誕生日-1
凪とデートに行ってしばらくして。
海に会う為に屋敷に向かっていると途中でキルシュと会った。
「珍しいなお前がこんな所で。何している」
「ああ、ちょっと海に用事があってな」
「じゃ、俺様が案内してやる」
「サンキュー助かるよ」
海が俺の部屋に来る事はあっても俺が海の部屋に行く機会も用事もなく。
よって俺は海の部屋は知らなかった。
屋敷の中に入り廊下を歩いていると潮さんが歩いてきた。
「あら、珍しい事もあるもんね。ターちゃんが自分からここに来るなんて。ああ、愛しのラヴァーに会いにね、羨ましいわね。私も彼でも探そうかしら。キルシュ何処かに良い人いないかしら」
「お前のお眼鏡に適う様な奴はこの世に存在しない」
「キルシュずいぶんね。昔は居たのよ可愛いお姫様に取られちゃったけど。それにここにも居るじゃない。優しくて昔は根暗で意気地なしでへタレなターちゃんが」
「激しく拒否します」
いったいどんな話を聞いたんだ。根暗って凪か?
「あら、いけず。お姉さんが優しく教えてあげるのに」
「断固拒絶します」
「そんなにはっきり言わなくてもいいじゃない。一途なのねターちゃんは」
「あまり時間が無いのでこれで」
これ以上はいろんな意味で無意味だ。
「キルシュちゃんと見張っていないと駄目よ。ターちゃんが海に襲い掛からないようにね」
「襲いません!」
キルシュのレクチャーを受けながら屋敷の廊下を歩く。
中には極秘の部屋などと言う部屋があったが突っ込まない方が賢明だろう。
キルシュに案内された海の部屋のドアをノックすると中から海が返事をした。
ドアから顔を出した海は少し驚いた様な顔をしている。
「えっ、隆羅どうしたの?」
「ちょっと海に頼みたい事があってな。キルシュに案内してもらったんだ」
頬を赤らめながら俺の手を掴んだ海が俺の足元のキルシュに気付き足で出て行けと合図をしている。
キルシュが出ていくのを確かめてから海がドアを閉めた。
「俺はお邪魔虫なのか?」
「あら、キルシュ追い出されちゃったの? 駄目ねもう」
海の部屋はとても広く綺麗でとてもシンプルだった。
海の人となりなのだろうと思う。そして部屋の真ん中のラグの上に座る。
「ねぇ、今日はどうしたの?」
「海、これから時間空いているか。ちょっと付き合って欲しい所があるんだが」
「うん、大丈夫だよ。今日の用事は全部済んだから。それで何処に行くの?」
海は少し考えてからはにかみながら答えた。
「実は妹の茉弥のプレゼントを買いに行きたいんだ」
「茉弥ちゃんのプレゼントって」
「もうすぐ茉弥の誕生日なんだ」
「じゃ私も茉弥ちゃんにプレゼントを買ってもいいかな」
「喜ぶと思うぞ。ありがとうな」
「素敵なことじゃない、でも凪は一緒じゃなくて良いの?」
「その事なんだが、実は……」
スギとクロ達と再会したあの日の居酒屋で掛かってきたお袋からの電話の内容を海に伝えると。
海の瞳が輝きを増した。
「それは楽しそう。凪も喜ぶと思う。楽しみだね」
「そうだな。じゃ行こうか」
凪には俺の実家で食事会に呼ばれているから予定を空けておくようにと海に伝言を頼んだ。
俺は海と池袋に居た。何故ここかと言うと池袋の駅はデパートの集合体だからで。
それ以上にこの辺の事を俺が熟知しているからだった。
少しデパートの中を手を繋ぎながら歩く。
そしてジュエリー売り場で目に留まったものがあった。
それはあの日見た光の様で。そして何よりあの島の海の色によく似ていた。
それを店員さんに見せてもらう。
「彼女さんへのプレゼントですか?」
海の手に力が入り熱くなるのを感じる。
海は最近、彼女という言葉に敏感に反応するようになり困っていた。
「いえ、妹への誕生日プレゼントを探しに」
「優しい、お兄様なのですね」
プレゼントなんて言う物は最初のインスピレーションが大切で。
値段も良い感じだったので即決してラッピングしてもらった。
その後、デパートの中を見て回り海は綺麗なオルゴール付きの宝石箱を選んでくれた。
そして2人とももう一つのプレゼントをそれぞれ購入して家路につく。
食事会の日がやってきた。
しかし、その日は朝からなんとなく不穏な空気を感じていた。
感覚が鈍すぎてそれが何なのか判らない。
今日は大切な日なので気のせいだと思いやり過ごす事にして屋敷に向かう。
アパートまで来てもらった方が早いのだが、これは如月家の招待なので俺がホストとして迎えに行くのがマナーだろう。
屋敷の前に海と凪が立っている。
水の宮殿のような屋敷のガラスと池に日の光が反射して幻想的な光景だった。
「兄貴、遅いぞ」
凪の声で我に返り2人に近づく。
凪はなんだかいつもと違いボーイシュなのだがとても可愛い服を着ている。
海を見ると俺がプレゼントした洋服を着ていた。
目眩がするそれくらい似合っている。
キラキラと反射した太陽の光が瞬きまるで女神のようだった。
「もう、兄貴は何をデレデレしてるかな」
見惚れていると凪に突っ込まれ。海はたまらず顔を真っ赤にしている。
「でも、お姉ちゃんその洋服どうした? 見たこと無いけれど」
「えっ、隆羅に買ってもらったの」
真っ赤になりながらモジモジしている。
「はぁ? 兄貴いつの間にこんな可愛い服を何処で買ったの?」
「えーとなんだ、この前の渋谷の109でちょっとな」
「信じられない。そんな事していたんだ。でもよくお姉ちゃんの好みとか分かったね。それにサイズも」
「いや、そのなんだ。海を見ていた時にとても欲しそうな感じだったし。とても迷っていたのでサイズも合うのだろうと。それで隙を見てちょっとな」
「隙を見てちょっとって。凪が主役だなんて言っていたくせにもう」
凪が頬を膨らませ俺を睨んでいる。
「いや、すまん。でもちゃんと凪の洋服もかえたし行きたい所にいったじゃないか」
「まぁ、いいけどね。でも本当に兄貴って鈍いのか鋭いのか分からないよね。へタレなのかと思えば車の運転めちゃくちゃ上手かったりケーキ作れたり。そんな所をお姉ちゃんは好きになったんだと思うけどね」
改めて凪に言われて恥ずかしくなりお互い顔を赤くしてうつむいてしまう。
「もう、ラブラブで熱々なのも分かったから。ご馳走様でした。ほら行くよ。茉弥ちゃんが待っているんでしょ」
凪が歩き出し海の手を取り凪の後を追いかけた。
渋谷まで行き埼京線に乗り武蔵浦和で乗り換え隣の西浦和に向かう。
こちらからの方が実家に近いとお袋に教えてもらった。
何で近い方を教え無かったかと攻めてみたが。
俺が始めて実家に行った日たまたま武蔵浦和に用事が会ったからとさらっとお袋が言い切った。
駅からバイパス沿いに歩く。凪はとても嬉しそうだった。
茉弥に会うのが久しぶりだからだと思う。
「今日は何の食事会なの、お姉ちゃん」
「茉弥ちゃんの誕生日会だよ」
「ええ、酷いよ。何で教えてくれないの? 何もプレゼント用意していないのに。兄貴とお姉ちゃんのバカ!」
海が口を滑らせ一気に凪が不機嫌になったが既に実家の目の前まで来ていた。
「大丈夫だよ。凪が会いに来ただけで茉弥は喜ぶからな」
ここまで来て帰るわけにもいかず俺と海の後ろに隠れるようにして家に入った。
「凪ちゃんだ。凪ちゃんだ。凪ちゃんが来てくれた」
茉弥は予想通り大喜びだった。
ダイニングに入るとそこには『凪ちゃん・茉弥ちゃんお誕生日おめでとう』と書かれたお袋お手製の横断幕があった。
実は凪にはサプライズパーティーだった。
今日は茉弥の誕生日なのだが凪の誕生日も近いと言う事もあってのお袋からの相談と言う名の提案を受けていた。
「お誕生日おめでとう」
みんなから一斉にの掛け声が上がりジュースで乾杯する。
まだ、凪は状況が飲み込めずオロオロしていた。
凪と茉弥は同い年だった。
凪は飛び級をして高校生で茉弥は出席日数が足りずにダブっているから中学一年だけど。
そしてプレゼントを渡す。
俺から茉弥にはブルートパーズのネックレス、そして凪には同じデザインでグリーンのぺリドットのネックレスだ。
海から茉弥と凪には色違いのオルゴール付の宝石箱がプレゼントされた。、
そしてお袋から凪には可愛らしいワンピースが贈られた。
「あのう、ゴメンなさい。私、茉弥ちゃんにプレゼントを……」
「凪ちゃん気にしなくて良いのよ。私がタカちゃんや海ちゃんに内緒にしておいてって頼んだの。だって凪ちゃんが茉弥に会いに来てくれるだけで十分なんですもの。これ以上のプレゼントは無いわ。また、いつでも遊びに来てね。本当に今日はありがとうね」
凪が困ったように言うとお袋が凪に優しく言った。
「そうだな。凪は頭がいいから1人でも来れるよな。西浦和らバイパス沿いにまっすぐ来て郵便ポストの所を曲がるだけだもんな。今度は1人でも茉弥に会いに来てやってくれ」
「そうそう、もう凪ちゃんも私の子どもよ『沙羅ママ』じゃ変だから『如月ママ』って呼んでね。ママにも会いに来てくれたら嬉しいな」
そう言いながらお袋が凪に抱きついた。
居酒屋で電話があった時に凪に内緒にする代わりに凪を甘えさせてやってくらないかと頼んでおいたからだろう。
どんな事を言っても凪は決して自分から甘えたりしないからお袋からスキンシップを取って欲しいと念を押しておいた。
この事は海にも了承を取ってあった。
大きなお世話かも知れないが凪は産まれてすぐに母親と別れている、だから余計に母親の様な人の温もりを感じて欲しかった。
「じゃ、今日から茉弥と凪は双子の姉妹だな」
「嬉しいな、嬉しいな。凪ちゃんと双子だって」
「凪も嬉しい」
後押しすると茉弥が喜んで凪に抱き着き凪が恥ずかしそうにしている。
しばらくワイワイやっていたのだが茉弥が部屋で遊ぼうと凪を誘い2人が上へ行き。
直ぐに海も2階の茉弥の部屋に遊びに行ってしまった。
「お袋。凪の事ありがとうな。これからも連れてくるから宜しく頼む」
「うんん、そんな事は全然タカちゃんが気にしなくていいのよ。娘が増えたみたいで楽しいもの。それと海ちゃんの事いつまでも中途半端じゃ駄目よちゃんとしないと」
「その事なら、もう大丈夫だ。俺の気持ちも伝えたし海の気持ちも聞いたから」
「そうだったの。おめでとう。ママも応援するからね。でもタカちゃんはいつも人の事ばかり優先するから。そんなの駄目よ優しいのはいいことだけどね。自分をもっと大切にしなさい。人を想う事はとても大切な事。人を守る事はもっと大切な事、。でも誰かだけじゃ駄目なの自分も守れないときっと哀しい思いをする人が出てくる筈だから。もし万が一何か遭った時には自分の力を信じなさい。あなたの体の中にも退魔師の力が宿っている。その力がきっとあなたを導き助けてくれるはずよ。それにお父さんがよく言ってたわよね『熱くなったら負けだ、どんな時にもクールで居ろ』ってママもそう想うの。どんな時にも冷静で居られれば大丈夫のはずよ」
その言葉は親父がレースの時にいつも言っていた親父の口癖だった。
『熱くなってもいい、だけど頭の中はいつもクールでいろ、そうすればかならず活路は見出せる』
その時は何故お袋がそんな事を言ったのか分からなかった。
「タカちゃんは海ちゃんとラブラブなんだ。LOVE IS POWERもパワーアップね」
なんて付け加えやがった本当にお袋だけは訳分からない。
しばらくしてあまり遅くなる訳にもいかないので海たちを呼んだ。
「おーい、そろそろ帰るぞ」
3人がもとても嬉しそうに降りてきたが帰る時間だと分かり茉弥が寂しそうな顔をしている。
また遊びに来る事を約束して実家を後にした。