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クリスマス-1

今年も残すところ2か月になっていた。そして五月先輩と俺は忙殺されていた。

「先輩。そろそろ俺達ヤバく無いですか? かなり来ている思いますけど」

「如月もそう思うか。俺も来ていると思うがそろそろな限界かと」

「多少は何か出るんでしょうね」

「もちろん考えておくよ。売り上げはウナギ登りだしな」

「ウナギと言うより、龍みたいですね」

「そうだな。あの看板のお陰だな」

「でも、あの看板でか過ぎじゃないですか、今に押し潰されますよ」

「如月そんな事を言うと看板に殴られるぞ」

「だって、あのやたらデカイ看板のせいで俺達潰れそうなんですよ」

「それもそうだな」

「オーダー入りま~す」

透通るような看板の声がして再起動する。


それは冬が近づく11月の中ごろの一本の電話から始まった。

「キサか。お前、今どこで仕事しているんだ?」

「浜松町から、4、5分の所だがなんの用だ。スギ」

「今から、そっちに行くから詳しい場所を教えてくれ」

スギこと三バカトリオの杉田は外回りの仕事をしていた。しばらくしてスギが店に入ってきた。

「キサ、すまんが何かとりあえず食わしてくれ。忙しくって飯食う暇も無いんだよ」

ランチ終了間際だったが先輩に確認を取ってから了承した。

「本当にお前ナイスな場所で働いているな。これはきっと神の思し召しだなきっと。この先の会社で仕事しているんだが、ここが終ってから仕事手伝ってくれ。2週間限定・週2、3日・1日数時間・帰りはタク送だ。いいな」

本当に昔から変わらず強引な奴だった。

「しかし、スギの会社って。今どきタク送なんて景気が良いな」

「おうよ、なんてったって。あの天下の『水神コンツェルン』の傘下だからな」

今、聞き覚えのある会社名が出てきたが気のせいか?

何で俺の周りってこんなんなんだ。

多少と言うか、かなり強引だがこれからの時期は何かと必要かと思い快諾した。

何でも簡単な仕分け作業と聞いていたのだが。いざ始まってみるととんでもない代物だった。

仕分け自体は楽勝なのだが仕分ける荷物が過激なくらい重く、簡単に引き受けたがとんでもない重労働で。

アパートに帰ってくるのが一杯いっぱいで体を動かす事さえ出来なかった。


水無月邸では大変な問題が起きていた。

「潮お姉ちゃん。もう嫌だ。何とかして」

「あら、凪。そんなに怒ってどうしたのかしら」

「だって、お姉ちゃんが兄貴に会えないせいでイライラしてすぐ怒るんだもん」

「困ったものね、海もどうしたものかしら」

「大体、兄貴がいけないんだよ。すぐになんでも安請け合いするからヘタレのくせに。それに、お姉ちゃんもお姉ちゃんだよ。そんなに会いたいのなら兄貴の店にでも行って会ってくれば良いんだよ」

「あら、凪。良い事言うじゃない、その手があったわね」

潮が不敵な笑みを浮かべ何処かに電話を掛けた。


スギの手伝いも残り半分という所でその日もフラフラで仕事に向かった。

「おいーす」

「如月、ちゃんと挨拶をしろ」

「おはようす」

「仕方の無い奴だなまったく。紹介しよう新しいバイトの海さんだ。今日からホールを担当してもらう宜しくな。うちの看板娘だ羨ましいだろ」

疲労困憊して幻覚でも見ているのかと目を疑った。

スニーカーにキャメル色のキュロットを穿いて店のロゴ入りの黒いTシャツを着て頭にバンダナを巻いている。

紛れも無く海の姿が目の前にあった。 

「先輩、何かのもの凄い嫌がらせですか?」

「いや、年末に向けてバイトが欲しいと思っていたら。ちょうど働きたいと電話があってな。管理人さんなら大歓迎だよな。如月」

管理人なんて言っている時点で完全な苛めだと思う。

「すいません、海と話がしたいんで先輩ちょっといいですか。海、ちょっとこっちに来い」

海の手を掴んで店の外に出る。

「いいか、潮さんの仕事関係の話は絶対にするなよ。大騒ぎになるから。いいな」

「えっ、何でどうしてなの?」

「どうしてもだ。いいな」

「うん、分かった」

海に言い聞かせ了承させて店内に戻る。

「先輩。海のバイトの件、OKです」

「ありがとう、隆羅」

先輩に了承すると海が腕に抱きついてきた。

「海。抱き着くのもここでは禁止だ。いいな」

「もう、隆羅のバカ。あれも駄目これも駄目って。嫌い」

少し強く言うと海が頬を膨らませ、殴りかかってくる腕を掴み海を見据える。

「いいか海。ここは職場だ。今日から俺がお前の上司だ。それが理解できなにのなら仕事に来なくていい。それと俺の事は『さん』付けか『先輩』を付けて呼ぶ事。分かったな」

「分かりました、隆羅先輩」

海に言い聞かせていると先輩が呆れていた。

「如月、お前達って本当は」

「先輩の思っている通りです。海と付き合っていますが何か問題でもありますか?」

「いや、別に。まぁ如月なら、そういう所は大丈夫なのはよく知っているからな。少しきつく言い過ぎじゃないか? もうちょっと優しくな」

「いいえ。ONはON。OFFはOFFですから」

「しかし、如月のそんな所は昔から変わらないな。まぁ、だから俺はお前をここに呼んだんだけどな。海ちゃんに仕事の段取り教えるから、如月、先に仕込みしてくれ」

俺が仕込みを始めると先輩が海をテーブルの方に連れて行った。

「海ちゃんゴメンな。如月って仕事になるとあんな風になっちゃうんだよ。普段はヘナチョコのくせに。アイツとは島のホテルで1年くらい一緒に仕事していたんだが。そこで、まだ若いのに如月はバイトのまとめ役みたいな事していたんだよ。かなり人気者だったんだぞアイツはOFFでは皆を連れて海に行ったり部屋に呼んで飲み会したりしてな。でもONではとても厳しかった。恋人同士でイチャついていると怒鳴りとばしていたからな」

「そうだったんですか」

「そんなでバイトのシフト表はアイツに任せてあったんだ。他の奴じゃ絶対に嫌だと皆が反対してな。何でだと思う? 恋人未満の奴らもアイツのシフトだと恋人同士になれるんだよ。どんなに秘密にしていてもね。もちろん恋人同士は出来るだけ同じ休みだったけどな。皆の事をよく見ているんだ。俺なんか何回驚かされたか。厳しくって辞めて行く奴もいたけど、それ以上に人気者だった。恋人同士になり結婚した奴なんて何組いた事か。でも自分の事はいつも後回しで。自分の事となると呆れるくらいニブチンで。後から聞いた話なんだが如月と結婚したいと言っていた女の子もいたらしんだ。海ちゃんもここでは我慢してくれ。あれが如月のスタンダードなんだ」

「先輩、仕込み終わりましたよ」

「今、行く。仕事はいたって簡単だ。お客さんを案内して水を出してオーダーを聞いて料理を運ぶだけ。レジは俺がやるから分からない事は聞いてくれるかな。それと、挨拶は笑顔で元気良くOKかな。俺の事は、そうオーナーでいいや」

「はい、分かりました宜しくお願いします」

浮かれていた海が真面目な顔になって先輩に返事をした。

「ランチオープンするぞ」


海は自然に笑顔になっていた。

それは今までこんな隆羅を見た事が無かったからかもしれない。

「オーダー入ります」

「はいょ」

オーダーを見てとても手際よく料理を作り始め綺麗に盛り付けをしてテーブル番号を告げながらカウンターに出す。

それを海がテーブルに運び料理の説明をする。

『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』と大きな声と笑顔で挨拶をする。

それはごく当たり前な事をしているだけかもしれないのだけれど、とても新鮮で隆羅が大きく見えた。

そしてランチタイムが終わり休憩時間に入ると隆羅が3人分の賄を有り合せの物で作ってくれた。

その賄いは有り合わせの物で作ったのに店で出せるくらいの美味しかった。

隆羅があっという間に食べ終わり店内のイスで横になり寝てしまった。

「オーナー。隆羅っていつもこんな感じなんですか?」

「最近はなんだか疲れているみたいだな。どうせまたやらなくてもいい仕事でも引き受けたんだろう。断るという事を知らない奴だからな」

海がまだ知らない隆羅の姿を垣間見ることが出来た。

夜の居酒屋タイムが始まり隆羅も海も目まぐるしく動いていた。

しかし隆羅の海への指示はいつも的確ですばやく。そして海が失敗をするとすぐに来てくれてフォローしてくれた。

自分が調理している時も店内を常に見回して、いつも見守っていてくれる。

とても優しくしっかりした目でとても安心できた。

隆羅が厳しいけれど人気者だった理由が分かる気がする。

そしてあっという間に一日の仕事が終わった。

「お先です」

「お先に失礼します」

隆羅と店から出て狭い階段を下りると手を出してくれるいつもの優しい隆羅がそこに居た。


「今日は疲れたか? 無理しないで頑張れよ」

「うん、ありがと。隆羅。隆羅って凄いんだね。大人って感じかな」

「大人って、俺は大人だぞ」

「違う。違う凄い大人だよ」

「はぁ? 俺は普通の事を普通にしているだけだ」

「ほら、やっぱり大人じゃん」

「だから、俺は大人だって」

「もう、バカ・バカ・バカ隆羅」

おバカな会話をしながら山手線で渋谷に向かう。


乗り換えの東横線は渋谷が始発の為に席に座ることが出来た。

席に着き電車が動き出すとすぐに隆羅は腕を組んで頭を海の肩に乗せて眠ってしまった。

「隆羅って毎日こんな事していたんだ。こんなに大変なのに休みの日は私達に付き合ってくれる隆羅ってすごいな。ありがとう」

隆羅の可愛い寝顔を見て海が微笑んだ。

隆羅が目を覚ますと海も寝ていて終着の横浜だった。

慌てて海を起こし折り返しの電車に飛び乗る。

戻りの電車では大喧嘩だった。


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