ラスト
後日談:プロジェクト・リメイク:第二の聖域
第四基地の通信室は、もはや戦地のそれとは思えないほどに作り変えられていた。
壁には最新の魔導モニターが並び、その中心には、白金色の障壁の中で睦み合うリアネとコウタが映し出されている。
「……よし、第四基地の数字は『安定期』に入ったな。もはや、ここは放っておいても自動で金を生む貯金箱だ」
通信兵のリーダーは、机の上に積み上がった札束を乱暴に掻き分け、一枚の書類を部下に投げ渡した。
そこには、リアネたちの幸せそうな中継映像とは対照的な、血の通わない「次なる商品」の候補が記されている。
「……次はこいつらだ。没落した名門家、アルベルト家の兄妹。兄は清廉潔白な若き騎士、妹は盲目の病弱ときている」
部下がその写真を覗き込み、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
「いいっすね……。この兄貴が、病気の妹を守るためにどれだけ汚れていくか。視聴者(神様)どもが泣いて喜びそうなネタだ」
兵士たちは、もはや「防衛」という言葉を忘れていた。
彼らの頭にあるのは、第四基地で確立された「絶望のマネタイズ」を、いかに効率よく量産するか。
第二、第三の「聖域」を作り出し、世界中の欲望からさらに金を絞り出すための、組織的なプロデューサーへの変貌だ。
場面は変わり、王都の門。
何も知らない没落兄妹が、ボロボロの馬車に揺られていた。
「……兄様、私たちはこれから、最前線へ行くのですね? そこで功績を挙げれば、また家は再興できるのでしょうか」
「ああ、約束する。……俺が、命に代えてもお前を、家を守ってみせる」
兄の力強い誓い。
だが、その馬車の底には、既に一つ目の「レンズ」が仕込まれていた。
その真っ直ぐな正義感が、いつ折れ、いつ妹への歪な執着へと変わるのか。
通信室のモニター越しに、兵士たちは品定めするようにその光景を眺めている。
リーダーが、d-tubeの新しいチャンネル開設ボタンに指を置いた。
タイトルは――『【新作】没落兄妹の「心中」最前線ライブ:COMING SOON』。
「……さあ、次の神話を始めようか。こいつらがいつ自覚するのか、今から楽しみだよ」
画面の向こうでは、リアネがコウタの腕の中で、自分たちが救われたのだと信じて眠っている。
その安らかな眠りさえも、次なる生贄を引き寄せるための「最高の宣伝(プロモーション動画)」に過ぎなかった。
世界は彼らを救わなかった。
そして今、世界は新たな二人を、喰らうために招き寄せている。
(完)
今作は、初めて感想をいただけた思い入れの深い作品となりました。
たった一つの言葉を何度も読み返し、それを心の支えにして、なんとか完結まで辿り着くことができました。本当にありがとうございます(なろうではなく、カクヨムの方なのですが)。
今作の結末をもって、二人は新たな犠牲者を生み出しながらも、二人だけの閉じた世界で生きていくことになります。これが私なりの「タイトル回収」です。
現代は消費社会であり、あらゆるコンテンツが次々と消費されていきます。しかし、皮肉にもその「消費」こそが、二人を外界から守る盾となりました。
ラストは胸糞が悪いと感じられるかもしれませんが、これは二人を守るために必要な儀式として執筆いたしました。もし気分を害された方がいらしたら、申し訳ありません。
また新しい「コウタ」の物語を紡いでいきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
暗黒の儀式、これにて。




