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凪の友達-1

だいぶ秋らしくなってきた、ある日。

「潮が呼んでいるぞ」

とキルシュが俺の部屋に来た。今度は何の用事だろう。

潮さんに呼び出されるとロクなことがなく本当に勘弁してくれと思っていた。

渋々、屋敷に向かうといつもの応接間に潮さんが座っていた。

「何の用ですか」

「そんな、渋い顔してまた私に何かやらされると思っているんでしょ。ターちゃんは」

もちろんその通りだった。

「今日は、私の用事がある訳じゃないの。ほら出てきて自分で言いなさい」

潮さんの影から凪が顔を出した。

元気がないと言うか凪のお願いなら問題ないだろう。

「兄貴、体はもう大丈夫なの?」

「ああ、この通りピンピンしているけど」

「もう、凪はそんな事じゃないでしょ。ちゃんと話しなさい」

凪が潮さんに言われて言い辛そうに口を開いた。

「う、うん。兄貴、今度の日曜日あいてる?」

「特に何も用事や予定は無かったはずだが」

「じゃ、お願いがあるの私をドライブに連れて行って……も一緒に」

語尾がフェードアウトして聞き取れない。

「えっ、誰と一緒に?」

「その、友達も一緒に。駄目かな」

申し訳なさそうに凪が絨毯と睨めっこをしている。

なんでも前回の長野の一件で何人かの友達と仲良くなり俺の事を紹介して欲しいと言われ、勢いでみんな一緒にドライブに行こうと言う話しになってしまい。

それをギリギリまで言い出せずに潮さんに相談しに来たらしい。

「まったく。しょうがねえな、何処に行きたいんだ?」

「メガネ橋の所なんだけど」

「判った、今度の日曜日だな連れて行ってやる。任せろ」

内心は出来ればあそこには2度と行きたくなかったが凪の頼みを断るほど俺は鬼じゃない。

「ほら、お姉ちゃんが言ったとおりでしょ『しょうがねえなぁ』ってOKしてくれるって。ターちゃんは優しいものね」

俺がため息をついて腰に手を当てると潮さんが補足した。

「この埋め合わせは必ずするから凪をよろしくね、ターちゃん」


と言う訳で日曜の朝、キルシュが迎えに来て。

あの格好で俺はガレージの前に立っていた。

「うーん、このキャップは目立つから駄目よ、こっちにしなさい」

「あっ、そのキャップは」

「心配しなくても後でちゃんと返すわよ。なんてたって大事なキャップだもんね」

黒いキャップを俺に被せ意味深な事を言っている。

「それと、あの車も目立つから、今日はこっちの車を使いなさい」

「これですか?」

潮さんが示した車は4ドアだがやはりヤンチャ仕様には変わりなかった。

まぁシートはノーマルのシートだったが。

「シートはノーマルに替えておいたから。あまり無茶しちゃ駄目よ」

「いやいや、凪の友達もいるんだし無茶はしませんよ」

「それもそうね。それに今日はフォローなしだからね」

「了解しました」

車に乗り込むと凪が助手席のシートに小さい体を沈めシートベルトをしている。

「それと、あの辺は最近ガラの悪いの多いから気を付けてね。喧嘩なんかしちゃ駄目よ怪我しちゃうから」

「喧嘩なんかしないですよ。痛いのは嫌いだし。俺へタレですから。じゃ行って来ます」

凪に行き先を聞いて車を出した。


「あなたがじゃ無くて。相手がよ」

「何故、相手なんだ?」

「キルシュ。あの子は自分のポテンシャルを何も解っていないわ。あの実験の前にあの子の体の状態を確かめるために私は本気であの子の頭めがけて回し蹴りを入れたの。でも、咄嗟に上段の受けをして衝撃を吸収する為に無意識に横に飛んだのよ。本人は吹き飛ばされたと思っているみたいだけれどね。島で古武道をやらされたと言っていたけどドライビングテクニックもそう。嫌々ながらでもあの子は体で覚えた事は自然に吸収して自分の物にしてしまうのよ。だから本人はそれが普通だと思ってしまい。凄い事だとは思えないで居ると思うの。本当はとんでもなく凄い事なのに」

「隆羅の中では平均値が以上に高いと言う事なのか?」

「違いが判る人ならあの子のポテンシャルを見抜いてとことん鍛え抜いてみようと思うでしょうね。たぶん古武道の師範もそうだと思うの。だから私もついからかいたくなっちゃうんだけどね」

「そんな事か」

「キルシュいい。もし、あの子が喧嘩に巻き込まれても無意識の内に古武道を駆使して相手をねじ伏せてしまうでしょうね。あの子がキレていたら相手は大怪我じゃ多分すまないわ。その古武道の力が例の力だったらどうなるかしら? あの子がキレて体で覚えたあの力を無意識の内に使ったらあなたには止める自信があるの。私には無理よ。たぶん誰にも止められないわ。下手をすれば横浜くらい簡単に一瞬で炭になるわよ」

キルシュの尻尾の毛が逆立っていた。

「あいつがヘタレで良かったな」

「そうね、でもこれからが要注意よ、大きすぎる力は必ず狙われてしまうから」

一つひとつの歯車が少しずつ噛みあい静かにそして確かに動き始めているのを潮は感じていた。


「兄貴、学園までの道のりは大丈夫」

「完璧だ。もう何回も朝たたき起こされて誰かさんを送りに行っているからな」

「えへへ、そうでした。ありがとうね」

屋敷から30分ほどで待ち合わせ場所の学園の正門に着いた。

すでに門の前で3人の女の子が待っていた。

1人はおさげでおとなしそうな女の子。

その向こうにベリーショートでボーイシュな女の子。

最後の子はショートボブでメガネを掛けていた。

「おはよー」

「おはようございます。凪さん」

凪さんって微妙な上下関係なのか?

後部座席に3人を乗せて車を出すと緊張した空気が車内を包んで凪ですら借りてきた猫の様になっている。

「凪、とりあえず自己紹介からしょうな。俺は如月隆羅、宜しくね」

「私は、愛。祐天寺 愛です」

ボーイッシュな子が元気よく。

「日吉璃子です。瑠璃の璃に子どもの子って書きます。宜しくです」

メガネの子が優等生ぽく。

「私は、小杉千代子って言います。チョコって呼んでください」

大人しそうなおさげの子がそれぞれ自己紹介した。

「凪は学園でどんな感じなのかな」

「凪ちゃんは、頭も良くて今学期からクラス委員長するんだよね、璃子」

「すこし前までチョコより静かだったけれど、愛もだけどクラスのアイドルです」

「凪さんは、すごく元気で羨ましいです」

「楽しそうだな、とても。元気なのはいつもだけどな」

俺が笑っていると愛ちゃんが聞いてきた。

「何がおかしいのですか? 如月さん」

「元気って言えば。初対面の時に俺に何したと思う。不意打ちでドロップキックだぞおかしいだろ」

「ええ、ドロップキックってプロレスとかって言うのですか」

3人が顔を合わせて驚いて目を真ん丸にしている。

「バ、バ、バカぁ。兄貴、な、な、何をい言っちゃってるのよ」

「凪、何を赤くなっているんだ。本当の事だろう」

「兄貴のバカ。あれはだって」

「本当に仲がいいんですね、いいなぁ」

真っ赤になりながら凪が俺の肩を叩いてくるとメガネっこの璃子ちゃんが羨ましそうに見ていた。

「いつも学園で凪ちゃんが話す事ってお兄様の事ばかりなんですよ。

「もう、愛も。もう、いいよ」

凪が困ってさらに赤くなってモジモジしている。

もう少しそんな凪を見てみたいが話題を変える事にしよう。

「チョコちゃんはおとなしんだな」

「あのう、お、お兄様は沖縄に居たんですよね」

「そうだよ、3年くらいかな。沖縄と言っても本島からずっと南の小さな島だけどね。みんな沖縄とかに行ったこと無いのかな。それとも海外の方が多いとか」

「如月さん。あまり旅行とか行った事無いですよ。うちの学園はテストとか多いし長期の休みも補修とかあるし結構大変なんですよ」

大人しいチョコちゃんを愛ちゃんがフォローした。

「そうなのか大変なんだな」

「あの、その島ってどんな所なんですか」

「そうだな。海がとても綺麗で空がでかくて。ゆっくりとした時間が流れているところだよ。璃子ちゃん」

「素敵ですね」

少し緊張は取れてきた気がするけれどまだぎこちない感じが拭えない。

「そうそう、俺の事は好きな様に呼んでもらって構わないぞ。でも、恥ずかしいから『お兄様』だけは勘弁してほしいな」

「私は、兄さんで。れと、兄さんなら私たちの事呼び捨てでも構わないですよ。ねえ」

愛ちゃんが言うと璃子ちゃんとチョコちゃんが頷いて同意している。

「了承した。呼び捨てで良いんだね」

「はい!」

3人が嬉しそうに声をそろえた。

「じゃ、私はお兄さんで」

「チョコはお兄ちゃんでいいですか」

「構わないよ」

そんな話をしていると高速のインターが見えてきた。

今回は潮さんのフォローなしと言うこともあり、それなりの速さで走っている。

高速に乗り速度を上げると後ろの3人はいろんな話で盛り上がっていた。

「なぁ、兄貴は沖縄に行く前は何処に居たんだ?」

「横浜だぞ。それも今のアパートの目と鼻の先だよ半年だったけどな。実家は埼玉にあるけどな」

「じゃ、埼玉で産まれたのか?」

「いや、産まれたのは東京の文京区だ」

「東京の文京区ってお姉ちゃん達と居た所だ」

意外な接点があり少し驚いてしまう。

「そうなのか」

「うん、今の家の前は東京の文京に住んでいたって聞いた事あるもん。凪は小さかったからあまり憶えてないけれど」

「そうなのか、あの辺は親父の庭みたいな所だったからな。上野動物園や近くの池でよく1人で遊んだぞ」

「えっ、1人でって、どうして」

「あの辺の店でレースの打ち上げがあって。つまらないから1人で遊んでいたんだ。そう言えば池の近くで不思議な女の子に逢ったような」

後ろから愛の声がして会話が途切れた。

「兄さん、今どの辺なの?」

「あと半分くらいかな、そろそろ休憩入れるぞ」

「璃子、楽しみだね。ジェットコースター」

ジェットコースターって……もしかしてそれでメガネ橋なのか。

ただ珍しいレンガ造りのメガネ橋がメインだとと思っていたのに。

「しょうがねえな」


給油をかねて休憩のためサービスエリアに寄り。

ガソリンを入れてからベンチに座って空を見ていた。

「いいな、お兄さんって。私も欲しかったな」

「璃子。私も同じだよ、1人っ子だから」

「お兄ちゃんならチョコも欲しい」

3人が俺の横でそんな事を言っている。

「兄さんって兄弟いるんですか?」

「愛ちゃん、いるよ。妹が1人、茉弥って言うんだ」

「そうなんですか、いいな茉弥ちゃん」

璃子が羨ましそうにしている。

「そう言えば、兄さんって凪ちゃんの本当の兄さんじゃないでしょ。確かお姉さんの、こ、恋人とか」

「ん、ん、友達かなぁ」

愛に直撃を受けて微妙な返事をしてしまった。

とりあえず微妙な関係であることには違いないけど。

「でも、凪ちゃんがお姉ちゃんの彼氏って言っていましたよ」

「お兄さん。出逢いは何処ですか」

「お兄ちゃん。私も聞きたいです」

璃子が突っ込み。愛が更に切り込んできて。

チョコまで乗っかってきて答えない訳にはいかないだろう。

「島でだよ、沖縄の」

「きゃー、ロマンチック」

愛がはしゃいでいるがあれがロマンチックなのか?

その片鱗も無かったが・・・

「で、2人は何処まで行ったんですか」

璃子がメガネの奥からキラキラと目を輝かせ聞いてくる。

何処までもと言われても何もないのが本当で。

それでも3人に詰め寄られタジタジになってしまう。

「兄貴、お待たせ。あれ、兄貴、顔赤いけどどうしたの?」

「ん、いや別に。それじゃ行こうか」

凪が戻ってきて胸をなでおろしたが3人はキャーキャーまだ騒いでいた。


高速を降りて峠に向かう。

メガネ橋の下で4人を下ろし1人で峠に向かった。

8割くらいパワーで何個かコーナーを抜け俺が車のフィーリングを確かめている頃。

凪達は橋をバックに写真を撮っていた。

そこに1台の車が近づき車から腰パンのデカイ男とチビ男が降りてきた。


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