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魔のバレンタイン-2

パーティは7時開場でバックヤードで始まるのを待っていると通り過ぎる人がみな俺を見るている。

今日は何でこんなに視線が気になるんだ? 

何処かに変なものでも付けているのかな不安になる。

まぁ、あれだけ潮さんと一緒に居ればしょうがないのかも。

そして出番が迫ってきた。既に会場では偉そうな人が挨拶しているはずで。

そしてやっと潮さんが現れた。

「潮さん、何だかみんなの視線が怖いんですけど」

「それは、あなたがかなり良い線いっているからよ」

「俺はこうして潮さんと居るからだと」

「ゴチャゴチャ煩いわね。行くわよ」

会場を下見した時と同じ様に潮さんが俺の腕に手を添えて入場する。

そしてひな壇の中央で軽く会釈をして潮さんの手を取りマイクの前に案内して。

後ろに下がり挨拶が終わったら逆の手順で退場した。

「ふぅ、久しぶりに緊張しましたよ」

「リュウ、バーカウンターに向かいなさい」

「はい、了解しました」

「上出来よ、リュウちゃん」


バーカウンターに着くとパーティーが始まりみながそれぞれ動き始めていた。

テレビや雑誌で見た事ある有名人ばかりだ。

最初のうちは水割りばかりを作っていた。

しばらくすると周りの女性陣がざわついた。

「ねぇねぇ、あれってバイクの貴公子じゃないかしら」

「素敵ね、やっぱりラルフ様は」

「確か、無敗の帝王よね」

「あのね、噂だと幻の一敗があるらしいわよ」

「それでも、無敗神話はやはり素敵よね」

「でも、潮様にぞっこんなのよね」

「勝ち目が無いわね私たちじゃ」

などと、世間離れした上流階級のすごい話が聞えてくる。

「リュウ、来なさい。リュウ!」

感心していると誰かを呼んでいる潮さんの声がした。

「は、はい。今すぐ」

返事をして直ぐに潮さんのそばに向かう。

「何ですか?」

「ちょっと,助けて欲しいの。付き纏われて困っているのよ」

「別にいいじゃないですか。潮さんは独身なんだし」

「そういう問題じゃ無いの。バカ」

そんな事をコソコソ話していると金髪でスラリとした長身の男が張り付いたような笑顔で向かってきた。

「何故、逃げるんだい。ハニー。 僕は君の事をこんなに愛しているのに」

「次のレースでは、君に優勝トロフィーを捧げるよ」

などと流暢な日本語でしゃべっている。

潮さんは俺と腕を組んで動こうとしなかった。

「私には心に決めた方が居るので困ります」

「そんな事を言わずに僕とアバンチュールしないかい」

潮さんが心に決めた人って……

別の事を考えていると潮さんの腕に力が籠った。ラルフとか言っていたよなコイツ。

まさか、あのラルフなのか? 声にも何となく聴き覚えがある。

「Mad Dog!」

「リュウ、あなた何を言っているの」

「大丈夫です、たぶん。任せてください」

物凄い形相で俺の事を睨みつけているのを見て確信した。

「Mad Dog?」

もう一度、今度は笑って、すると俺の顔をじろじろ見て抱きついてきた。

「神風BOY!」

「こんな所で何やっているんだ。ラルフ」

「それは僕のほうが聞きたいです」

「俺は仕事で、彼女がマスターだ」

「ミス潮がBOYのマスター? 心の人はBOY?」

「NOだ。でもあまり付き纏うとあの事をばらすぞ」

「NO。それは困ります。ミス潮、すいませんでした」

ラルフが潔く潮さんに深々と頭を下げ。潮さんは訳が分からずキョトンとしている。

「しかし、狂犬ラルフが貴公子ね」

「BOYはレースしないんですか?」

「もう、やっていないよ。辞めたんだ」

「Oh NO! BOYまた、会いましょう。ミス潮、バーイ」

レースは親父に無理矢理やらされていたので親父から解放されるとレースを見るのも嫌だった。

それで狂犬が貴公子になっていたのを知らなかった。


しかし、ラルフとのやり取りで回りの視線が更に辛くなってしまった。

「あの方は何処のどなたなのかしら。先ほどから潮様とずいぶんと親しげですけれど」

「ラルフ様とずいぶんフレンドリーね」

「どなたか、あの方の詳しい事を知りませんの」

「誰か、あの男の素性をすぐに調べろ」

堪ったもんじゃない弄られるのは潮さんで十分だ。大人しくしていないと何されるか判らない。

「ねぇ、ターじゃない。リュウはラルフと知り合いなのかしら」

「ラルフがまだ狂犬と呼ばれてレースに出ていた頃。親父にラルフに勝てたら10万やると言われて非公式のレースで死ぬ気で走って勝った事があるんですよ。それが無敗神話の幻の一敗と言われていて。その時に神風BOYって付けられたんです。たぶん本当の名前は知らないはずです」

「それで10万はどうしたの」

「もちろん、逃げ出そうとした親父から奪い取りましたよ」

「あなたって、本当に不思議な子ね」

「あの、もう仕事に戻っていいですか」

「ええ、いいわ。ありがとう」

これ以上、潮さんと親しく話しなんかしていたら大変な事になりそうな気がしてしかたがない。


時既に遅くバーカウンターに戻ると瞬く間に人だかりが出来て質問攻めにあう。それもいろんな国の言葉で。

全てノーコメントで押し通した。

しばらくすると何も答えないのが分かったのか潮さんがたんに怖いのか人が引けていく。

会場内を見渡すと数人のグループが近づいてくるのが見えた。

真ん中の男女を取り巻きが囲んでいる。

その女の子はとても綺麗な青いシンプルなドレスを着て髪はアップにしていた。

見惚れてしまうくらいとても綺麗で可愛い顔立ちは間違いなく海だった。

男の方は金髪で長身のラルフ似のいけ好かない感じがする。

そしてその男は流暢な日本語を話していた。

流暢な日本語を話すからいけ好かないのか、いけ好かない奴が流暢な日本語を話すのか。

そんな事はどちらでも良いのだが海が困った顔をしているのは間違いなかった。

「あのう、アレックスさん。私、困りますから」

「良いじゃないですか。少しぐらい飲んでも。大丈夫ですよ。僕がエスコートしますから」

「その、そういう事じゃなくて。私あまりお酒が飲めないんです」

「そんな事を言わずに。バーカウンターでカクテルでも一緒に飲みましょう。ね」

あろう事かバーカウンターの前にやってきてしまった。

海はまったく気付いていない様だった。

まぁ、あの潮さんがあんな反応をするくらいだから判らないのだろう。


「おい、バーテン。彼女に何かカクテルを」

「はい、畏まりました」

「それと、俺にふさわしいカクテルを出せ」

「何かご指定は御座いますか?」

「カクテルなど飲まないから貴様に言っているんだ。客を見て酒を出すのがバーテンの仕事だろう」

「畏まりました」

上から目線の奴ににふさわしいカクテルって犬のしょんPでいいですか。

などと考えながらシェーカーを振ると氷の心地よい音がする。

綺麗な薄いグリーンのカクテルをカクテルグラスに注ぎ海の前に差し出すと海が戸惑いながらグラスを受け取った。

そしてもう一杯もシェイクしロックスタイルで出す。

「おい、バーテン。彼女のカクテルの名前はなんだ」

「はい、Sleeping Beautyで御座います。お客様のカクテルは神風と申します」

神風は神風でも今日は神風BOYスペシャルだ。

「なかなか良い名前じゃないか。ん、少し強くないか」

「いえ、それくらい強い物を飲む方が男らしいかと」

海がグラスに口を恐る恐る付けあれっと言う不思議そうな顔をして飲んでいた。

「美味しい、これ」

犬しょん君は満足そうな顔をしてグラスを飲み干した。

「おい、バーテンもう一杯頼む。俺は同じ物を彼女には違う物を」

「畏まりました」

シェーカーを振り綺麗なブルーのカクテルをフルート型の背の高いシャンパングラスに注ぐ。

「お嬢様の素敵なドレスに合わせて見ました。Little Mermaidになります」

「これも、甘くて美味しい」

海が嬉しそうに言うと犬しょん君はいけると思ったのか更にオーダーをしてきた。

しかし、顔は真っ赤になりつつあった。

「おい、バーテン。俺にはもう少し弱くて口当たりの軽い物を。彼女にはまた別の物を」

「はい、畏まりました」

顔色一つ変えずにシェーカーを振る。

「こちらCinderella になります」

綺麗なオレンジ色のカクテルをソーサー型のシャンパングラスに注ぐ。

そしてもう一つのシェーカーを振りコリンズグラスに氷を入れ注ぎコーラで満たし軽くステアーする。

「そして、こちらがLong Island ice teaになります。アイスティーの様な口当たりで飲みやすいかと」

「どれも、凄く美味しく頂きました」

海はすぐにグラスを飲み干したが犬しょん君は少し不思議そうな顔をしていた。

それもそのはずでカクテルを3杯飲んで海はまったく酔っていないのだから。

「お、これは飲みやすいぞ」

グラスに口を付けプライドを誇示するかのように一気に飲み干し。

そして落ちた。ふら付いて立って居られなかったのだろう。

堪らず床に無様にヘタリ込んだ。

「アレックスさん」

「アレックス様いかがなさいました」

海が奴を気づかい取り巻き連中が騒ぎ出した。

するとブラウンの髪をオールバックにした厳ついマフィアのボスにしか見えない様な大男が近づいてきた。

「アレックス、何をしているんだ。そこのバーテン。貴様、大事な息子に何をした」

「いえ、私は何も。カクテルをお出ししていただけですが」

「そんな筈はない。貴様、ただじゃ済まさんぞ」

どうやらアレックスと呼ばれている犬しょん君の父親らしい。激高してカウンターに身を乗り出して来た。

その時、男の後ろで潮さんの声がして潮さんがカウンターの中に入ってきて睨み付けてきた。

「何を騒いでいるの。リュウ」

「いえ、そちらのお客様がカクテルを飲みすぎまして」

父親の大男が振り返り心配そうに酔い潰れて唸っている犬しょん君の様子を気にかけている。

「ターちゃん、いったいあなた何をしたの?」

「海が酒を勧められて困っていたので潰してみたんですけれど。拙かったですか」

潮さんが耳元で囁き俺も他に聞えないように答えカウンター内の一本のビンを見た。

そのビンは世界最強のウオッカでアルコール度数96度のスピリタスだった。

潮さんもそのビンを見て『困った子ね』と微笑んだ。

海は大事なパーティーでトラブルになりオロオロと立ち竦んでいた。

「リュウいい事、海を連れてそこのテラスで下がっていなさい」

「はい、かしこまりました。海お嬢様こちらへ」

強い口調で言われカウンターから出て海の手を取りテラスに連れ出した。


テラスはカウンターから死角になっていた。

日は落ちて暗くなっているが街の灯りが煌いて風が冷たくとても心地よかった。

「あのう、助かりました。あの方は懇意にしているアトランティックグループの社長のご子息なのですが。前回もしつこくお酒を勧められて困っていたのです。助けて頂いて有難う御座いました。あのカクテルにはお酒が入っていないのですね」

「はい、ノンアルコールカクテルになります」

「本当に助かりました。有難う御座います」

海が深々とお辞儀をしたのを見て堪え切れなくなり思わず笑ってしまった。

「何がそんなに可笑しいのですか?」

「俺だよ、俺」

まだ分からないのかポカンとした顔をしている。

「眠れる森の美女はまだ魔法に掛かっているのかな」

海の目の前で指をパチンッと鳴らすとはっとして俺の顔を見た。

「隆羅なの?」

「そうだ、やっと分かったのか。ちょっと複雑な気分だな」

「隆羅!」

もの凄く嬉しそうな顔をして抱きついて来た。


その頃、会場内のバーカウンターでは……惨劇が。

「私付きのバーテンダーが何か失礼な事でも」

「いや、手前の息子が酔い潰れてしまって」

「勝手に酒を飲み酔い潰れたのをバーテンダーの責任にしようと?」

「そんな訳では無いのだが」

マフィアも真っ青になって逃げだすほど綺麗な女性の怒った顔は恐ろしく見える。

「その様にしか見えませんでしたけれど。それと私の妹に何か遭った時は覚悟が御有りなんでしょうね」

「いやけしてその様な事は」

蛇に睨まれた蛙の様だった。そして潮が止めの一撃を食らわした。

「その時は、水神コンツェルン 総帥 水無月 潮として対処させて頂きますが宜しいですね」

「この、愚息めが立たないか。このろくでなしが。俺のグループを潰す気か」

大男の顔が瞬時に青ざめて酔い潰れた愚息の首根っこを捕まえて取り巻き共々尻尾を巻いて逃げ出した。

そこに綺麗なライトグリーンの可愛らしいドレスを着た凪が現れた。

「潮お姉ちゃん、何かあったの?」

「別に、何も無いわよ。そうそう海がテラスに居るわよ。行ってみなさい」


潮に言われて凪がテラスにでるとそこには見た事の無い男と抱き合っている海がいた。

「お、お姉ちゃん。い、いったい、そ、そこで何をしているの?」

「これは、海お嬢様。大変失礼致しました」

動揺する凪の顔を見て笑いをこらえながら海から離れ。

一礼をして海の手を取り手の甲にキスをしてウインクした。

そして凪の前まで歩きだす。

「お騒がせ致しました。凪お嬢様」

一礼をして手を取り手の甲にキスをすると凪は真っ赤なトマトの様になり固まっていた。

海は笑顔で小さく手を振っている。

テラスの出入り口に向かって歩き出し軽く片手を上げて海に挨拶をした。

「2人を放っておいて良いのかしら?」

「俺の仕事は潮さん付きの仕事ですから。それにパーティーはまだ終わっていませんからね」

「相変わらず真面目ね。ターちゃんは行くわよ」

「はい」

2人で会場内に戻った。


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