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新年-3

岬を後にして海と初詣に来ていた。

「隆羅、ここもお父さんに聞いたの」

「2人で毎年お参りに来ていたって言っていたぞ」

「うふふ、嬉しいな」

「なにがそんなに嬉しいんだ?」

海を凄く近くに感じる。

「だって、如月ママとお父さんって仲いいんでしょ」

「そうだな、家に居る時はいつも一緒に居るな」

「私達もそうなれるといいなって」

「そ、そうだな」

いきなり海にプロポーズされたのかと思ってしまい顔が赤くなるのを感じる。

お嬢様育ちだから仕方がないのか?

「隆羅?」

「ん、何だ。海」

「何でもない、お参りに行こう。早く」

気付かれたかと思ったけれど海の視線は俺を見ていなかった。

腕を組んで歩くカップルとすれ違いお参りをする為に拝殿に向かう。

「凄く並んでいるね」

「そうだな、少し掛かりそうだな」

「でも、こうして隆羅と居るだけで楽しいから大丈夫だよ」

「そうか、そうだな俺もだ」

混んでいたがさほど時間は掛からなかった。

海と並んで鈴緒を引っ張りお参りする。

「隆羅は何をお参りしたの?」

「無病息災、家内安全」

「もう、それ本気なの。ねぇ」

「冗談だ、皆が一年無事に過ごせますようにだ」

「それだけ」

海が少し寂しそうな顔をして俺を見上げた。

「それと、感謝かな」

「感謝?」

「皆に出会えた事。そして海にめぐり合えた事に。それに俺は海が笑顔でそばに居てくれて皆が元気ならそれだけで幸せなんだ。ほれ」

腰に手を当てると海が不思議そうな顔をしている。

「えっ、それって隆羅」

「早くしろ。恥ずかしだろ」

「うん、ありがとう」

海が飛びつく様に腕を組んでしがみついて来た。

「えへへ、嬉しいな。隆羅っていつも、ちゃんと見ていてくれるんだね」

「当たり前だ。海は何をお参りしたんだ?」

「えっと、秘密」

「秘密か、まぁいいか」


参道にはいろいろな露店が出ていた。

イカ焼き・お好み焼き・トウモロコシ・フランクフルト。定番の綿菓子に海の瞳が輝きを増している。

「海、何か食べたいものあるか。買ってやるぞ」

「えっと、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、リンゴ飴、チョコバナナ、綿菓子」

「そんなに食べるのか、太るぞ」

「隆羅は私が太ったら嫌いになるの」

「ん、微妙だな」

「ひ、酷いよそんなの、ねぇてば」

海が組んだ腕を揺さぶっている。

「ん、どうだかな。海は海なんだが」

「隆羅なんか嫌い。もう少し出るところ出てもいいかなと思っているのに」

「俺は、そのままの海が一番好きなんだけどな」

耳元で囁くと海が真っ赤になった。

「隆羅のバカ」

「で、何が食べたいんだ?」 

「じゃ、お好み焼きとチョコバナナ」

「了解。買いに行こう」

「うん」

いくつかの露店を回り食べながらブラブラする。


「そろそろ帰るか」

「そうだね。ねぇ、あれ何?」 

一軒の露店の前で中を覗こうとした時。

突然、凄まじい殺気と憎悪で押しつぶされそうになる。

息が出来ず奥歯を噛みしめながら海を抱きしめていた。

「隆羅、どうしたのいきなり。ねぇ、隆羅ってば苦しいよ」

「はぁ、はぁ。ゴメン」

海が不安げに名前を呼ぶと気配が消え。辺りを警戒するがすでに気配は感じられなかった。

周りでは俺が急に海に抱きついた為に笛や歓声が上がっていた。


「へぇ、生きていたんだあの状況で。これは面白い玩具かもしれない。まだ、お楽しみはこれからだからね。今のうちに楽しんでおくがいいさ」


黒いキャップを深く被り黒いダウンジャケットを着て青いズボンにスニーカーを履ていた。

一見少年に見えるが確かに人では無かった。

「隆羅、大丈夫。顔、真っ青だよ」

「悪い、大丈夫だ」

「本当に?」

「ああ、心配掛けてゴメンな。もう帰ろうな」

「う、うん」

海が不安そうな顔をしているが冗談で誤魔化す余裕すら吹き飛ばされていた。


バイクを走らせる。

あの人ごみの中では襲ってこないのが判っていても一刻も早くあの場から遠ざかりたかった。

「隆羅、速いよ。怖い」

海の声で我に返った。無意識にアクセルを開けていたらしい。

スピードを落とし深呼吸を繰り返すとだいぶ落ち着いてきた。

「どうしたの? 隆羅」

「悪い。ちょっと考え事をしていただけだ。ゴメンな」

「本当にさっきから変だよ隆羅」

海に悟られる訳にはいかず平静を装って海に声を掛ける。

「海、海ほたるに寄ってみるか?」

「えっ、海ほたる」

「そう、海ほたるだ。アクアラインにあるんだけれど。どうするどうせ帰り道だし、どうかなって」

「行ってみたい」

「OKだ」

更津に向かいアクアラインにのると海上に出た。

「凄く綺麗。夜は分からなかったけれど海が輝いている」

「さすが、海上40メートルからの眺めは圧巻だな」

「隆羅、楽しいね」

「そうだな、海と一緒だと全ての物が輝いて見えるみたいだ」

「隆羅、少し匂う」

「そうか、俺も臭いと思ったんだ」

海と一緒に笑い飛ばした。


駐車場にバイクを止めてエスカレーターで上に行く。

目敏く海が何かを見つけて俺の手を引っ張った。

「幸せの鐘があるよ」

「行きたいのかそこに」

「うん、駄目なの」

お嬢様いや女の子はなんであんな物が好きなのだろう。

海を見ると潤んだ瞳で見つめる。

そんな目で見られて駄目だと言える男が居るのだろうか?

「しょうがねえな」

4階に上がりデッキに出るとアクアラインが一望できた。

元旦と言う事もありそこそこの人出のようだった。

まぁ頻繁に来る所でもないので良く分からないのが本当のところなのだが。

風も穏やかでポカポカしていた。

「気持ち良い!」

「ほれ」

「うん」

海が両手を上げて伸びをして。腕を少し持ち上げると嬉しそうに腕を組んでしがみついてくる。

今は海の顔を見ていられるだけで幸せだった。

「ねぇ、隆羅」

「…………」

海の視線の先には3連の鐘がありただでさえ周りからいろんな視線を浴びているのに一緒にあれを鳴らそうと?

「もしかして鳴らしてみたいのか」

「うん、隆羅と一緒に鳴らしたいな」

「海がやりたいなら俺は良いぞ別に」

変な日本語で返事をすると海がはにかんでいる。

早く済ませないと心臓がもちそうにない。

鐘の下まで行きロープを2人でつかみ鐘を鳴らした。

心地よい鐘の音が海の上で鳴り響き。海の顔は幸せそのものだった。

しかし振り返るとそこはとんでもない事になっていた。

「Oh! Great!」

「Congratulations!」

「Beautiful!」

外国の団体客に取り囲まれ。フラワーシャワーならぬフラッシュの嵐を浴びていた。

速攻で海の手を取って逃げ出した。


「勘弁してくれ、なんなんだあの外国人は」

「凄かったね隆羅。何だか結婚式と勘違いしていたみたい」

「結婚式って、この格好でなのか?」

「格好なんて関係ないと思う。ようは2人の気持ちでしょ」

「そうだな、女の子って皆やっぱり憧れるのかな」

「私だって隆羅となら」

その時、あの可愛らしい音がした。

「まだ先の話だな。食い気が先じゃ」

「もう、隆羅のバカ」

怒って海が歩き出し後ろから抱きしめた。

「そんなに怒らないでくれ。海が迷っていたら迎えに行くから俺が迷っていたら迎えに来てくれ。約束だ」

「うん、約束だよ。忘れたら怒るからね」

俺の腕をつかむ海の手に少し力が入り少し震えている気がした。

「大丈夫か?」

「うん、とっても嬉しかったの」

「飯でも食べに行くか」

「うん、行こう。隆羅」

いつもの海に戻っていた。食事をする為に5階に上がると眩いばかりの蒼い海が広がっている。




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