お盆-2
「はぁ、はぁ、はぁ、死んでしまう」
「何、ヘタってるの? この位で」
「これ位って、荷物運びにセッティングまで全部ですよ」
「女の子にさせる気なの? ターちゃんは」
「だから、全部やったじゃないですか……少し眠ら……」
寝不足の上に車の運転をしての強行軍だったので倒れこむようにパラソルの下で眠ってしまった。
どのくらい寝ていたのだろう海の呼ぶ声が聞こえ。
目を開けると綺麗な顔立ちの海が透通るような白い肌によく映えた綺麗な青いビキニを着ていた。
「隆羅、隆羅ってば。皆と西瓜割をしよう」
「人魚姫……」
鈍い音がして息が詰まり腹を見ると大きな西瓜が乗っているのが見える。
「お姉ちゃんが起きろって言っているだろ」
「凪、ちょっと来なさい。さっきお姉ちゃんが言ったでしょ」
可愛らしいフリルが着いた赤いビキニを着た凪がそっぽを向いて歩き出した。
おそらく凪が俺の腹に西瓜を落としたのだろう。
「海、いいて気にしていないから。大丈夫だから」
「でも」
「俺が大丈夫だと言っているんだ」
「分かった。ゴメンね、隆羅」
「何も、海があやまる事は無いだろう。誰も悪くないんだよ」
「海は、みんなと西瓜割りして来い俺はもう少し横になるから。腹の上の西瓜忘れるなよ」
「うん!」
ビーチには白いワンピースの水着を着た潮さんにフリフリ花柄の水着の茉弥が笑っている。
そしてお袋は日焼けしないように完全防備な格好をして西瓜割りの準備をしていた。
俺は夢の中へと誘う。
まぁ凪の焼きもちも分かるしそれにお袋や茉弥と仲良くしているのでそれで良い様な気がした。
遠くでみんなが楽しく遊んでいる声がしている。
気持ちがいい幸せだ……
「隆羅、寝てばっかりいないで行くよ」
海に手を引っ張られ連れ去られた。
そこには大き目のゴムボートがありボートにはとても見慣れたシュノーケリングの三点セットが積まれている。
「あの、これは潮さん」
「ちょっと沖まで行って見たくって」
「で、俺に何をしろと?」
「漕いでちょうだいね、男の子」
「はぁ、俺は使い魔か……」
ボートにはお嬢様が3人と使い魔の計4人だった。
お袋と茉弥はビーチで何か拾っているのが見て取れる。
しばらく漕ぎ沖に出るが入り江になっていて波はそんなに無いのだが限界だった。
「うぅ、気分悪い」
「大丈夫、隆羅」
「全然大丈夫じゃないぞ」
「もう、へタレなんだからターちゃんは」
「俺が舟駄目なの知っているくせに」
海に入れば何とかなると3点セットに手を伸ばす。
「これ、使いますよ」
「ええ、ターちゃんのだもの。ご自由に」
「やっぱりそうなんだ。じゃ、行ってきます」
水柱を上げてバックロールで海へそのまま潜る。
しばらく、静かな青い世界で光が舞うのを眺めていると誰かがボートから覗いている影が見えた。
「お姉ちゃん。上がって来ないよ」
「大丈夫よ、ターちゃんなら」
「でも、隆羅上がってこないよ。隆羅、隆羅ってば」
「なんだ? 海」
海が覗き込んでいる反対側から顔を出すと今にも泣きそうな海の顔を見て潮さんと凪が大笑いした。
「隆羅のバカ!」
「えっ、お姉ちゃん危ない!」
「海、座りなさい!」
怒った海が急に立ち上がり俺の方に来ようとした。
凪と潮さんの声も空しくボートが大きく揺れる。
次の瞬間、海が落ち水を飲む嫌な音がした。
咄嗟にジャックナイフで急潜行をすると海の白い体が沈んで行くのが見える。
手を伸ばして体を抱きかかえフィンを力任せに漕ぎ急浮上する
「海! 海大丈夫か?」
「ゲホ、ゲホ。こ、怖かったよ」
「水の精も溺れることがあるんだな」
「隆羅の所為でしょ!」
半泣きで俺の首にしがみ付いている海の腰に腕をまわして落ち着かせる為に抱き寄せる。
するとボートから2人がこちらを凝視していた。
「へぇ、お姉ちゃんて意外と大胆だったんだ」
「もう、ラブラブね。2人とも」
「そんな場合じゃ、もういいす」
海がからかわれたのに気付いて真っ赤になったが怖いのか離れようとしなかった。
そして改めて言われると海の柔らかい物が押し付けられて気になってしょうがない。
「もう大丈夫だな。ボートに上がれ」
「あれ、あれ」
海が必死にボートに上がろうとしてジタバタしている。
「しょうがねえな。海、両膝を曲げて右手でボートのロープをつかんでおけ。分かったな」
「うん、こう?」
「もうちょっと手はこっちだ。そうそう、良いか行くぞ」
大きく息を吸い真下に潜り海を左肩に乗せ左手で海の体を支えてフィンを大きく漕いで一気に浮上する。
水面に上がった瞬間にボートを右手で押さえ手の力も加えて体を持ち上げ反転させる。
「ひゃあ!」
変な声を上げた海がボートの縁に腰かけて居た。
「す、凄い」
「やるじゃないターちゃん」
「あ、ありがとう隆羅」
「もう、ボートの上で立つなよ、少し潜ってくるからな」
海の顔が赤くなりこれ以上弄られるのが嫌でボートから離れた。
ボートの上では3人が青空を見上げていた。
「気持ち良いわね」
「うん」
「ねぇ、お姉ちゃんアイツ凄いな」
「凪、あまりターちゃんに可哀想な事しちゃ駄目よ。あの子は凪に何をされても絶対に怒らないわよ」
「潮お姉ちゃんなんで怒らないのさ」
「だって海があなたの事を大事に思っているからよ。あの子は自分の大切なものを傷付けられたり侮辱されたりしない限り怒らないわよ。とても優しい子なの優し過ぎるくらいにね。それに凪だって大切なもの壊されたら嫌でしょ、海の事も少し考えてあげなさい」
「だって、海お姉ちゃんアイツの前だと凄く楽しそうなんだもん」
「しょうがないじゃない。海にとってターちゃんはとってもとっても大切なんだからね。そうなんでしょ、海」
「私は、その、とっても大切に思っているけど隆羅は私の所為で……」
「はいはい、この話はおしまい。凪、判ったわね」
しばらくすると隆羅が上がってきた 。
「ターちゃんそろそろ戻るわよ」
「分かりました」
ボートの後ろにつかまりゆっくりフィンを漕ぎ始める。
「人間船外機みたいね、ターちゃん」
「でも、結構重いんですけど」
「失礼ね。レディが乗っているのに重いって。この口がそういうこと言うのかしら」
「痛ったたたたた」
潮さんがほっぺを思いっきりつねった。
ビーチに戻るとお袋と茉弥はまだ何かを拾い集めていた。
「兄さま、戻ってきた」
「タカちゃんお帰りなさい」
「ああ、疲れた」
茉弥とお袋の横に腰を下ろすと茉弥が腕を掴んできた。
「何をやっていたんだ、2人で」
「麗な石を集めていたんだよね、マーちゃん」
「うん、ほら、兄さま綺麗でしょ」
茉弥の小さな掌の上には変わった形や色の小石がのっていた。
「本当だ綺麗だな、そうだこれお土産だ」
それはキラキラと太陽を反射して光るとても綺麗な石だった。
「兄さま、茉弥にくれるの?」
「ああ、茉弥に持ってきたんだ」
「茉弥、嬉しい。母さま見て綺麗」
茉弥が太陽を透かすように石を見ている。
「まぁ、綺麗ね。帰ったらマーちゃんの宝箱に入れようね」
「うん、入れる」