表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ*ギブ~人間ギライの紙さま。~  作者: 稲穂 実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/22

★第八話 会長と副会長

ちょっと行き詰まって(はえーよ)、編み物に突してたら、更新が間が開いてしまいました。

また頑張ります!

 ホテルのような廊下。

 相撲取りでも平気で通り抜けられそうな幅の広いドアが、充分な間隔を開けて静々と並んでいる。防音性の高さ故なのか、誰も住んでいないかのように物音ひとつしない。

「知り合いの方が住んでるんですか? オートロックも通過してたし」

 慣れ親しんだ世界と異質すぎる空気の中を、おっかなびっくり歩く僕とは対照的に、メムさんは慣れた様子で何処かを目指している。自分の声が辺りに響き渡るように感じて、つい小声になる。

「ああ、オートロックとか俺、関係ないから」

「謎かけですか?」

「ここにはねえ、永遠の友、ビッグ・フォーエバー・フレンズが住んでいるんだよ!」

「たぶんその訳間違ってると思います。ていうか、ズ? 複数形?」

 メムさんは急に立ち止まって、僕をジッと見る。

「な、なんですか」

 見下ろしやがって、このやろう。

「なんでサメフには聞こえないんだろ?」

「聞こえてますよ、失敬な」

「そうじゃなくて、【神さまの声】だよ」

「神さまの……」

 ちょうど、ここへ来る前に考えていたことだ(他でもないメムさんに邪魔されたんだけど)。

 飛び降りた瞬間に聞こえた声、あれはきっと【神さまの声】だった。でもあれ以来、確かに何も聞いていない。

「僕やっぱり、間違えて選ばれちゃったのかな……」

 自嘲が漏れる。神さまでも、間違うことってあるのかな。その場合、僕はこの後どうなるんだろう? ある日突然、体から魂が抜けちゃって、そのままあの世に行くのだろうか?

 もしそうなら、それも悪くない。もともとそれを望んでいたんだし。

「サメフはほんと根暗だな~」

 メムさんはあっさり流して、また歩き始める。

「もうどうとでも云ってください」

「よし、ここだ!」

 華麗にスルーしてメムさんが指さしたのは、6010号室。角部屋だ。

 ドアのすぐ横には、当然インターフォンが付いている。それを押すのだろうと思っていると、

「ちょっ、え、え!?」

 メムさんはいきなりドアノブに手を掛けた。しかもドアは、カチャリと音を立てて開いた。

「ちょっとちょっと、勝手に入っていいんですか!?」

「おーい、カフターン。いるー? おれおれー」

「そんな詐欺みたいに」

「はーい、こちらリビングー」

 その時、女性の声が聞こえた。玄関から伸びる廊下の向こう側だ。突き当たりにドアがあり、中からオレンジ色の光が漏れ出ている。

「よーし、突入~!」

 メムさんが無駄にクラウチングスタートの姿勢を取ったせいで、尻アタックをかまされたが、僕は文句も云わずに健気に馬鹿の後を追った。このテンションの差をどうにかしてほしい。

 ドアが開くと、そこには想像していたのとは違う風景が広がっていた。

 視界一面に、本、本、本。

 恐らく、本来はとても広い部屋なのだろうが、壁一面にぎっちりと本の詰まった棚が並んでいるので、圧迫感が凄い。体感では、本来の広さの半分ほどにしか見えない。

 そして異常の最たるものは、使命を果たす機会を奪われた窓だ。壁を殆どくり抜いてしまったかのような、大胆な、絶対に確実に夜景を楽しむための大きな窓が、容赦なく本棚によって塞がれている。これは窓の、そして高層マンションの存在意義を大いに損なう事態だ。何のためにわざわざ高層階に住んでいるのだ。景色を見ないなら、ただ災害時のリスクが高いだけじゃないか。

「よー、来たねー、カイチョー」

 そんな部屋のど真ん中に主として鎮座しているのは、【黒】と形容するに相応しい女性だった。回転椅子の上で肉付きの少ない脚を組んでいる彼女は、墨を頭から被ったかのように、全身が黒い。

 顔を縁取るまっすぐな髪もまっ黒、重そうなまつ毛もまっ黒、三白眼を縁取る幅広のラインもまっ黒、一部の隙間なく肌を覆う服も真っ黒。黒い。黒すぎる。さすがに顔だけは肌色なので、ごく普通のことなのに何故か安心してしまう。それくらい黒い。

「よー、来たよー、フクカイチョー」

 そうか、さっき意味不明すぎて聞き流した【カイチョー】は【会長】だったのか。会長と副会長ね。スッキリした。

 いや、会長と副会長って何の? やっぱり全然スッキリできない。

「あ、暗号確認しなきゃ」

 云うと、メムさんは酔拳の構えみたいに両手を変な具合に固定して、片膝を上げる。怖いのは、それに合わせて、黒い女性が同じ構えを取ったことだ。

「亀の頭はー?」

 メムさんの掛け声。

「スッポンポンー!」

 黒女性の応答。え? 怖い。

「よし、間違いなく、カフタンだね」

「間違いなく会長だ」

 すごく爽やかで満足気な、やりきった顔で云い合って、親指を立て合う。僕はそろそろお暇しようかな? 深夜だし。というか、部屋に入ってから暗号確認しても意味ないだろ。しかも普通、家主の方から確認するだろ。

「で、会長、そのか弱そうな美少年は?」

 黒い女性に見つめられて、僕は恥ずかしながらメムさんの後ろに隠れてしまった。こういう時、細長いメムさんは役立つ。

「ああ、この子はね、サメフ。とある夜に出会ったのさ」

「あらやだー、誘拐?」

「失敬な!」

 ベートさんにも不穏なこと云われてたけど、メムさんって変質者ポジションなのだろうか。この人と一緒にいて大丈夫だろうか。

「ふふふ、ウソウソ。サメフ君、だね。あたしは、」

「カフタンさん、ですか?」

 さっき何度か、メムさんがそう呼びかけるのを聞いた。

「あはは、違う違う」

 カフタンさんは何がおかしいのか、ケタケタ笑う。その笑顔が存外無邪気なものだったので、僕は少しホッとして、メムさんの後ろから半身だけ出す。

「ほら会長が変な呼び方するからさー、サメフ君が誤解してるじゃん」

「カフタンはなんか【タン】って感じじゃん」

「意味わかんなーい」

 ひと頻りケタった後、カフタンさんは再び僕を見遣った。やっぱり黒縁の眼の圧に怯んで半歩下がる。

「あたしはね、【カフ】だよ。それに会長が【たん】ってつけてるだけ。まあ、どっちでも良いけどね。呼びやすい方で呼んで」

 カフさんは気さくに云って、ウィンクまでしてくれた。ウィンクがあんなに綺麗に出来る人は初めて見た。いや、ウィンクを現実世界でする人を初めて見たのかもしれない。

「さあさあ、自己紹介はそんなもんにしておいて、早速本題に入ろうじゃないか!」

 メムさんは僕を引っ張り出して、グイグイ前へ押していく。

「今日の議題はなにー?」

 カフタンさん改めカフさんは、訊きながら、折り畳み椅子を二つ引き寄せて並べてくれた。冷房が寒いのか、薄い長袖を着ているカフさんの腕は、幼児のように細い。あまり食に興味がないのだろうか。

「今日ももちろん、【謎の失踪事件】について議論する!」

「好きだねー。ま、それくらいしか話題ないしね」

「あのう」

「む、なんだね新入りのサメフ君!」

 ズビシ! と近距離で指を突き付けられ、危うく目を突かれるところだった。メムさんの鬱陶しい指を払いながら、

「会長とか副会長とか議題とか失踪事件とか……。一体なんなんでしょうか?」

「む、いい質問だ。実に!」

 だから指がうぜえっての。

「なになに、会長。まさかなんの説明もせず、サメフ君を連れて来たの?」

「百聞は一見にしかずと云うからね」

「ごめんね、サメフ君。この人こういう人だから。脈絡という概念がない人だから」

「はい、ここ数日ですっかり理解しました」

「あらー、不憫ねー」

 カフさんは僕の両手を握って、眉尻を下げた。なんだ、この人マトモだぞ。少なくともメムさんよりは。人知れず胸がジーンと温まった。

 ピンポーン。

 僕の感慨を破る様に、インターホンの音が鳴った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ