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凪とデート-3

トイレに向かうと俺を追いかける様にスギとクロが次々にやってきた。

「キサ、お前あんなに綺麗で可愛い子と何処で知り合ったんだ」

「ああ、島だよ。俺が居た沖縄の石垣島」

「でも、あんなに綺麗で何処かのお嬢様みたいだとなんだか凄い緊張するよな」

スギの言っている事は間違いじゃないのは確かだ。

「やっぱりスギもなのか。ドキドキもんだよな流石に」

どうやらクロも緊張しっぱなしらしい。


その頃、残された凪と海が嬉しそうに話をしていた。

「兄貴、楽しそうだね。でも兄貴って学校の話してしゃべりたがらないよね」

「凪もそう思っているの? 私も隆羅から聞いたこと無いんだ。高校の隆羅の友達か。どんな高校生だったんだろうね」

「悪いな」

「もう、遅いよ兄貴。お姉ちゃんと帰ろうかと思ったんだから」

「いやいや、それは勘弁してください。せっかくこんな綺麗な姉妹と出会えたんですから」

トイレから戻り凪が冗談を言うとスギが真に受けて必死に取り繕い、クロはスギの後ろで右往左往していた。

しばらくワイワイと仕事の話などをしていると俺の携帯が鳴った。

お袋からだった。とりあえず後からと告げ電話を切り立ち上がり。

『悪い、ちょっと電話してくるわ』と言い席を離れた。


「あのう、スギさんとクロさんて昔のお兄さんの事知っているんですよね。さっき変わったなって言っていたけれど。昔のお兄さんってどんなだったんですか?」

「あいつ、高校の一年の一学期に俺らの高校に編入して来たんだよ」

「その、高校って何処なんですか?」

「埼玉の西陵って聞いたことあるかな」

「えっ、凄い進学校じゃないですか」

「まぁ、そうなんだけど。キサは試験免除で編入してきたって噂だったんだ。それで俺らのクラスに来て。な、スギ」

「はじめて見た時は無愛想でいけ好かない奴だと思たよ。アイツの地元の奴ら探して聞いてみたんだ。如月ってどんな奴なんだて。そうしたら小中の九年間殆ど人と話をしなかったらしいんだ。それで小学校でついたあだ名が『鉄仮面』中学の時が『絶対零度』、そして成績はいつもトップクラスだったらしいんだ」

「あのう、信じられないんですけど。スギさん私たちの事からかっていません?」

凪が信じられずに杉田に突っ込んだ。

「いや本当だって。だから今のあいつを見て驚いたんだよ。なぁ、クロ」

「そうそう。アイツの変わりようは俺らの方が信じられないくらいだよ」

「そんなしゃべらないキサに興味を持ってキサを構うようになったんだけど。休みの日に何処かへ連れ出そうと計画したらいつも親父と用事があるって言われてさ」

「それって、お父さんと車やバイクのレースに出たりしていたて言うやつでしょ」

「はぁ? 車やバイクのレースに出場していたって事? そんな事をキサの奴してたのか」

「えっ、知らなかったんですか?」

「ああ、キサはあまり自分から話する奴じゃなからね。しかし酷い奴だな。俺らに何も言わないなんて。クロきっちりキサの事を絞めとけよ」

「スギ。了解したガツンとな」

黒崎が拳を握り杉田が黒崎を見てから話を続けた。

「学校ではキサを巻き込んで騒いでバカな事ばかりしていたんだ。そして付いた呼び名が三バカトリオ」

「クロで~す」

「スギで~す」

「「キサで~す。3人合わせて三バカトリオで~す」」

黒崎と杉田が肩を組んで声を上げ海と凪がお腹を抱えて大笑いした。

「面白い人たちだね、お姉ちゃん」

「そうね、変な人たち。でも楽しい」

「でも、変な時期に編入してきたんだね」

「そうそう。それは俺らも気になってキサに聞いてみたんだけど何も言わなかったんだ。しばらくしてキサが最初に入った高校の知り合いに会ったから聞いてみたんだ。そうしたら、何でも不良グループとトラブルがあって学校に居ずらかったらしいんだ。キサは頭も良くてスポーツも卒なくこなすから直ぐに目を付けられたんだと思う。それ以上の事は俺にも分からないんだけど」

「本当にあの3年間は青春って感じで楽しかったな。3人でバカやって。でもキサはいつも俺らに振り回されていたと思っているのかも知れないけど嫌じゃなかったんだろうな。いつも一緒にいたし」

「卒業してからも3人で時々会っていたんだよ。だけど急にキサの奴居なくなって。スギあの時は大変だったんだよな」

「そうだったな。やっとのことでバイト先を見つけてそこの店長に聞いたら。親父さんが来て就職が決まったからここは辞めさせるって言ったらしんだ。そしたら次の日から来なくなったって店長が言ってたよ」

「で、今日久しぶりに会ったらあの笑顔だろうビックリだよなクロ」

「そうそう、キサってその沖縄の島でどんなだったんだろうな。海さんは知っているんでしょ」

「いつも笑っていて。優しくって。凄くヘタレだよね、凪」

「うん」

「キサがヘタレね。まだ信じられないや」

「悪い、お待たせ」

席に戻るとスギがほろ酔い気分で俺を見上げた。

「キサ遅いぞ」

「まあまあ、遅かったけど何の電話だったんだ」

酔って大きくなっているスギの事をクロが宥めている。

「お袋だよちょっと妹のことでな。で何の話をしていたんだ」

「お前が俺らに内緒でレースに出ていた話をだなしていたわけだ」

「そうそう、しかしキサも酷い奴だよなぁ一言も言わないなんて」

スギとクロに久しぶりに突っ込まれた。

「あのな好きで出ていた訳じゃなくだな。親父に出ないと小遣なしだって言われて強引に連れまわされたんだ。俺にしてみれば嫌々仕事やバイトをしていたのと同じ事かななんて。まぁ昔の話だ済んでしまった事は良いじゃないか」

「そうだな今は今だけだからな、飲むか」

しばらく雑談をしていたが凪が居るためにあまり遅くなる訳にもいかず。

当分の間こっちに居ることを告げ連絡先だけを交換して別れた。


凪は大倉山に着く頃には疲れて眠ってしまった。

俺達ですら疲れているのだから尚更だろう。

海が荷物を持ってくれるというので半分だけ渡し駅から凪をおぶって帰る事にした。

「海、今日はやけに楽しそうだな。そんなに楽しかったか?」

「うん、隆羅の昔の話も聞けたしね。前からこうして出掛ける事なんて殆どなかったから」

「そうか、スギとクロが俺の昔の話しをね」

「隆羅は子どもの頃、何で誰とも話をしなかったの? 辛くなかったの?」

一瞬だったが遠い目をしてしまったのを海は見逃さなかったのだろう。

「そうだな、何でだろうな。自分の力じゃどうしようもない事があってからかな」

「子どもの時の力なんて出来ない事ばかりじゃない」

「そうだけど。どうしようもなかったんだよ、その時は。でも、高校の時にスギとクロと出会えて良かったと思っているんだ。俺が変わるきっかけを作ってくれた奴らだからな感謝しても感謝しきれないよあいつらには」

「でも、島で出会った時の隆羅はスギさんやクロさんが話していた隆羅じゃなかったよ」

スギとクロが開けっ広げな性格なのを思い出した。

「俺はあの島で変わり。あの島が変えてくれたんだ。でもあの島でもどうしようもない悲しみにくれた事もあるけどな」

「隆羅はなんだか辛いことばかり」

「もう、止め止め。この話はおしまい。今は今なんだ。今は今しかないからな嫌な事なんて誰にでもあるはずだろみんな同じさ。それに島で海に出逢えたしな。俺は今に感謝しているんだぞ」

寂しそうな顔をした海の顔に笑顔が戻った。

気が付くと駅前通りを抜け屋敷の近くの閑静な住宅街まで帰って来ていた。

「そう言えば今日は全然しゃべらなかったな。どうしてだ」

「だって、隆羅が怒った顔で『今日は凪が主役だからな』って言うから」

海は少し拗ねていたようだ。

「でも、今日はとっても良い事があったから許してあげる」

「そんな事があったか、何のことだ?」

「内緒だよ」

「そうか。そうだその黒い紙袋は海のだからな」

その紙袋の中はあのマネキンが着ていた洋服だった。

フロアを回っている時に海は落ち着きがなくモジモジし始め急に何処かに走り出した。

俺は焦ったがすぐにその方向を見てトイレだろうと気付いた。

凪が洋服選びに夢中になっている隙にあの店に行き洋服を購入しておいた。

今日は一人でパソコンのソフトを買いに行くつもりだったので俺の財布の中には洋服を買っても少し余力を残す金額が入っていた。

その予定は全てキャンセルになったがソフトはまた今度買えば良い事だし。海に服を買ってやるなんて機会は滅多にないと思った。

「隆羅、何これ。見ても良いの」

「ああ、良いぞ」

「えっ、これって隆羅? 本当に貰って良いの?」

見る見る海の瞳が輝きだした。

「それ欲しそうにしていただろ。それに、その、海に似合うかなって。なんて言うか、そう、お礼みたいなもんだ今日の」

「隆羅、ありがとう。チュッ」

自分で言っておいて恥ずかしくなってしまう。

すると海がとても嬉しそうな顔をして俺のほっぺにキスをした。

凪をおんぶして手で紙袋を提げている為にまったく抵抗できない。

「ば、ばか。何をするんだよ」

「うふふ、良いんだもん。だって彼女なんでしょ。彼女ならチュウしていいんだもん。それとも……あれは言葉の彩なの」

少し怒った様な少し切ない様な顔をした。

「しょうがねえな。そうだ海は彼女だ。如月隆羅は海の事が好きだ」

「私、水無月 海も隆羅の事が大好きです」

「泣くなよ。な、これからもずっと一緒だ」

吸い込まれそうな瞳から大粒の涙が溢れ。海が俺の胸に顔を埋めていた。

そして綺麗な顔を俺にまっすぐに向けて海が目を閉じた。

海の唇に触れるあと数センチの所で声がして海が離れた。

「兄貴、ありがにょう」

背中から聞こえてくる凪の寝言だった。

お互いの顔を見ながら笑い。そして『シィー』と言い眠っている凪を見て微笑んだ。

「早く帰ろう。潮さんが待っているから」

「うん」

その日、海との微妙な関係に終止符が打たれた。


翌日、潮さんに呼ばれて屋敷に向かう。

「昨日は、楽しかったの」

「まぁ、色々ありましたけど楽しかったですよ。疲れましたけど」

「そう言えば海がずーとニコニコしているんだけどターちゃん理由を知らないかしら」

「知りませんよ。海も昨日は楽しそうでしたから。その事じゃないですか」

「色々ね。まぁ凪も楽しそうだからいいか。これからも海と凪の事宜しくね。それとこれは凪を長野に送ってくれた時のお礼よ」

「ありがとうございます」

CDサイズの紙袋をと受け取り中を見ると海の洋服を購入する為に先送りしたパソコンのソフトだった。

俺のプライバシーと思うより先に疑問符が頭に浮かぶがちんと頭を下げた。

『礼には礼を尽くす』如月家の家訓なのである。


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