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20

:荒野の行進、腐食と黄金

 荒野の夜は、どす黒い霧に塗りつぶされていた。

その中心を歩くリアネの足元では、触れるものすべてが崩壊していく。

追撃する兵士たちや夜の魔獣さえも、その「異形」に恐怖して逃げ出していた。

だが、その静寂を、地平線の彼方から響く黄金の咆哮が引き裂いた。

黄金の流星がリアネの数メートル手前に激突し、爆発的な衝撃が荒野を揺らす。

土煙が晴れた中心に立っていたのは、軍服を赤黒く染め、今にも崩れ落ちそうなほどボロボロになったコウタだった。


「……間に合った。……よかった……」


コウタの声は枯れ果て、その瞳にはリアネだけが映っている。

リアネは、そのあまりに純粋な光に射すくめられ、悲鳴のような声を上げた。


「 コウタ…」


頭では拒絶していた。

だが、彼を視界に入れた瞬間、彼女の「魔力」が意志を裏切って跳ねた。

彼女から溢れ出す黒い霧が、意思を持つ触手のように一斉にコウタへと襲いかかった。


「あ、……え……?」


驚くコウタの全身を、黒い霧が容赦なく絡め取る。

それは「蝕む」ためではない。彼を自分のもとへ引き寄せ、二度と離さないための強欲な拘束だった。

霧はコウタを宙に浮かせ、抗う間もなくリアネの足元へと無理やり引きずり戻す。


「なにこれ!」


リアネの叫びを無視し、黒い霧はコウタの傷口、耳、鼻、あらゆる隙間からその内側へと侵入した。

折れていた骨が、断裂していた筋肉が、彼女の濃厚な魔力によって強制的に繋ぎ合わされていく。

それは癒やしというより、彼女の魔力によって肉体を「作り替え」られているかのような、暴力的なまでの回復だった。


「あぐっ、……あ、あはは……」


コウタは黒い霧に抱かれ、リアネの目の前で地面に膝をついた。




 黄金の光を撒き散らしながら墜落したコウタを、リアネから溢れ出した黒い霧が一斉に飲み込んだ。

それは獲物を逃さない触手のように彼の四肢を絡め取ると、抗う術のないコウタの肉体を、リアネの足元へと強引に引きずり戻した。


「あ、……ぁ、ぐ……っ!!」


膝をついたコウタを、リアネは逃がさないように強く抱きしめる。

彼女の腕から溢れる濃厚な魔力が、コウタの血管や神経の隅々にまで侵入し、傷ついた箇所を猛烈な勢いで修復していく。

折れていた右腕が、黒い霧に包まれながら生々しい音を立てて繋がっていく。


「……はぁ、……っ、あ……」


自分の魔力がコウタの内側へと溶け込み、彼の肉を、骨を、内側から癒やしていく確かな手応え。

本来ならすべてを壊すはずの自分の「毒」が、彼という器の中にだけは、しなやかに、そして深く受け入れられていく。

その支配と適合の完遂を自覚した瞬間。

リアネの身体の奥底――ズキリと熱く、激しく疼いた。


「ああ……っ! コウタ、コウタ……!」


自分の呪いが、彼の中では「救い」として機能している。

そのあまりに歪な相性の良さを突きつけられ、リアネは自責の裏側で、抗いようのない昂ぶりを覚えていた。

涙を流し、絶望に顔を歪めながらも、彼女を突き上げるのは、かつて感じたことのないほど残酷で甘美な疼きだった。


「あああ……馴染む……。ああ、……っ」


彼女の魔力は、主の昂ぶりに呼応するように、より濃密にコウタを包み込んだ。

外界から二人を完全に隔離する黒い繭。

その内側で、リアネは自分の魔力によって癒やされていく少年の苦悶を、恍惚とした表情で、自らの内に宿る熱を確かめるように見つめ続けていた。

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