら、ちびっこたちは奥へと駆け出した。


「……」


 そしてまた、沈黙。


 あの子たちの、説明はしないんだ。


 くすっと、絹は笑った。


 あの中に。


 もしかしたら、森村の子供がいるのかもしれない。


 行く当てのない、青柳の子供たちなのかも。


 とりあえず、森村は自分なりに、生きる意味を手に入れたのだろう。


 それが、幸せなのか償いなのか弔いなのかは──分からないが。


「お邪魔したわ…」


 帰ろうと、絹は別れの挨拶を言いかけた。


「いや…」


 ようやく、彼女のために唇を開いてくれる。


 それに、少し嬉しくなって。


「そのうち、また顔を出してもいい?」


 言ってみたら。


 少しの沈黙の後。


「……ああ」


 と、答えてくれた。


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