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聖者の深淵、魔女の陥落

 「……幻滅、した?」

リアネの問いは、震えていた。

ベッドにコウタを縛り付け、その自由を奪い、己の魔力で彼を塗りつぶそうとする。

それは、かつて彼女が13話の廃屋で仕掛けた「隔離」の、より剥き出しで暴力的な再演だった。


「……ねえ、コウタ。知ってる? あんたに誓わせた『血の誓い』も……あの手のひらの傷も、全部嘘だったのよ。あんたを騙して、私しかいないと思わせるための工作だったの」


リアネは自嘲するように笑い、己の右手をコウタの眼前に突き出した。

魔術による幻惑を解き、滑らかで傷一つない白い肌を晒す。

彼女は、コウタの瞳が絶望に染まるのを、そして自分を軽蔑して去っていくのを、どこかで期待していた。

しかし、コウタの反応は、彼女の想像を絶するものだった。


「……知っていましたよ、リアネ様。あの日、あなたの手のひらの傷が、魔法で維持されていることも」


コウタは動じず、それどころか愛おしそうに瞳を細めた。


「……でも、嬉しかったんです。嘘でも本当でも、どうでもいい。あなたが僕を選んでくれた。僕を利用するためだとしても……。たぶん、いつかリアネ様が僕の方を振り向いてくれるって、信じてたから」


コウタの穏やかな声が、静まり返った部屋に響く。

リアネの指先が、戦慄で止まった。


「……な、……何を、言って……」



「幻滅なんて、するわけない。……むしろ、今の告白で分かりました。……いつか、僕しかいなくなるまで、ずっと待ってたんだから」


コウタは拘束されたまま、首筋に食い込む魔力の霧をあざ笑うかのように、自分に跨るリアネへと体を寄せた。

あの日、彼女が耳を塞ぎ、世界から自分を切り離した瞬間。

コウタはその「檻」の中に、自ら進んで鍵をかけたのだ。

彼女が自分以外のすべてを捨てて、自分という「怪物」と二人きりになるその日を、淡々と待ち望みながら。


「解放なんてさせません。……僕のほうが、貴女のこと好きなんだから」


コウタは自由な指先で、リアネの喉元をそっと、愛を確かめるように撫で上げた。

その瞳には狂信を遥かに凌駕する、底知れない執念が渦巻いている。


「嘘がバレたなら、これからは隠し事なしの、本物の地獄ですね。……僕を一生、飼い殺してください。……ねえ、リアネ様?」


リアネは、背筋を駆け上がる圧倒的な恐怖と、それ以上の陶酔に呼吸を忘れた。

自分を閉じ込める檻を作ったつもりが、自分の方が、この男が長年かけて作り上げた「歪な愛」という檻に閉じ込められていたのだ。

二人の境界線が、黒と金の混ざり合う光の中で、ドロドロに溶けて消えていった。



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