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お盆-1

あの横浜での一件から確実にそしてかなり俺と海の距離が近づいてきていた。

そして、明日から3日間お盆休みで何をしようか色々と考えていたのだがそれは見事に打ち砕かれてしまう。

お盆休み初日の早朝。朝刊すらまだの時間。

「隆羅。起きて、隆羅ってば」

「んん、海。ん、今何時だ」

昨晩、遅くまでネットをしていた事もあり寝ぼけ眼で時計を見ると見た事のない時間だった。

「まだ、寝る。お前もここで寝ろ」

寝ぼけて海の首に手を回しベッドへ引きずり込んだ。

「あっ凪、駄目よ!」

「お姉ちゃんに何するんだこの変態野郎!」

軽やかな足音がして腹部に何かを叩き込まれ目が覚めたと言うよりお花畑が見えた気がした。

嗚咽を上げながらベッドから転げ落ち腹を押さえながら涙目で何が起きているのか理解できずに見上げる。

腰に両手を当てて仁王立ちした凪とその向うに潮さんが見えた。

「こんな、朝っぱらから殺す気ですか?」

「ゴメンなさい悪気があった訳じゃ無いの」

「悪気が無いのに、なんで俺の部屋に居るんですか!」

最悪な気分でヘタレ呼ばわりの俺ですら腹が立った。

「凪、謝りなさい」

「こいつが悪いんだ、お姉ちゃんに変な事するから」

「隆羅、大丈夫なの?」

海が心配して声を掛けてきた。

「ああ、大丈夫だ」

海が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

こんな事をされて笑えるのは死人くらいだろう。まぁ死人は笑わないけれど。

「で、何の用ですか? いったい」

「お盆休みにみんなで一緒に泊りがけで海に行こうかと思って」

「はいはい。行けばいいんでしょ、行けば。準備するので外で少し待っていてください」

3人が部屋から出て行き半分やけくそで着替えと水着をとりあえずディバッグに突っ込んだ。


「もう、凪は。あんな事をされたら、いくらターちゃんだって怒るわよ」

「潮お姉ちゃんが少し脅かしてやろうって言ったんじゃん」

「凪。今度あんな事をしたら。お姉ちゃんが怒るからね」

「私は、何も悪くない。悪いのはあいつだ」

「でも、ターちゃん。凪には怒らなかったわね、流石ね」


表に出るとアパートの前に大きなワンボックスのワゴンが止まっていた。

「この車の運転手をしろと言う事ですね。了解いたしました。お嬢様方」

「悪いと思っているのよ、本当に。でもこんな車あまり運転した事ないし。それに私の車はあんな車ばかりだからね」

あんなヤンチャな車で遠出なんてするものじゃないのは事実で。

渋々、運転席に座ると海が助手席に潮さんと凪は後ろに座った。

「どこまで行けばいいんですか?」

「取りあえずターちゃんの実家まで。お母様や茉弥ちゃんと6時に待ち合わせしているの」

完全にはめられていた。

早朝の為、道はとても空いている。

「ねぇ、隆羅いつまで怒っているの?」

「もう、怒ってないよ」

「嘘つき、怒っているじゃん」

「海だって知っていたんだろ。どうせ」

俺の言葉に海がしゅんとしてしまった。

「だって、お姉ちゃんが」

「もう、分かったからそんな顔をするな」

コンポにCDを入れるとハスキーボイスの歌声が流れてくる。

「隆羅、この曲好きだよね。いつも部屋で聞いてるし」

「ああ、Heart of Diamondsって言うグループの曲だこのボーカルのYumiのハスキーボイスな声と詩が好きなんだ」

「ふうん、そうなんだ。隆羅ってこんなハスキーボイスの声の人が好きなんだ」

「このグループの歌は俺らが生まれる前の曲だぞ」

「ええ、何でそんなグループ知っているの?」

親父が車で聴いた事があってそれから良く聴くようにり好きになった。

「そんな昔の、よかった」

「何か言ったか」

「んん、何も言ってないよ」

ルームミラーを見ると潮さんは夢の中だったがツインテールはこちらを睨んでいる。

気にせずに車を走らせていると海がゴソゴソと何かをし始めた。

「そうだ、隆羅。朝ごはん作って来たのだけど食べる」

「そうだな。朝飯まだだったな」

「お姉ちゃん、ちょっとそれかして。お姉ちゃんが作ったんだよね」

凪が海から弁当箱を奪い取るように取りあげると海の瞳が不安そうに揺れている。

「うん、隆羅にと思って」

「本当にこれをアイツに食べさすの?」 

「駄目かな、やっぱり。一生懸命作ったのに」

「そこが、問題なの。お姉ちゃんの料理はかなり下手くそなのを自覚しているの?」

「だって、あまり料理したことないんだから仕方ないでしょう」

凪が弁当箱を開けて何かをつまんで食べるのがミラー越しに見える。

「……不味いよ」

「一生懸命作ったのに」

駄目出しを凪にされ海が肩を落として項垂れている。

コンビニの駐車場に車を止め車を止めてコンビニ向かい歩き出す。

「隆羅、どこに行くの?」

「トイレ休憩だ」


「ああ。もう、煩いわね。凪と海はさっきから何をもめているのまったく」

潮が目を覚ました。

「だって、お姉ちゃんがアイツに手作りのお弁当を食べさせるって」

「食べさせればいいじゃない、ターちゃんなら絶対に文句は言わないわよ」

「えっ? 食べさせるの。お姉ちゃんがアイツに嫌われてもいいの」

「凪もターちゃんの事を気に入っているのね。それにターちゃんならこれくらいで海の事、嫌いになったりしないわよ」

「違う。私はお姉ちゃんの事を思って。それにあんな奴大嫌いだし認めてないんだから。いいからお姉ちゃん、今すぐコンビニで何か別の物を買ってきなさい。早く」

海が車から降りてコンビニに入ろうとすると隆羅がコンビニで買ったお茶のペットボトルを手に持って出て来た。


「海、そんな顔してどこに行くんだ。トイレか?」

「トイレじゃないけれど何か食べるものを」

「いいから乗れ」

「えっ、うん」

少し強い口調で促すと渋々海が車に乗るのを見てから車に乗り込む。

「海、お茶を買ってきたから弁当を食べさせてくれ」

「お前、こんな物を本当に食べるのか」

「人が一生懸命作ったものをこんな物って言うな。こんな物って言って良いのは作った本人だけだ。それにこの弁当は海が俺に作ったものだ。周りがゴチャゴチャ言うな」

「隆羅、はいこれ」

凪がため息をつくと海が申し訳なさそうに弁当を出した。

「いただきます。どれ、まぁ変わった味だけど良い感じだぞ」

「えっ、隆羅。本当?」

「俺は食べ物の事に関して嘘は言わない。食べる事も作ることも好きだし。それに一応調理の仕事をしているからな」 

「隆羅の作った料理やケーキって凄く美味しいもんね」

静観していた潮さんが嬉しそうに話す海を見て口を挟んできた。

「ターちゃんは、どこかで習ったの」

「潮さん起きていたんですか? 別に習った訳じゃなく子どもの頃からお袋が作っている所を見ているの好きで。それに基本を教えてもらった訳じゃないからオリジナルばかりですし。でも一応、和・洋・中、イタリアン、ケーキ類は作れると思いますよ」

「そうなの、凄いわね今度ヨロシクね」

「激しく遠慮させていただきます」

はっきりと拒絶しておかないと後々で何をやらされるか判ったもんじゃない。

「ええ! 私もターちゃんの作った料理やケーキ食べてみたいのに」

「ご馳走様でした。ありがとうな、海」

「うん、今度はもっと頑張るね」

「ああ、またよろしくな」

喰らい付く潮さんを何とかスルーしたのに凪は納得していないようだった。

「ふん、バカじゃないの」

「いいんだよ、料理なんて物は作ってあげたいと言う気持ちと作ってくれてありがとうと言う笑顔があれば直ぐに上手くなるもんなんだ。凪ちゃんもそのうち分かるようになるさ」

「そんな事言われても分かんない」

「出発しますか」


しばらく走るとすぐに実家に到着した。

家の前でお袋と茉弥が待っていて車を止めて車から降りると茉弥が満面の笑顔で突撃してくる。

「おはよう、茉弥」

「兄さま、おはよう」

「タカちゃん、おはよう。今日は、誘ってくれてありがとうございます。潮さんと海さんに……」

凪を見てお袋がフリーズしていた。

「大勢の方が楽しいですからね、ターちゃん」

「きゃー可愛い。小さな海ちゃんがいる」

お袋の箍が外れて凪に抱きつくと凪の顔が強張っている。

「おい、お袋。凪ちゃんが固まっているだろ。いい歳して恥ずかしい事は止めてくれ」

「は、はじめまして。い、妹の凪です。よろしくお願いします」

凪がロボットの様にぎこちない動きで頭を下げ自己紹介そしている。

「それじゃ、改めて出発しましょう」

「で、どこに向かえばいいんですか」

「西伊豆よ」

「えっ、西伊豆ですか…… 海が綺麗ですもんね。また、遠いなぁ」

「レッツ ゴー」

海が声を上げ取りあえず車を出し首都高に乗る。

流石に早朝だけの事はある車が空いていてとても気持ちが良かった。


「タカちゃん、朝ごはんまだでしょ。作ってきたんだけど食べる」

「お袋、悪いんだが。さっき海が作った、弁当食べたばかりなんだ」

「それは愛情たっぷりでお腹も満足でママのは食べられないと」

「ちょっとは食べるから、後はみんなにあげてくれ」

「うふふ。冗談よ。はい、みなさんどうぞ」

お重の中にはお袋が作ったお弁当が彩りよく詰め込まている。

潮さんや凪までも覗き込んで驚いていた。

「まぁ、美味しそう。遠慮なく頂きます」

「お口に合えば凪ちゃんもどうぞ」

「はい、頂きます」

「茉弥ちゃんは食べないの?」

弁当に手を伸ばそうとしない茉弥を見て海が不思議そうに聞いた。

「茉弥はママが作っている時にいっぱい味見してお腹いっぱいなんだもんね」

「母さま、内緒って言ったのに。もう嫌い」 

茉弥が頬を膨らませ赤くなっている。

「海ちゃんには取り分けましょうね」

「あっ、ありがとうございます」

お袋が取り分けてくれた弁当を頬張りながら海が幸せそうな顔をしている。

本当に食べている時の海は子どもみたいだ。

「隆羅。凄く美味しいよ」

「そうか、お袋は昔から料理上手いからな」

「海、ターちゃんにも食べさせてあげないと。ほら、あーんって」

「潮さん、そんなに面白いですか?」

また余計な事を潮さんが言いだして切り返す。

「面白くは無いわよ。楽しいの」

「一緒です。どっちも」

「あの、その、隆羅。あーん」

楊枝に刺したから揚げを真っ赤になりながら海が口元に差し出した。

「ば、馬鹿。ああ、もう」

「タカちゃん、真っ赤か」

「ターちゃん、海のお弁当とどっちが美味しい?」

「比べられません」

「本当にハッキリしないんだからターちゃんは」

「どっちも愛情たっぷりで美味しかったんです」

何故か海が隣で真っ赤になって下を向いた。

今日から3日間の事を考えると憂鬱になって来た。


車は東名に入り順調に進んだ。

そしてサービスエリアに1回止まり休憩をして東名をひた走り、そして高速を降りてから西伊豆の宿へ向う。

「今日の宿がある場所は穴場中の穴場だから人も少なくって気持ちいいわよ」

「でも、潮さんお盆に海って」

「ターちゃんは考えすぎよ。多くは確率の問題なの。お盆休みに海や川へ出かける人が多ければ事故も必然と多くなる。それだけの事よ。まぁ全部がそうだとは言えないけれどね。それに沖縄なんかは今も旧盆でしょ。気にし過ぎるのが一番いけない事なの判った?」

「はい、了解です」

そんな事を言っている間にも宿の駐車場に着いた。

まだ昼までには時間があり部屋の準備がまだだという事で着替えだけさせてもらってビーチで遊ぶ事にする。

宿の目の前がビーチになっていた。

それに潮さんの言った通り本当に人が少なかった。

お盆休みの書入れ時に……

もしかして潮さんがこの辺り一帯を貸し切ってなんて考えたが気にし過ぎるのが一番いけないのだろう。

ある意味、潮さんを敵に回すのが一番怖い事なのかもしれない。

しかし人使いの荒い事この上ないは気の所為ではないだろう。


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