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幼馴染がこの世界の管理者だと発覚したので、権限で期末テストを消してもらおうとしたら、世界ごと消えかけた件

掲載日:2026/11/04

「私、この世界の管理者なんだ」

真希が何の前触れもなくそんなことを言い出したのは、放課後の教室で二人きりになったときだった。窓の外では夕日が校舎をオレンジに染めていて、掃除の時間も終わったあとの静けさが、妙に彼女の言葉を重く響かせた。

「……は?」

あまりにも突拍子もない宣言に、俺の口から出たのは間抜けな相槌だけだった。

「だから、世界の管理者。この宇宙の設定とか、物理法則とか、そういうのを全部管理してるの。まあ簡単に言うと、この世界の神様みたいなものかな」

真希は黒板にもたれかかりながら、さらりと言ってのけた。小さい頃から一緒に育った幼馴染だ。小学校も中学校も高校も同じ。隣の席になったことも何度もある。そんな彼女の顔を、俺はまじまじと見つめた。

ショートカットにくりっとした大きな目。ちょっと垂れ気味の眉が、いつも気弱そうな印象を与える。実際真希は大人しい方で、クラスでも目立つタイプじゃない。そんな彼女が世界の管理者?神様?

三秒ほど沈黙したあと、俺は自然と笑っていた。

「あっははは! お前、何言ってんだよ。もしかしてラノベの読みすぎ? それとも期末テスト前で現実逃避?」

「笑うと思った」

真希はむっとしたように唇を尖らせたが、すぐにため息をついて窓の外を見た。

「でも本当なんだってば。私がこの世界の管理者で、この世界の命運は全部私の手に委ねられてる。そんなこと言っても信じてもらえないのは分かってるけど」

「そりゃあな。急に幼馴染が神様だって言い出したら、誰だってまずは冗談だと思うだろ」

「じゃあ証明しようか?」

真希がこちらに向き直る。その目は妙に真剣だった。

「証明って、どうやって?」

「例えば……そうだなあ。あそこに置いてある黒板消し、浮かせてみようか?」

彼女が指さしたのは教壇の上の黒板消し。埃だらけのありふれた物体だ。

「マジで?」

「マジ」

真希が黒板消しに向かって手をかざす。何の変哲もないその仕草。次の瞬間――

黒板消しが、ふわりと浮き上がった。

「……ッ!?」

俺は目を疑った。黒板消しはゆっくりと空中に浮かび、そのままくるりと一回転して、元の場所に戻った。まるで重力なんて最初からなかったみたいに。

「どう?」

真希がいたずらっぽく笑う。その笑顔はいつもの彼女と変わらないのに、今は異様に神々しく見えた。

「待て待て待て。どうやってるんだそれ? まさか糸で吊るしてるとか?」

「黒板消し見てくる?」真希が呆れたように肩をすくめる。「でもそんなショボい手品じゃないよ。これが本当の権能ってやつ」

俺は立ち上がって教壇に駆け寄り、黒板消しを手に取った。糸も何もない。普通の黒板消しだ。でもさっき確かに浮いていた。

「……夢?」

「現実だよ。あんたの大好きな現実」

真希は相変わらず呆れ顔だ。俺は黒板消しを置いて、もう一度彼女を見た。ショートカットの幼馴染。控えめで、たまに料理を作って持ってきてくれる、普通の女の子。でも今、俺の前で超常現象をやってのけた。

「……本当なのか?」

「本当だってば」

「つまりお前が神様で、この世界を管理してる?」

「そういうこと」

俺は頭を抱えた。あまりにも情報が大きすぎて、処理が追いつかない。

「なんで今まで黙ってたんだよ?」

「言ったら引かれると思ったから。実際今、ちょっと引いてるでしょ?」

「引くって言うか……驚きすぎて思考が追いつかない」

「でしょー。だから言わなかったんだよね」

真希はまた黒板にもたれかかって、夕日を見た。

「でもなんで急にカミングアウトしたんだ?」

「んー……なんとなく。ずっと隠してるのも疲れたし、あんたになら話しても大丈夫かなって思ったから」

「そうか……」

何と言っていいか分からず、俺も隣に立って窓の外を見る。校庭では野球部がまだ練習している。どこにでもある普通の放課後だ。

「でもさ、世界の管理者って何してるんだ? 毎日何かすごいことしてるのか?」

「全然。基本的に世界は自動運転だから、たまにバグ修正するくらい。あとは願い事を叶えたり?」

「願い事?」

「そう。誰かが『こうなったらいいな』って強く思うと、それが世界に反映されるのを調整したり。あまりにも大きな願いだと世界が歪んじゃうから、ちょっとずつ流したり」

「へえ……」

何だかよく分からないけど、すごいことには違いない。俺はふと思いついて、冗談半分で言った。

「じゃあさ、権限で期末テストを消してくんねえ?」

ほんの軽いノリだった。期末テストが一週間後に迫っていて、勉強が全然進んでいなかったから、つい口に出ただけだ。真希が本物の管理者だって信じたわけじゃない。さっきの黒板消しも、何か仕掛けがあるんだろうとまだ半信半疑だった。

だから――その言葉を発した瞬間、世界が歪むなんて想像もしなかった。

「……消す?」

真希がつぶやく。その声はいつもと違って、どこか遠くから響いてくるみたいだった。

「え、おい、真希?」

彼女の体が、ぼんやりと輪郭を失い始める。いや、彼女だけじゃない。教室が、窓の外の景色が、夕日が、すべてが――

「ちょっと待て、何が起きて――」

その言葉が終わらないうちに、視界の半分が真っ白になった。白というより、何もない。色も形もない虚無。教室の左半分が、まるで最初から存在しなかったかのように消え去っていた。

「な……っ!?」

机が、椅子が、黒板の左半分が消えている。消えた部分は完全な空白で、その向こうには何も見えない。いや、向こう側すらない。空間そのものが断ち切られていた。

「真希! これ、お前の仕業か!?」

「ち、違う!」

真希も青ざめている。さっきまで神様ヅラしてたのに、今はただの慌てふためく少女だ。

「違うって、じゃあ何で教室の半分が消えたんだよ!?」

「あ……もしかして」

真希が何かに気づいたように口を押さえた。

「もしかして、何?」

「あんたがさっき『期末テストを消して』って言ったでしょ」

「言ったけど、それは冗談で――」

「私の権限、『誰かの願い』に反応するの。特に私の近くにいる人の強い願いに。でもさっきのは冗談でも、私があんたの言葉を『願い』として受け取っちゃったみたいで……」

「ちょっと待て。つまり俺の言葉で、世界が反応したのか?」

「うん……そして今、『期末テストを消す』って命令が実行されかけてる。でも期末テストって概念は、この世界の教育システム全体に関わるから、その一部分を消そうとすると……」

「すると?」

「世界の整合性を保つために、関連する部分も自動的に削除される。つまり、学校が、教育が、そしてそれに関わる人々の記憶や存在が――」

真希の声が震える。その時、教室の外から悲鳴が聞こえた。

「うわあああ!」

「何だこれ!」

「消えてる! 人が消えてる!」

俺たちは窓から校庭を見た。そこでは練習中だった野球部員の半分が、霧のように消えかけていた。いや、消えかけてるんじゃない。確かに、彼らの体が輪郭を失って、透明になっていく。

「まずい! このままじゃ学校全体が、いや日本中が――」

真希が自分の両手を見つめる。その手も、うっすらと透け始めていた。

「真希! お前も!」

「私も『教育を受けた人間』だから……この世界の教育システムの一部として、消去対象になってる」

「そんな馬鹿な! だったら何とかしろよ、お前が管理者なんだろ!?」

「で、でも、こんなこと初めてで……どうすればいいのか……」

真希が今にも泣き出しそうな顔で俺を見る。その目は、小さい頃に迷子になったときと同じだった。いつもは控えめだけどしっかり者の真希が、今は完全にパニックに陥っている。

くそっ、こうなったらやるしかない。

「落ち着け! まずは状況を把握しよう。お前の権限で、この現象を止めることはできないのか?」

「権限って言っても、具体的にどう操作すればいいか分かんない! 普段は自動で動いてるから、私が直接いじることなんてなくて……」

「じゃあどうやって今まで管理者やってたんだよ!」

「生まれつきそういう役割だっただけで、マニュアルなんてないんだってば!」

マニュアル。その言葉に、俺の頭の中で何かが引っかかった。

「待てよ、マニュアル……そういうの、どこかにないのか?」

「え?」

「だってお前、世界の管理者だろ? それなら何かしら、この世界の仕様書みたいなものがあるんじゃないか? 例えば、管理者用の手引きとか」

真希がぽかんと口を開けた。そして、はっとしたように目を見開く。

「そういえば……私が小さい頃、よく読んでた絵本があるんだ。その中に、変な記号がたくさん書いてあるページがあって……もしかして、あれが」

「その絵本、どこにある!?」

「家。私の部屋の本棚の――」

「よし、行くぞ!」

俺は真希の手を掴んで教室を飛び出した。廊下も、あちこちで消滅が始まっている。壁が、床が、天井が、ところどころ虚無に飲み込まれていた。人の悲鳴が遠くから聞こえる。

「早く! このままじゃ学校全体が消える!」

階段を駆け下りる。下駄箱で靴に履き替える余裕もなく、そのまま外に飛び出した。校庭はもはや半分が空白になっていて、そこにあったはずの校舎の一部が完全に消え失せている。

「真希、お前の家までどのくらいだ!?」

「走って十分くらい!」

「よし、全力で行くぞ!」

二人で校門を抜け、街へと走り出す。道行く人々も、車も、家も、すべてがゆっくりと消えつつあった。まるで世界が砂でできた城のように、風に溶けていく。その光景はあまりにも非現実的で、夢でも見ているかのようだった。でも、握った真希の手のぬくもりだけが、確かに現実だと告げている。

「はあ、はあ……真希、まだか?」

「もうすぐ……次の角を曲がったら……」

真希の家は一戸建ての古い日本家屋だ。小さい頃、何度も遊びに行ったことがある。門をくぐり、玄関の戸を開けると、中はまだ無事だった。

「部屋は二階だ!」

階段を上がり、真希の部屋に飛び込む。相変わらず可愛らしい家具と、ところどころに置かれたぬいぐるみ。本棚の前に立った真希は、すぐに一冊の絵本を取り出した。

「これだ!」

表紙は色あせていて、題名は読めない。パラパラとめくると、確かに途中のページに、意味不明の記号がびっしりと書かれていた。まるでプログラムのコードのような、あるいは古代文字のような。

「読めるか?」

「うーん……なんとなく、子供の頃に読んだ感覚を思い出してきた」

真希は目を閉じて、絵本のページに手をかざす。すると、記号が淡く光り始めた。

「そうか……これが管理者の言語か。私が小さい頃は無意識に理解できてたけど、成長するにつれて忘れてたんだ」

「で、何て書いてある?」

真希はしばらく沈黙して、それからゆっくりと口を開いた。

「……世界の改変を行う際は、対象を明確に指定すること。曖昧な命令はシステム全体に影響を及ぼす可能性があります」

「それ、まさに今の状況じゃねえか!」

「うん。『期末テストを消して』って命令が、『期末テスト』という概念の範囲が曖昧だったから、関連するすべてを消し始めてる。これを止めるには、命令を撤回するか、より具体的な命令に上書きしないといけない」

「じゃあ早く撤回してくれ!」

「でも撤回するには、命令を発した人の明確な意志が必要なんだって。つまり――」

真希が俺を見る。

「あんたが、『テストを消すのをやめろ』って強く願わないといけない」

「俺が?」

「そう。さっきの命令はあんたの言葉がきっかけで起きた。だから止めるのも、あんたの強い意志が必要なの」

俺は拳を握った。今も世界は消え続けている。外からは、もはや人の声すら聞こえなくなっていた。もしかしたら、もうほとんどの人が消えてしまったのかもしれない。

「分かった。やる」

「でも、ただ願うだけじゃダメなんだ。心の底から、本当にそう思わないと。さっきは冗談でも、あんたの心のどこかで『テストがなくなればいいのに』って願ってたから、それが実現した。だから今度は、本気で『テストを残せ』って思わないと」

「テストを残せ……テストを残したいと本気で思う?」

俺は考えた。正直、今でも心のどこかでは、テストがない方がいいと思っている。勉強だるいし、赤点取ったら補習だし。でも――

「……それで世界が消えるなら、テストがあった方がいいに決まってるだろ」

「あんた……」

「だって、テストがなくなった世界ってもう誰もいないんだぞ。それじゃ意味ないだろ。それに――」

俺は真希の手を握りしめた。

「お前も消えかけてるんだ。お前がいなくなる方が、テストなんかより百倍嫌だ」

真希の目が大きく見開かれる。その頬がほんのり赤くなった。

「そ、そんなこと言われても……」

「照れてる場合か! 早くやるぞ!」

「う、うん!」

俺は目を閉じて、集中した。頭の中に、期末テストのイメージを思い浮かべる。嫌な思い出しかない。徹夜で詰め込んだ暗記物。解けなくて焦った数学。でも、それでいい。そのテストがあるから、日常がある。放課後に真希とだらだら過ごす時間がある。

そうだ、俺が望むのは――

「……テストのある、普通の世界だ」

その瞬間、世界が震えた。

目を開けると、部屋の中がぼんやりと光っている。真希も驚いた顔で周りを見回していた。

「どうなった?」

「分かんない……でも、何か変わった気がする」

窓の外を見る。空には再び夕日が広がっていて、街並みは元通りになっていた。人の声も聞こえる。遠くで子供が笑っている。

「戻った……のか?」

「みたいだね」

真希がほっと息をつく。でも、まだ何か引っかかる。俺はもう一度外を見た。確かに街は元通りだ。でも――

「なあ、真希。この絵本の続き、読めるか?」

「え? うん、ちょっと待って……」

真希は再びページをめくり、その後の記号を読もうとした。しかし、すぐに顔を曇らせた。

「……読めない」

「読めない?」

「さっきまでなんとなく分かった気がしたのに、今はただの落書きにしか見えない。不思議だなあ」

それはそうだろう。だって――

「なあ真希。お前、本当に世界の管理者なのか?」

「え?」

「さっきの現象、本当にお前が起こしたのか?」

真希がきょとんとした顔で俺を見る。その目は無垢そのものだ。

「何言ってるの? 私が世界の管理者なんてわけないでしょ。そんなこと言った覚えもないし」

「……そうか」

俺は自分のこめかみを押さえた。やっぱりそういうことか。

さっきの出来事は、すべて夢か幻だったのか? いや、あまりにもリアルだった。それに、今も真希の手にはあの絵本がある。表紙は色あせて、確かに古びている。

「その絵本、どこで手に入れたんだ?」

「これ? 小さい頃に、誰かに貰ったんだよね。でも誰からかは覚えてないなあ。もうずっと昔のことだから」

真希は絵本を大事そうに抱えた。

「何だか今日、急にこの絵本が見たくなって。引き出しから引っ張り出したんだ」

「それで、何か変わったことはなかったか?」

「変わったこと? うーん……そういえば、ちょっと昼寝してた気がする。起きたら、なんかあんたが急に家に来てたけど。どうしたの、急に?」

「いや……ちょっとした確認だ」

俺は立ち上がって、もう一度窓の外を見た。日常が戻ってきている。でも、あの消滅は本当に何だったんだ?

もしかしたら、あれは真希が見せた夢だったのかもしれない。あるいは、俺の願望が引き起こした一時的な幻覚か。

でも、一つだけ確かなことがある。

「なあ真希。期末テスト、もうすぐだな」

「そうだね。勉強、進んでる?」

「全然。だからさ、ちょっと教えてくれないか? お前、数学得意だろ」

真希がぱっと顔を輝かせる。

「いいよ! じゃあ、今からやる?」

「ああ、頼む」

こうして、俺たちは真希の部屋で教科書を広げた。窓の外では、当たり前のように夕日が沈んでいく。さっきまで世界が消えかけてたなんて、誰も信じないだろう。

でも、それでいい。これが日常だ。テストがあって、放課後があって、幼馴染がいる。ただそれだけの、特別じゃない世界。

真希が問題を解きながら、ふとつぶやいた。

「ねえ、もし私が本当に世界を変えられる力を持ってたら、あんたは何を願う?」

俺は顔を上げて、真希を見た。彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべている。さっきまであんなに青ざめてたのに、もうケロリとしている。

「そうだな……」

考えてみる。世界を変えられる力。あらゆる願いを叶えられる力。

「やっぱり、期末テストをなくしてほしいかな」

「ええー、またそれ?」

真希が呆れたように笑う。その笑顔を見て、俺もつられて笑った。

「冗談だよ。俺の願いは――」

言いかけて、やめた。

「なに? 気になるじゃん」

「いや、別に大したことじゃない」

本当は、さっき心の中で思ったことだ。テストのある普通の世界。そして――

「まあいいや。それより次の問題、教えてくれ」

「はいはい」

真希はペンを取って、ノートに数式を書き始めた。その横顔を見ながら、俺は思う。

多分、あの現象は本当に起きたんだ。でも、それはこの世界にとっては「なかったこと」になった。真希が管理者である記憶も、世界が消えかけた記憶も、おそらく誰の記憶にも残らない。

でも、俺だけは覚えている。彼女が世界を救うために必死になったこと。そして、彼女の手が温かかったこと。

それが何よりの証拠だ。

「……真希」

「んー?」

「ありがとな」

「え? 何が?」

「いや、なんでもない」

真希が首をかしげる。その仕草も、小さい頃から変わらない。

世界が消えかけた一日。その記憶は、俺だけの秘密にしておこう。

もちろん、次に冗談で「テストを消して」なんて言わないように気をつけながら。

---

あとがき:

この物語をお読みいただき、ありがとうございました。

他にも牛丼屋関連の話を連載していますので、もしこの話がお気に召しましたら、ぜひ下記の作品もご覧いただければ幸いです。

▼連載中の作品はこちら▼

世界を救った元英雄、記憶を失って異世界で牛丼屋になったら、教え子だった現勇者たちが泣きついてきたんだが?

引き続き、読者の皆様の心に残る物語をお届けできるよう努めてまいります。これからも応援よろしくお願いいたします。

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