17
リアネは、自分の魔法を見つめている。
「これが、私の本質」
他者を愛したことがない。
他者を慈しんだことがない。
すべて、自分のため。
「私は、人を愛する資格がない」
だから、コウタの「愛」も、私は受け取れない。
あいつがどんなに私を信じても、私はあいつを「道具」としか見られなかった。
「なのに、なんで……」
「なんで、こんなに苦しいの……」
リアネは泣いている。
でも、理由が分からない。
コウタが恋しいのか?
コウタを利用していた罪悪感か?
それとも、自分が「何者でもない」絶望か?
言葉にできない。
ただ、涙が止まらない。
「わからない……私、何を……」
リアネは独房で、壁を見つめている。
そこに、幻覚が浮かぶ。
コウタの笑顔。
「リアネ様は、温かい」
嘘だ。
私は、腐ってる。
「私の魔法で、君を騙してた」
「君の信仰で、私は聖女のふりをしてた」
幻覚のコウタが、消える。
リアネは、自分の手を見る。
黒い霧が、止まらない。
「これが、私」
聖女の法衣は、腐食でボロボロ。
白い肌が、所々覗いている。
「……汚い」
彼女は、自分の腕に触れる。
かつてコウタが、血を吸った腕。
「あいつ、こんな汚いものを……」
ふと、胸が熱くなる。
涙なのか、別の何かなのか。
自分の身体が、何を求めているのか分からない。
リアネは、暗闇の中で、自分の指を見る。
コウタの頬を掴んだ、この指。
コウタの傷を治した、この手のひら。
ふと、無意識に、自分の唇に手を当てる。
(あいつの血の味が、まだ残ってる気がする)
「……っ」
リアネは慌てて手を離す。
「何考えてるの、私……」
しかし、胸の奥がざわつく。
言葉にしたくない。
認めたくない。
「リアネ様」
再び、幻覚のコウタが、リアネの手を取る。
その手は、凍えるような独房の中で、そこだけが異常に熱い。
「君の魔法は、温かい」
リアネは、その幻覚の手を振り払おうとする。
しかし、身体が動かない。
幻覚のコウタが、リアネを抱きしめる。
「離して……」
しかし、声が震えている。
この腕の中が、なんで……こんなに、落ち着くのか。
幻覚が消える。
リアネは、独房の冷たい床に崩れ落ちた。
「……最低」
リアネは、独房の床に座り込み、自分の右手を見つめた。
あいつの頬を掴み、あいつの傷を治した、あの時の感触が、指先に焼き付いて離れない。
無意識に、その手を自分の頬に当てる。
(あいつの体温が、まだ残ってる気がする)
胸が、締め付けられる。
喉の奥が、熱い。
「……やだ」
リアネは、慌てて手を離すが、涙はもう止まらなかった。
理由は、分からない。
でも、確かに苦しくて、逃げ出したくて。
「コウタ……」
その名前を呼んだ瞬間、自分の身体が、何を求めているのか。
言葉にしたくない「何か」が、ドロドロとした生理的な熱となって、喉の奥から込み上げてくる。
「……気持ち悪い」
リアネは、自分の身体を、壊すように強く抱きしめた。




