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出会い-1

これが全ての始まり。

ここは石垣島の名蔵湾。

新月の大潮の日。

潮の引き始めに海に入り電灯で照らしながらガザミを獲りに来ていた。

もう、ガザミ獲りのシーズンも終わりでだいぶ暖かくなってきている。

どうしてもと頼まれて来たものの、まったく獲れなかった。                                         

満点の星空。

波の音と風の音しかしない世界。

波間には夜光虫が星空を映した様に。水面に輝いている。               

そして、時を忘れたように宇宙を仰いだ時……

突然、激しい光に何もかもが包まれた。

その光はとても優しく懐かしい感じがする。

その色は例えるならアクアマリン色だった。


朝、いつもの様にベッドの上で目覚めると目の前に見知らぬ女の子が眠っていた。

「ん?」

「はぁ?」

「誰?」

「なんなんだ? いったい。わけわからん……って」

まだ、覚醒していない頭をフルで回転させる。

昨夜、知り合いに頼まれたガザミ(マングローブクラブ)を獲りに名底湾に……

そこで、光に……包まれて……

その後の事は良く覚えていなかった。                        

「あがぁ!」

いきなり殴られ思わず声を上げてしまう。

なんなんだ? いきなり無言でいきなり殴るって意味が分からない。

現状からすればしかたないのかもしれないけれど。

だが、俺には覚えがない事は胸を張って言えると思う。


「ここは、何処?」

透き通るような声だった。

俺の横で眠っていた女の子は薄いストールの様なものを纏っているだけで、黒と言うか濃紺と言った方が近いだろうか。

絹の様な長いストレートの腰まである髪の毛で。

宝石の様なとても澄んだ瞳をしている見たことも無いくらい綺麗な小柄な女の子だった。

「ここは、俺の……」

「違う、そうじゃない」

答える間もなくまた殴られた。

違うと言う事は地名を聞いているのかもしれない。

「ここは石垣島だ。東京から2000キロ南西の島だけど」

ものすごい形相で睨まれているが俺は何もしてない。

すごく綺麗な人の怒った顔はすさまじく怖かった。

「って、あんたこそ誰なんだ?」

「私は、かい水無月海みなづきかい


時計を見て息をのんだ。

このままでは確実にバイトに遅れてしまうがこのままじゃいくらなんでもまずいだろう。

神様、本当にごめんなさい。

この時ほど日頃の行いを後悔した事が無かった。

「痛い……なぁ」

まったく朝から訳わからずフルボッコ状態で我慢にも限度があるが女の子に手を上げるようには育てられていない。

「人の名を訪ねて名乗らないとは非礼だな」

「悪い、俺は隆羅たから如月隆羅きさらぎたからだ」


氷の刃の様な視線を向けられ部屋の温度が急降下していく。

俺がナンパして部屋に連れ込んだわけでもなく、こちらサイドから見れば不法侵入されている訳で穏便にお引き取り願うのは無理なのだろうか。

それに彼女が何故不機嫌なのか理解できない。

その時、枕元に置いてあった携帯が鳴り手を伸ばすと彼女が徐に携帯を取り切ってしまった。

これじゃどちらが非礼なのかわからない。

バイト先の店長からの電話だったんじゃ?

このままでは彼女か店長に確実に〆られそうだ。

どうしようと言い訳を考えていると可愛いらしい音がして彼女が更に鋭い視線で俺を睨み付けている。

そんな怖い顔しなくても……腹が減っているから不機嫌なのだろうか。

手負いの動物と空腹の女の子には勝てる気がしない。

「しょうがねえな。ちょっと待っていてくれ、何か食べるものを買ってくるから」

そう告げて近くのコンビに向かう。

ペットボトル入りの紅茶やパンを買ってきて彼女に渡すと俺の事を睨んで食べ始めた。

そんな怖い顔をして食べなくても毒なんて入っていないし2人分買ってきたはずなのだが、そんな事を言える雰囲気じゃない。

食べ終わると何故か寝息が聞こえて来た。

警戒心丸出しだったのに寝れるってどんな神経をしているのだろう。

もし起こそうものならボコボコにされるのが目に浮かび本当に泣きたくなってきた。


これから、どうすれば…… まず先にバイト先の店長に休む事を告げた。

「すいません、急に」

凹み様のないくらい嫌味言われ背中に悪寒が走り視線を感じる。

お目覚めになられたのかしら?

振り向き恐る恐るどうして此処に居るのか聞いてみる。

「あの、大変申し上げにくいんですが、何故、君が俺のベッドに?」

「我は水の精。この世と妖かしの世をつなぐ門の番人」

「はぁ?」

理解に苦しむ言葉が紡ぎ出され少し危ない人なんじゃないかと思ってしまう。

この21世紀に『水の精』『妖かし』って『門の番人』は何となく現代にもそんな職業があるはずで。

それでもあり得ない、アニメや漫画じゃあるまいしそんな話を信じろと言う方が無理だ。

それとも電○文□か?

「昨夜、大切な鍵を落とした、鍵の波動を追って来たら此処に」

ここは3階で玄関には鍵かけてあったはずだし。いったいどうやって部屋に侵入したんだ?

彼女の言う事をこの際無理矢理丸呑みして『水の精』だとしよう。

俺には人間にしか見えないけれど水の精ってなんなんだ?


ライン川のローレライとかセイレーンとか半魚人&人魚。

魚って沖縄で言えばジュゴンとか。

自分で言って笑ってしまい、また殴られた。俺が何か悪い事でもしましたか?

無理、絶対に無理お願いだから出て行ってくれないと心の中で叫んだ。

「隆羅とか言ったな、この島を案内しろ」

俺の心の叫びは届かず惑っていると彼女がとんでもない言葉を発した。

「隆羅、一回死んでみるか?」

勘弁してください極道じゃあるまいしってもしかして極道なの? 問答無用、情け容赦なく殴られたし。

それでも急用ができたと嘘までついてバイトを休んでしまったので時間はある訳で。

「しょうがねえな、とりあえず、これでも着てくれ」

俺のシャツと麻のパンツを渡すとあからさまに嫌そうな顔した。

「ちゃんと洗ってあるし、その格好じゃ外に出られないだろ」

彼女の着替えを買いに行くのが先決かも知れない。


俺の朝のバイト先でもあるこの島一番の大型店舗に買い物に向かう。

石垣島は八重山諸島の10ある有人島の1つでその中でも2番目に大きく、八重山諸島の中心を担い県庁の支庁などがあり一番大きな町になっている。

「行くぞ。俺のポンコツ車に乗ってくれ」

「このスクラップ動くのか?」

「悪かったなスクラップで」

店に入り速攻で衣料品のある2階へとエスカレーターに乗ろうとした時に捕まってしまった。

「如月くん?」

「店長、お早う御座います」

「おやおや、バイトさぼってデートですか、いい根性していますね」

いや、デートなんてもんじゃなくてこれは拉致に近いモノだと……

もちろん拉致られたのは俺の方で。

言い訳を考えていると何故だか彼女が店長に深々と頭を下げた。

「はじめまして、私、水無月 海と申します。如月君とは親が決めた許婚で突然押し掛けてしまい、皆様にご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした」

「はぁ? 許嫁? 店長、あの店長」

店長の顔を見ると一瞬惚けた顔が見る間に怖い顔になった。

「如月、貴様! このヘタレの如月にこんな綺麗な女の子が許婚だぁ? 許さん、後から尋問と言う名の拷問だからな」

なんですか許婚って、誰がですか?

店長に蹴りを一発くらい泣きながら2階へ上がる。


自分に合う洋服を選んで来るように彼女に伝え。

すでに疲労困憊気味の俺はレジの近くのベンチに体を投げ出して休んでいた。

「そう言えば、所持金あんまり持ってないけど」

などと考えているとレジの辺りがなにやら騒がしい。

見ると店員と海が何かを言い合っていた。何を揉めているんだ?

店員さんはなんだか駄目だししているけど彼女が引かずに食い下がっている。

これ以上被害者を出せば島に居辛くなる立ち上がりレジに近づき財布からカードを出す。

「これでお願いします。ドンだけ買ったんだよ」

「後から、ちゃんと返す」

ため息をつくが後の祭りでカウンターの上には山の様に洋服が積まれていた。

そんな哀れな人を見るような眼差しやめてほしい、確かに貧乏だけどカードくらい持っているから。

ネットするのに必要だしネットじゃなければこの島では手に入らない物が殆どだ。

それに俺はネットがなければ生きていけないプチ秋葉系だし。

でも、彼女が手にしていた黒いカードって何だったんだろう?

まさかそんな訳ないか。

店員に事情を話して海の着替えを済ませ車を東海岸沿いの道路を北へ走らせる。 



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