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パイパティローマ-4

土手の下には親父のバイクが止めてあり、見上げると親父が腕を組んでいるのが見える。

「おう、坊主。待ちくたびれたぞ」

「約束した、憶えはねえがな」

「ちょっと話しがある。良いから黙って聞け。沙羅は子どもの頃に辛い思いをしているんだ。不思議な力のせいでな。俺には知った事じゃねえが田舎の連中は鬼喰いだと言っていた。沙羅は子どもの頃に家の事情で親戚に預けられて俺が通っていた学校に来たんだ。だが噂が直ぐに広まった小さな田舎だしな、鬼喰いが学校に居るって。よそ者は沙羅1人だった。いつも傷だらけにされていた。俺はそれが許せなかったんだ、寄って集ってただの小さな女の子を苛めやがる。鬼喰いだとかそんなのは関係ねえ。その時、誓ったんだこの女の子は俺が絶対に守るって、泣かすヤツは誰だろうと許さねえって。たとえ、それが自分の息子でもだ。大人気なくお前にきつくあたった。すまなかったな」

「いいさ。俺にも今なら分かる。海を泣かすヤツはたとえそれが親父でもぶっ飛ばす」

「それから学校を出て直ぐに沙羅を田舎から連れ出そうとしたんだ。沙羅の母親は反対しなかった。たった一言だけ言われた言葉がある『2人の愛の力で運命をねじ伏せてみろ』ってな。たぶん解っていたんだろう。俺には出来なかったがお前なら出来る筈だ。過酷な運命なんて捻じ曲げて来いよ」

「分かった。茉弥の体は治っている筈だ。後は任せたぞ、親父」

「任せとけ」

その時、頭にイメージが浮かび体に痛みが走った。

「おい坊主、どうした」

「海がヤバイ。でも居場所が判らない」

「坊主、落ち着け。クールだ、クールになれ」

隆羅の叫びが河川敷に響いた。


海の胸元が光り輝きだし海の体がビクンと動き海が意識を取り戻す。

目の前にはキルシュが倒れていて潮が黒い蛇に巻き付かれ苦痛に耐えていた。

「キルシュ。お姉ちゃん」

「そんなバカな、気が付く筈が無い」

「海、良く聞きなさい。隆羅は無事よ人違いだったの。その胸で光っているのは羅閃ね。隆羅の事を思いそれを吹きなさい。隆羅は必ず来てくれる。隆羅を呼ぶのよ。早く」

「何、羅閃だと」

闇が海に手を伸ばすより早く海が光っている羅閃を思いっきり吹いた。

心の思いを全てを込めて。

音はしなかったが隆羅と繋がっている感覚は確実にあった。

「それを、寄こせ! クッ」

闇が羅閃をつかむと強い光が走り羅閃を握った手から白煙が上がっている。

「退魔師の小僧を呼んだか、好都合だ。この俺様が全てを手に入れるのだからな」


頭が割れそうで土手に膝を着き両手で頭を抱えていた。

「坊主、落ち着かないか。そんな事でどうするんだ。嬢ちゃんを守るんだろうが」

そして、体が痙攣したようになり頭の中に鮮明なイメージが現れ笛の音が聞えた。

それは母から羅閃を譲り受けた時のあの感覚と全く一緒だった。

「岬だ。親父、あの岬に海はいる」

「よし、坊主。後の事は俺に任せろ。蹴散らして嬢ちゃんを守って来い」

親父がヘルメットを投げた。

ヘルメットを受け取り土手を駆け下りる。

「絶対に嬢ちゃんと帰って来いよ。沙羅を泣かしたらボコボコにするからな」

バイクに乗りエンジンを掛け片手を上げて合図した。

「隆羅、絶対に死ぬなよ」

仁が携帯を取り出し耳に当てた。

「バイク屋か? 俺だ仁だ。隆羅が俺のバイクでかっ飛んで行った。援護してくれ。場所は千葉の勝浦方面だ。コールしろ!」


沙羅は玄関で泣いていた。

「必ず生きて帰ってきてちょうだい、お願いだから。2人一緒にね。きっとよ」

そこに凪が降りてきた。

「如月ママどうしたの?」

「なんでもないわよ、大丈夫」

自分に言い聞かせるように沙羅が涙をぬぐう。

「如月ママ、パイパティローマって、何?」

「タカちゃんから聞いた事があるわ。確か沖縄の島に古くからある言い伝えで沖縄の更に南にあると信じられている楽園の事よ。それがどうしたの?」

「兄貴がお姉ちゃんに会いに行って。それからパイパティローマを探しに行くんだって、きっと帰ってくるからって言っていたの」

「タカちゃんが帰ってくるって言ったのならタカちゃんを信じて待っていましょうね。タカちゃんが嘘ついた事なんて一度もないでしょ」

「うんそうだね」


隆羅は直ぐに高速に乗りバイクを飛ばす。

思った通り時間の問題だった。

しばらくすると高速隊のパトカーが現れた。

「クソ、やっぱり来たか。どうする。千切るか」

すると合流口から族ぽい車やバイクが合流してきた。

前を走る大型トラックのドライバーが窓から腕を出し親指を立て拳を突き上げながら道を譲った。

そして族ぽい車やバイクが同じように拳を突き上げパトカーを取り囲んでいる。

「もしかして親父なのか。また、仮を返さねえといけねえじゃねえか」

隆羅も拳を突き上げ答えアクセルをさらに開けた。

後ろから鳴り響くクラクションが聞えた。


アクアラインに入ろうとしている水神コンツェルンの傘下会社の営業車が1台走っていた。

「おい、クロ。久しぶりに流しに行こうと言っておいて。携帯ばかり弄りやがっていい加減にしろよ」

「そんな事よりスギ。良いのか。営業車だぞこれ。それに凄い物を手に入れたんだ」

「良いんだ俺専用だし。凄い物ってなんなんだ」

「キングのコールナンバーだ」

「あの伝説とか言うやつか。お前も相変わらず好きだなそう言うの」

「走り屋の伝説で峠では向かう所敵なし。週末はレース荒しをしていたと言われていて。息子も凄腕でキッドって走り屋は呼んでいたんだ」

「キッドね、なんなだかな。まるでマンガだな」

「アドレスを登録しておくとキングのコールが掛かるんだ。苦労してやっと調べたんだ。そしてキングのコールは絶対で。従わなければ男じゃ無いんだ」

「でも伝説なんだろ。どうせ都市伝説みたいなもんさ。クロもバカだな」

その時、黒崎の携帯の着信を告げた。

「き、来たぁ! キングのコールだ」

「冗談も程ほどにしろよ。まったく」

「み、見てみろよ」

黒崎が携帯を突き出すと杉田が携帯の画面を覗き込んだ。

「何々、千葉に向けてブッ飛んでいるゼファーを援護しろ。なんだこれ」

トンネルの中を今まで聴いたことも無い甲高いエキゾーストを響かせながら迫ってくるバイクがあった。

「おい、クロなんか来たぞ」

「速い! 何だあれ」

閃光の様に走り去っていくバイクを見送る。

「スギ! 俺、キサに見えたんだけど」

「ク、クロお前もか。拳突き出して合図してたよな」

「そう言えばキサの彼女の海ちゃんが休みの度に親父とレースに行っていたって」

「親父がキングで、キサがキッド?」

黒崎と杉田の声が揃った。

「アイツを締め上げて聞き出すんだ。クロ」

「がってんだ、首洗って待っていろキサ」


アクアラインを抜けて千葉に入っていた。

「しかし、男2人で海ほたるもねえだろうに相変わらずだな。今度はあいつ等も誘ってやるか。世話になったしな」


『喫茶 風』のおやっさんの携帯が鳴った。

「おやっさん。携帯が鳴ってますよ」

「サンキュー、ミノル。おっ、バイク屋どうした。何? 隆羅が仁のバイクで勝浦に向かってるって。援護しろ? 任せとけ」

「おやっさん、どうしたんすか」

「キングのコールだ。神風BOYのキッドがこっちに向かっている、おそらく五月蠅い蠅付だろう。お前らどうする」

「決まってるやんけ、なぁ、兄貴」

「おうよ、ここで男見せへんで何が男やちゅうこちゃ」

ケンジとサトシが大型トラックに乗り込んでおやっさんとミノルは路肩に立ち道の先を見つめている。

すると甲高いエキゾーストが聞こえてきた。

「来たぞ!」

疾風と共にバイクが駆け抜けた。

「行くでサトシ」

道を塞ぐように大型トラックがバックしてパトカーが急ブレーキを掛けケツを振りながら止まり警官が顔を出した。

「貴様ら、早く退かさんか」

「えらいすんませんな。今、Uターンさせますんで」

ゆっくりとケンジトラックを動かす。

「早くしろと言っているんだ。貴様らただじゃ済まさんぞ」

「堪忍してぇな。そんな急かさんでもええやんけ」

「隆羅、来年の正月ここで待っているからな。必ず嬢ちゃんを連れて来いよ」

おやっさんが呟いた。


目の前に海が見えてきた。

T字の交差点を左折してアクセルを開ける。

その瞬間、バイクの前に何かが飛び出した。

子猫が体を強張らせていてブレーキを掛けるが間に合わない。

「クソ!」

急ハンドルを切った為にバイクが横滑りを起こす。

タイヤの間を子猫の体がすり抜けバイクが完全にコントロールを失う。

子猫を掬い上げ体を丸め衝撃に耐える。

バイクが火花を散らしながらアスファルトの上を滑っていき、体がボール球の様に転がり止った。

「あっ、痛っ」

ヘルメットを外し子猫をつまみ上げる。

「ミャー」

真っ黒な子猫だった。

「使い魔にしちゃうぞ、お前」

「ミャー」

「お前はここで大人しくしていろ」

冗談で軽く子猫にキスをしてジャケットの中に子猫を入れヘルメットを腕に通してバイクに向かう。

「親父にまた、ボコボコにされんぞ、参ったな」

バイクを起こすと傷だらけになっているが致命傷は見当たらない。

「大丈夫そうだな、傷だらけだけど」

エンジンを掛ける。

セルモーターが回る音しかしない。

「ミャー」

「お前の所為じゃねえよ。もう一度だ!」

セルモーターが回る。

「掛かれ!」

「ミャー!」

エンジンが掛かりバイクに飛び乗りアクセルを開ける。

前輪が持ち上がり力でねじ伏せた。


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