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お盆-3

昼食の後は各々ゆっくり過ごしていた。

俺は少し離れた岩場で海を見ながらボーとしている。

ここは海の水も綺麗だけどやっぱり島とは違うんだな。海の色が青と紺しかないや。

去年の今頃は何をしていたっけ。

そんな事を考えていると頬に冷たい物があたり振り返る海が立っていた。

「隆羅、ジュース飲む?」

「おっ、サンキュー。今来たのか?」

「少し前に来たけど隆羅が寂しそうな顔していたから。声かけられなかった」

「そうか、そんな顔してたか」

海がすぐ横に膝を抱えるようにして腰を下ろした。

「うん、隆羅が居なくなっちゃいそうで少し怖かった」

「怖いって何で?」

「本当は島に居たかったんでしょ。でも私の所為で」

「何処にも行かないよ」

前を向いたままそう答えるしか出来ない。

「何を考えていたの?」

「去年は今頃なにしていたかなって」

「隆羅、時々遠い目をするよね」

「そうか」

「うん、とても不安になる」

いつもと海の雰囲気が違う事に気付いた。

「何がだよ、海なんか変だぞお前」

「知りたいの隆羅の本当の気持ち」

「俺の気持ちって?」

「隆羅は私の事をどう思……」

「ああ、居た。こんな所で2人だけでコソコソとお姉ちゃん行くよ。ほら」

凪が現れて会話が途切れた。

「うん、分かった」

「潮お姉ちゃんが、ターちゃんはってお前の事を探していたぞ」

「ああ、分かったすぐ行くよ。先に行ってくれ」

凪に連れられて海がビーチに戻って行ってしまう。

俺の気持ちか、どう答えれば良いんだろう。

もう少し時間が欲しいと言うのが正直な気持ちなのかもしれない。


ビーチに戻ると皆が片付けを始めていた。

「ターちゃん、早く撤収よ」

「うぃーす」

「どうしたの? 少し変よ。ターちゃん」

「元からですよ」

「そうかしら」

「俺は自他共に認めるヘタレですから」

「そうそう、もし釣りするようなら車に道具が積んであるから」

「うぃーす」


宿はとても落ち着いたいい感じの宿だった。

部屋からは海が見渡せてとても気持ちが良い風が流れてくる。

食事はみんなで食べられる様に小さな宴会場に用意されていた。

「わぁ、凄い美味しそう」

「母さま、お魚が動いてる」

茉弥の言葉通り生き造りの舟盛りの刺身があり。

網の上ではアワビやエビが踊っている。

海の幸テンコ盛りの豪華な食事だった。

潮さんの乾杯の音頭で宴会が始まりを告げる。

「おいしいね、隆羅」

「そうだな」

「お、茉弥。エビ食べるか? ほらお兄ちゃんのも食べていいぞ」

「凪、こぼさないの、もう。ビールおかわり」

ワイワイガヤガヤと宴会は続いた。

「ねえねえ、凪ちゃんこれ見て」

「うわ、綺麗な石だね。茉弥ちゃんこれどうしたの?」

「あのね、兄さまにもらったの。茉弥の宝物なの」

「良かったね」

茉弥があの石を凪に見せて自慢しているのを見て潮さんが詰め寄ってきた。

「ターちゃん、あの石ってまさか」

「潜った時に採ってきたんですよ。西伊豆の海は綺麗ですから底まで良く見えましたよ」

「でも、あの辺て深いんじゃないの?」

「あのくらいの深さなら余裕かな」

いつもなら弄って来そうな潮さんが頻りに感心している。

「それじゃ、あの海をボートに上げた技ってどこで覚えたのかしら」

「島で海人に世話になっていた事があるんです。その海人がダイビングもやっていて。そこで遊びながら憶えたんです。ダイビングに来た女の子には評判良かったですよ」

「そうなの、そんな事していたんだ」

潮時を感じて潮さんに切りだした。

「そうだ、潮さん車のキー貸してください夜釣りに行こうと思っているんで」

「餌はあるの?」

「ええ、夕食前に買って来ました。ありがとうございます。じゃ、行ってきます」

鍵を受け取り宴会場を出ようとするとお袋が紙袋を差し出した。

「はいこれ。いつもの」

「ああ、悪いな。サンキュー」

紙袋を受け取り宴会場を後にする。


「えっと、竿はこれか道具はと。これだけあれば十分か」

駐車場の車から竿と道具を取り出し餌の入ったクーラーボックスを持ってビーチの近くの船着場まで向かう。

そして、先端まで歩き準備に取り掛かる。

道糸に錘を通してサル環を付けてハリス付きの針をつけて終了と。

餌を付けて投げ込み竿先に鈴をつけ胡座をかいて足の間に竿を差し込んで横になった。


他のメンバーは食事も終わり部屋に向かい歩いていた。

「茉弥ちゃん、これから凪達の部屋で遊ばない?」

「うん、良いよ。遊ぶ」

「潮さん、本当にありがとう。茉弥もあんなに楽しそうで」

「いえ、いつもターちゃんには無理ばかり言っていますから」

「気にしないでいっぱい使ってやってくださいね。タカちゃんの事、よろしくお願いしますね」

隆羅が居ない事に気付いた海が潮に声を掛けた。

「お姉ちゃん。そう言えば隆羅は?」

「ターちゃんなら釣りに行くって出て行ったわよ。たぶん船着場じゃないかしら」

「ふうん、そうなんだ」

「そうそう、これから私達の部屋で騒ぎませんか? こんな事あまり無いですし」

「そうね、それは楽しいかも。是非」

潮たちの部屋でおしゃべり大会が始まった。

茉弥は凪と潮はお袋と楽しそうに話しに花を咲かせていた。

「お姉ちゃん、私ちょっと散歩して来るね」

「そう、気を付けるのよ」

「うん」

「ああ、お姉ちゃん何処に? まさかこんな夜にアイツと」

「凪、邪魔しちゃ駄目よ。海、行ってらっしゃい」

「うん、ちょっと行ってきます」


「確か、船着場はあっち」

海が宿を出て辺りを見渡し小走りで向かった。


夜空を眺めながらどう答えて良いか迷っていた。

海の事は嫌いじゃない。だが気になる事があるのも確かだった。

するとビーチの方から足音が聞えた。

「隆羅、そこに居るの?」

「ああ、こっちだ気を付けろよ」

海の声がして横になったまま返事をする。

「見つけた、横に座ってもいい?」

「ああ、いいぞ」

海が体育座りをして膝を抱え膝に顔を乗せてこちらを見ている。

「どうしたんだ」

「隆羅が釣りをしているって聞いて見に来たの」

「そうか。星が綺麗だな」

「うん、そうだね」

あの岩場での事があって海との間に微妙な間が流れている。

「なぁ」「ねぇ」

2人の言葉が重なり。

「その」「あの」

また、言葉が重なってしまいなんだか可笑しくなりどちらかとも無く笑い出した。

「悪いが海から始めてくれ」

「うん、分かった。ねぇ、隆羅。何故、隆羅は私たちの事あまり聞かないの? 私達が水の精の事とか。普通は怖がったり変な目で見たりするでしょ」

「そうだなぁ、多少は潮さんから聞いたけれど根本が他の所に在るからかな。水の精や門番だとしても海が変わる訳じゃ無いだろう。それは海が自分でどうにかできる問題じゃない。例えるなら目の色の違い肌の色の違いや髪の色の違いみたいなものだと思うんだ。海は目の色が違うからその眼はどうしてだって聞くか? 聞かないだろう。海は海なんだから俺が知りたいのは水の精とか門番の事じゃなく。海がどんな女の子なのかが知りたいんだ。だからかな」

「それじゃ、どんな女の子だったの」

海が不安そうに聞いてきた。

「すぐ殴るし、すぐ泣くし。食いしん坊で甘いものが大好きで」

「もう、隆羅!」

「とても優しくって温かい、凄く綺麗な女の子かな」

「ありがとう、隆羅」

今度は俺が話をする番だろう。

「なぁ、海。岩場で俺に聞いてきた事なんだけれど」

「あのね、隆羅って私の事どう思っているのかなぁって。隆羅の気持ちが聞きたいの」

「そうか」

「うん、教えて欲しい。隆羅の本当の気持ち」

「こんな言い方はずるいかも知れないが。俺は海の事嫌いじゃないぞ。優しいし綺麗だし海が俺の事を好いてくれているのもよく分かるんだ。でも、もう少し返事を待って欲しいんだ」

海の瞳が星が揺らめく様に揺れている。

「海と出会ってからいろいろな事が起こって。海は自分の力の事は昔から知っていたのだろ。でも俺は違う。鬼の力を持っていて鬼の血が流れている退魔師の一族なのを知ったばかりで。鬼の力が在ろうと無かろうと俺は俺なんだけど凄く戸惑っているし怖いんだ。すこし気になる事もあるし。海には悪いと思っているんだ、中途半端な気持ちで居させてしまっている。ゴメンな本当に」

「そうなんだ、少し気になる事って何?」

「それは、俺の問題かな。俺自身で解決すべきことだと思う。こんな俺の事を想ってくれる海の気持ちは嬉しい。だからもう少しだけ時間をくれないか俺に。もっと海の事知りたいし俺自身の事も知りたいんだ。そうヨンナ~ヨンナ~で行きたいんだよ」

「ヨンナ~、ヨンナ~?」

「沖縄の島の言葉で焦らずゆっくりとって意味だ。友達以上恋人未満みたいな宙ぶらりんでハッキリ出来なくて悪いとは思っている。これだけは知っておいて欲しい。俺も海といつも一緒に居たいと思っている。だから、もう少しゆっくりと行かないか。それじゃ駄目か?」

「うん、分かった。隆羅の本当の気持ち聞かせてくれてありがとう」

その時、竿の鈴が鳴った。

「来た!」

「凄い凄い、隆羅」

竿を上げると糸が張り竿がしなる。

立ち上がり力を込めると糸が切れ勢い余って尻餅をついた。

「ふふふ、隆羅って面白い」

「そうか? みんなが心配するから帰ろうか」

「うん」


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