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5 死にかけなのに死ぬほど痛かった


「あぁ、久しぶり…と言っても、同じ建物内にいただろう」


カツカツ、とヒールが共有スペースのフローリングに響く。

彼女の綺麗に切り揃えられたショートヘアーが揺れ、エーベルの前で立ち止まった。


「彼らから名前は聞いているだろうから、自己紹介は省かせてもらうぞ。先程ローザに連絡した通り、二人にはバディを組ませ、同じ家で暮らしてもらう」

「うん、聞いているよ。と言っても、お金まで出してもらってよかったのかい?」

「構わない。君を作戦に組み込んで異能を殺す案も作れることから、君への待遇はそれなりのものにしようと考えている」


彼女が持つアルトは、自然と耳に馴染み、響いていくような声だ。

エーベルは「それはよかった」と笑い、俺の方を向いて興味津々に尋ねた。


「ねぇねぇ、この建物ってそこそこ大きいよね?他の階層はどうなっているんだい?」

「……俺は案内しないぞ」

「おや、別にいいだろう。どうせこの組織の管理下に置くなら、建物の構造ぐらいは知っててもらわないと困る。ついでに地下にでも行って遊んで来い」

「お前なぁ…」


今日はなんだか人に振り回されてばかりのような気がする。

俺は面倒事はさっさと済ませてしまおうと、エーベルの腕を掴み、再びエレベーターに乗り込む。

上から下に下がればいいか、と、俺は7階のボタンを軽く押した。


「おや、8階は行かないのかい」

「俺らのボスの部屋だ、基本的に行かない。ってか、行きたくない」

「嫌いなの?」

「誰があんな奴好きになるか」


悪態をつきながら、7階に到着したと知らせるエレベーターから出る。

誰もいない空間に、ツンと鼻を刺す消毒液の匂い。


「ここが簡易医療室。お前が使う機会は来ないだろうけどな」

「そうだね。あれ、手術台もあるのかい」

「縫合くらいならここで出来るぞ」


エーベルは一瞬だけ悩む顔を見せてから、手術台に指先で触れながら俺に尋ねた。


「みんな医師免許を持っているんだね?すごいじゃないか」

「誰も持ってないぞ」

「嘘だろ絶対痛いじゃないか」

「死ぬほど痛い」

「経験者かい君………」


憐れむような瞳でこちらを見る彼を置いて、俺は再びエレベーターに戻る。

誰に縫われたのかと尋ねられ、夜凪だと答えると、エーベルは深く頷いて、彼女には一生縫合を頼まないと心に誓った様子だった。

俺も二度と彼女には縫われたくない。瀕死だった時に、本気で死を覚悟した。


「次は6階だね。6階には何があるんだ?」

「作戦会議室だが、特に大したものは置いていない。5階が仮眠室、その下がさっきまでいた共有スペースだ」


次に見せるべきは3階だろうか。

少し長い時間乗ったエレベーター。

扉が開いて、俺の目の前にはロッカールームが現れた。


「へぇ、ロッカールームか。一人一つある………って、聞いてるかい?」

「ちょっと待ってくれ」


俺は自身の所属番号をロッカーの取っ手辺りに付いている液晶に打ち込み、ロッカーを開く。

中には俺の私物の一部である、訓練用のゴム製ナイフが収まったナイフホルダーが一つ。

身に着けているナイフホルダーと、ロッカー内のナイフホルダーを付け掛け、俺はとあることに気付いた。


「んだこれ……」


ロッカー内の二段の内、上段に一枚のカードが置かれていて、それを手に取ると、それは組織への所属を示す証明書だった。学生で言うならば生徒手帳だろうか。

証明書には一枚のメモ帳が貼ってあり、それには一言。


『ロッカーの登録 よろしく』


夜凪の字だ。

俺のロッカーを勝手に開けるなだとか、面倒を俺に押し付けるな、だの。

言いたいことは色々あったが、つべこべ言っても無駄だということをこの数時間で嫌というほど学んだ俺は、エーベルを呼んで、証明書を彼に放り投げた。


「これは…?」

「生徒手帳みたいなものだ。ロッカーの開閉だとか、建物に入る時に使うから、ちゃんと所属番号は覚えておけよ」


誰も使っていない空きロッカーの液晶に「ヨウコソ」「証明書ニ記載サレタ番号ヲ提示シテクダサイ。」と表示されるテキストを連打で読み飛ばし、エーベルに「ほら、所属番号打ち込め」とロッカー前からどいてやる。


エーベルは慣れないながらも番号を打ち込み、どうにかエーベルがここに所属したという事が公式となった。


2階の資料室は、まだ信頼に値しないエーベルに見せないように言われているし、1階はここに来た際に見ているだろう。

それなら、最後は地下1階だろう。


「エーベル、そろそろ行くぞ」

「うん。って、まだ部屋があるのかい?」

「あぁ、地下に1階だけある」


俺がエレベーター内で「B1」と書かれたボタンを押すと、エレベーターは再び下降を始めた。

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