眠れるモノリス
そこは墓場。黒が光を吸い込み、深くに沈める様に、星々の囁き、月の子守唄は日の沈まぬ夜に飲み込まれてゆく。ただ墓標が黙して応えるのみ。ただ穏やかな荒野が広がるのみ。
男はいつも同じ夢を見ていた。ある決まった周期で、その夢の世界へと足を踏み込んでいた。墓標の如きモノリスがいくつも建ち並ぶ荒野。ふと、足下に目をやると、いつの間にか小さな水溜まりが出来ている。夢を見る毎に、水溜まりは広がってゆき、辺り一面を水が覆うように成っていった。いつしか、水溜まりは深さを増し、湖と成り、徐々に男を飲み込んでいった。
男はその事に関して、別段、何とも思わなかった。既に何も感じなく成っていたのだ。あの黄色い石のはめ込まれたブローチ、それを拾ってからと云うもの、男は様々な事に関心が無くなってゆき、その心は少しずつ空っぽに成っていった。ある日、遂に男の心その物が消え失せてしまった。
そうして、その日の夜の夢、男は底知れぬ程に深い、深い、水の底へと沈んでいった。
そのモノリスは夢を見ていた。まだ己が一人の人間の男で在った頃の夢だ。モノリスにとって、それは「悪夢」であるようだ。
今、モノリスの最大の喜びは、己が蒼白の仮面を着けた主の為に在ることである。
モノリスたちが夢を見ていると、あの湖が広がり出した。モノリスたちは、この先もその数を増やしてゆくだろう。
そうして、仮面の王がそのおぞましい触手でもって、モノリスたちを撫で回すのだ。