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第25話:盲目の神殿、あるいは永遠の舞台

 第四基地を包む空は、いつの間にか不自然なほど透き通った白金色に染まっていた。

それは太陽の光ではない。

二人の「情愛」に狂喜した全世界の視聴者たちが、その熱狂の対価として捧げた、恒久的な魔導障壁が放つ輝きだ。


「……見て、コウタ。空が、あんなに綺麗。まるで私たちが許されたみたい」


リアネはバルコニーから、偽りの天蓋を見上げて微笑んだ。

彼女の足元には、本国騎士団でも入手困難な白絹の絨毯が敷き詰められ、テーブルには、名もなき兵士たちが「ファンサービス」として闇ルートで調達した最高級の菓子が並んでいる。

彼女は、自分の吐息さえもがレンズ越しに換金されていることなど、微塵も疑っていない。


「ええ。……世界はもう、貴女を傷つけるのをやめたんです。これからは、僕たちを誰も邪魔しません」


コウタはリアネの腰を抱き寄せ、その首筋に深く顔を埋めた。

かつてはモンスターの咆哮が絶えなかった基地の周囲には、今や一匹の羽虫すら近づけない。

壁の向こう側では、無数の兵士たちがモニターを凝視し、二人の「睦み合い」を神聖な儀式のように全世界へ発信し続けている。

画面を埋め尽くす天文学的なスパチャのログ。

それこそが、この不落の要塞を維持する、唯一にして絶対のエネルギー源だった。


「……あんたがいてくれれば、もう、何もいらないわ」


リアネは、自分たちが巨大な劇場の中に閉じ込められていることも知らず、安らかな涙を流した。

かつて彼女を「偽聖女」と蔑んだ世界は、今や彼女がコウタに依存し、壊れていく姿を「至高のコンテンツ」として崇めている。

彼らは、世界に理解される必要などなかった。

ただ、世界に消費されることで、皮肉にも誰の手も届かない「聖域」を手に入れたのだ。


「一生、ここで二人きりでいましょう。……死ぬまで、僕だけを見て」



「ええ、……ええ。約束するわ、コウタ」


二人が重なり合うその瞬間、画面の向こう側では数百万の人間が「救い」を見出し、熱狂の渦の中でさらなる金を投じる。

その歪な「推し活」が、二人を包む障壁をさらに強固にし、地獄のど真ん中に、誰も壊せない楽園を完成させていく。

自由など、どこにもない。

純粋な愛など、最初から存在しない。

だが、その檻の中で微笑む二人は、間違いなく、世界で一番幸せな「見世物」だった。

第四基地は、いつしか地図から消え

 た。

だが世界のどこかで、今日も変わらず、二人は「幸せそうだ」と言われ続けている。

世界は彼らを救わなかった。

だが彼らは、世界に救われる必要がなかった。

(完)


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