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出会い-3

あっと言う間に。

それこそ島じゅうに俺と海の噂が広まり大騒ぎになり身動きが取れなくなってしまっていた。

『あのヘタレ如月に彼女が出来たらしい』

『いや、如月の許婚らしいって聞いたけど』

『見た事も無いくらい綺麗な人らしいぞ』

『クソ如月の野郎』

『彼女泣かしたらコロス』

『夜道は気を付けろよ』

『車に注意』

なんてドス黒い話まで耳に入る。


まだ分からない事だらけで海を追い出すわけにもいかず。

噂の件はある意味、海にはめられた感じで完璧に外堀は埋められてしまていた。

相変わらず不機嫌そうな顔しかしてくれないが。

「如月先輩!」

「きーちゃん」

「如月、行くぞ」


大型連休前の日曜日。

海ちゃん大歓迎ビーチパーティーが行われていた。

バイト仲間、ネットの友達、店長&オーナーまでどんなコネクションで集まったのかは不明。

はっきりしている事がひとつだけみんなの目当ては海ただ一人。

そしてパーティー会場は地元の人間しか知らないような秘密のビーチで。

そこは俺のホームグランドと言うかホームシーと言える場所だからたぶん危険は無いだろう。

ビーチパーティーというかビーチでバーベキューが正しい言い方かもしれない。

ここ沖縄ではビーチパーティーかビーチパーリーが正式名称になっている。あっという間に準備が出来て誰かが乾杯の音頭をとる。

「海さんようこそ石垣島へ、皆で楽しくやりましょう!」

「乾杯!」

有無を言わさず歓迎会が始まりいきなり弾けまくっている奴等が居る。


俺はそっと隅の方で静かにと思っていると女の子が声を掛けてきた。   

夜のバイト先の後輩・睦月美夢むつきみゆうだった。

「如月先輩。ドコまでいったんですか? B? C?」

「彼女の血液型は、誕生日は?」

「ドコの出身なんですか?」

「さぁ?」

怒涛の質問攻めに眉を顰めて腕を組んだ。

「さぁって、先輩! ひとつ屋根の下で暮らしているのに何も知らないなんて。それに海さんって小柄なのにナイスバディですよね。何カップですか」

「…………」

なんて答えて良いものだか困ってしまう様な質問まで織り交ぜられている。

『水の精』で『門番』だぞ。

だいたい血液型や誕生日なんかあるのか? 

やはりここは黙秘だろう言っても信じてもらえる訳も無く言えば多分変態扱いされるだろう。

「先輩、最低です、大馬鹿者です」

「そんな事言われてもなぁ、美夢、少ししつこいぞ。お前」

「うぅぅ、先輩の馬鹿ちん!」

泣かすつもりはないのに美夢が涙目になっていた。

「泣くなって」

「本気で心配しているのに」

「ゴメンな本当に。美夢は俺にとって妹みたいなもんだからな。しょうがねえなぁ、何か判ったすぐに報告するから」

仕方なく美夢の頭を優しく撫でた。

「でも、良かった。あまりイチャイチャしてないし。なんだか距離が空いているような感じで、まだチャンスありかな」

「美夢が言わんとする意味がよく判らないんだけど」

「いいの、いいの、こっちの話だから」


海も皆に囲まれて大変そうだなと思い助け舟を出そうとすると店長に感づかれてしまう。

「如月、お前はツマミの魚でも獲って来い!」

「しょうがねえか」

「早く行け。邪魔だ」

「はい、はい。邪魔ですか」

辺りを見るとオーナー達は釣りを始めているし飲んで語り合っている奴等も居る。

寄せ集めだけあって見事なまでにバラバラだった。

マスク・シュノーケル・フィンをつけてイーグン(銛)を持って腰には網を付けて準備完了すると海と目が合った。

その視線には鋭さなど微塵もなくとても哀しさを感じる。

海の目が気になったが店長に急かされて海へ入った。

「流石に早いな、あいつシュノーケリングや泳ぐことだけは上手いからな、普段はヘタレのくせに」

店長の嫌味なんか気にせずにいつものポイントに向かう。


このラグーンの中の地形はすべて頭の中に入っていて途中で何度か水面から顔を出し大体の位置を確認する。

ビーチに目をやると流石に今日は大人数の為にビーチは貸切状態だった。

「海ちゃん、ドコ行くの?」

風に乗り美夢の声が聞こえてきたが気にする事ないと言うか海に入っているのでどうすることもできない。

皆が居る事だし問題はないだろうと思い魚獲りに集中する。


大きなジャノメナマコをイーグンでチョンチョンとノックしてウートートー(お祈り)をする。

誰かに見られている感じがして辺りを見渡すが誰も居ない。

気のせいだろうと思いひと通りポイントを回ってミーバイ(ハタ)やクモ貝などを獲りビーチに戻ることにする。

早めに戻らないとウルサイ奴等が多いし海の事も気になった。

途中で巨大ジャノメナマコを再びノックをしてウートートーすとまた視線を感じるが誰も居なかった。


ビーチに戻ると宴もたけなわで店長やオーナーが矢継ぎ早に命令を下した。

「如月、遅いぞ!」

「獲物をとっととさばけ酒の肴が無いぞ」

まったく、この人たちは俺を何だと思っているんだ。

「下僕」

「ヘタレ」

「左様で御座いますか」

渋々、波打ち際で突いてきた魚をさばいていると美夢が近づいてきた。

「先輩、海さん見ませんでしたか?」

「海がどうかしたのか、美夢」

「先輩が海に入って少ししたら、海さんも泳ぎに行っちゃったみたいで」

辺りを見渡すと少し離れた隆起珊瑚の岩の上で海を眺めている。

「あそこに居るじゃんか」

「本当だ、海さ~ん」

手を振りながら美夢が走り出した。

海は水着なんか持っていたか?


夕方になり片づけをして撤収タイム&お開きになった。

知らない人ばかりで疲れたのか帰りの車の助手席で海が寝息をたてている。

寝ているときの顔はまだドコとなくあどけなくって可愛いんだけど……

今日は俺も本当に疲れた。

ほとんどパシリか酒の肴状態だったけれど海のはにかむ様な笑顔も初めて見られたし。

そんな他愛の無い事を考えている内にアパートに着き海を起こしたが目を覚まさない。

「お~い、海。しょうがねぇな」

再度声を掛けるが反応がなく起こさないようにそっと抱き上げる。

軽い! それでも万年運動不足のヘタレには3階まではかなりきつく。

「あっ、起きた……あのそんな怖い顔しなくても。危ないから暴れるな!」

海が目を覚まし暴れ出しバランスを崩し階段を踏み外した。

背中と後頭部を踊り場の壁に打ち付ける。

「痛って。海? 怪我は無いか」

心配して海を見るとありえないくらい目の前に海の顔があった。

お姫様抱っこのまま後ろに倒れて慌てて思い切り抱きしめていたからだろう。

火が付く音がするくらい海の顔が真っ赤になり頬に平手が飛んできて。

海は怒った顔をして落ちている鍵を取り部屋に入っていた。


部屋に戻ると海はシャワーを浴びているようで、仕方なく俺は車に置いてある荷物を取りに駐車場に降りた。

何でこんな目にばかり逢うのだろう。

ただのヘタレの一般人だぞ。確かに優柔不断で誰にでも優し過ぎで良い人とよく言われるけど……

良い人って都合の良い人って事だろう。

『はっきりしないその性格は、確実に痛い目に逢うからな』

3馬鹿トリオと呼ばれていた頃のスギやクロにはよく言われた言葉を思い出す。

言葉通り痛い目に逢いっぱなしだけれど。

部屋に戻ると海は髪を乾かしていた。

「さぁ、俺もシャワーを浴るか」

イーグンやマスクやフィンを洗う為に浴室に運びシャワーで水洗いする。

その後でカラスの行水ごとくシャワーを浴びて部屋へ行く。

すると海が何か言いたそうに相変わらずの険しい顔で俺の顔を見上げている。

「隆羅、海の中で何していた?」

「魚を獲っていたけど」

「違う。祈りみたいな?」

「ああ、ウートートーの事か。あれは海の神様にお邪魔しますとありがとうと言っていたんだ。海に潜るときに必ずする儀式の様なもので、信心深い訳じゃないけれど海や山、空や風、木々や土、自然の中には何故か神様がいると子どもの頃から信じてきたからかな」

「でも、隆羅は魚食べない」

「確かに俺は魚貝類が苦手だ。だからと言って無闇に獲っている訳じゃないし。無益な殺生はしない」

「必要な分だけその日獲れる分だけしか獲らない。時々、小遣い稼ぎにはしているが魚獲りや名底湾でのカニ獲りは楽しい生活の一部だし。魚やカニをあげて喜んで貰ってくれる人達もいる。その笑顔は何にも代えられないし命を無駄にしているつもりもない。何よりも俺は海が大好きだ。泳ぐのも見ているだけでも。それじゃ、駄目か?」

「駄目じゃない」

少し何かを考えて海が口を開いた。

「でも、銛は危険だし怖い」

「怖い? そうか、だから今まであんな顔していたのか」

海が今まで不機嫌だった意味が判ったような気がして海を真っ直ぐにみる。

「海、いいか良く聞いてくれ。人間が作り出した物は殆ど便利な道具だと思う。でも、悲しい事にその殆どの物が凶器にもなってしまう。それは道具を使う人の心によって便利な物にも凶器にもなってしまう。道具に責任は無いんだ」

「人の責任?」

「俺は今までも。そしてこれからも(うみ)(かい)も傷付ける事は絶対にしない。信じて欲しい」

俺の部屋には釣竿・網・銛なんかの漁具がいっぱい置いてあから警戒していたのだろう。

言葉だけで信じて貰えるだろうか?

そんな思いはしばらくすると何処かに消えてしまっている事に気が付いた。

海の瞳の中に優しさが見えるようになったから。 


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