陽の一族
迎えのバンに乗り込むと、中には五人いた。
袴姿の、がっしりした男二人が、アキの弟たちだろうか。
問題は、残り三人。バンの後方スペースいっぱいに、銃火器を並べている。
しかし、それらは旧式に見えた。
大事に使い込まれてきたのか、美しく磨かれている。
「銃砲隊の一族です…こんなことに呼んで、喜ぶ人間はここだけですよ」
くっと、アキが笑う。
「人数制限しないなら、あと十人はきたぞ」
旧式とはいえ、バズーカまである。
その砲身をなでながら、若い男がにやりと笑う。
「武術隊と違って、銃砲隊は活躍できる場所が限られてるからな…随分、海外へ行ってしまったよ」
この中では、一番小さい男がアキを見上げる。
彼女の目の奥に、何かを見つけようとしていたのか。
苦笑混じりに、首を横に振って顔を下げた。
「そちらは?」
弟の一人が、絹を見る。
車内で唯一、空気を共有しない者。
「絹です…よろしく」
この感覚に、覚えがある。
訓練で、まったく知らないチームに放り込まれた時と似ている。
目で会話できる連中の中に、入った異物なのだ、自分は。
「武術はほどほど…射撃はひととおりできます」
スキルを明確にし、お客さま状態を早く脱すること。
皮肉だ。
まだ、訓練の基本が身体にしみついている。
しかし、それがいま、唯一絹に出来ること。
「こんだけの銃見て、普通に話せる日本人なんて、まともじゃないのは分かってる…よろしく、絹…歓迎するぜ」
ここは。
銃を扱う人間でさえ――陽の目を持っているのか。
※
行き先の話を聞いて、絹は愕然としながらも納得していた。
『養成施設』をつぶす、というのだ。
簡単に言おう――絹のいた施設である。
「養成されている人間は、ほとんど非合法で連れてこられている。要するに、強制収容されてるわけだ」
目元がアキに似ている、年若い男。
外部地図、そしてどこから手に入れたのか、内部地図まで、彼が広げてみせる。
「指導教官を押さえ、彼らを解放して味方に吸収します」
続けられた言葉に、恐ろしいほど納得する。
こちらは、たった六人。
一つの施設を制圧するには、全然足りない。
しかし、向こうは一枚岩ではない。
教官クラスを除けば、逃げることに絶望し、ただ生き残るためだけに生きている者たちだ。
施設そのものに張り巡らされているセキュリティと、教官をなんとか出来れば、内部崩壊が導ける。
「だから、了くんのバックアップがいるのね」
セキュリティは、内部から以外に外部接続もしてある。
もしも、教官たち全員にトラブルが発生したら、遠隔で蟻一匹出入りできなくなるのだ。
そのシステムをハッキングする人間が必要だった。
だから、了は応援を呼んだのだ。
「角川がサポートに入るんだろ?」
「ああ、そういや広井んトコで働いてたな、あのバカ」
密やかに、かわされる言葉。
聞き覚えのある名前だったが、絹は思い出すのはやめにした。
いまは、かつての自分の巣を睨みつけるので、精一杯。
ただ。
ここなら、誰よりも戦える。
絹は――そう確信していた。
※
夜なら、教官は三人くらい。
ただし、アキクラスの腕だし、武術も火気もお手のものだ。
高速を経由し、長く長く車で揺られ、二時過ぎに見覚えのある山道に入った。
忘れられない、忌々しい山。
売られて出ていったとしても、絶対に戻ってくるもんかと、誓う場所だ。
「角川…もうつくぞ、終わったか?」
携帯を顎で挟み、バックアップの状況確認をしている。
「はいはい、もう少しね…わかったわかった」
携帯を切った男は、状況をいちいち復唱したりはしない。
手間取っているようだ。
「角川の腕も鈍ったなぁ」
「ゲームばっかり作ってるからだろ?」
「オタクの割に女好きだからな、女ボケもありだな」
言いたい放題言われてますよ。
絹は渡されたハンドガンを確認しながらも、苦笑してしまった。
思い出そうとしなくても、勝手に頭に顔がよぎったのだ。
絹に声をかけてきた男は、軽そうに見えて肝が座っていた。
アキ側の人間だったなら、納得もいく。
絹に、違う匂いを感じたのかもしれない。
絹の携帯が、振動した。
了からだ。
『絹さん、こっちオッケーになったよー!』
明るく笑顔で――角川の手柄を横取りだ。
きっと了は、チョウとは違うタイプの大物になるだろう。
「ありがとう」
笑いながら、絹はそう確信した。
「バックアップ、いけるそうです」
彼女は、きちんと報告したが、既に気配を感知していたのか、銃砲隊は準備完了状態だった。
「地雷に注意してください。板を渡した跡の場所は安全ですが、狙い撃たれる場所でもあります」
絹は――言わなければならなかった。
それが、自分の本当の身元を明らかにしてしまったとしても。
「なるほど、じゃあ狙い打たれるような、開けてる場所が安全ってことだな」
詳細情報として、絹を知らない人たちは、素直にそれを受け入れる。
アキは――絹を見ないでくれた。