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豆のスープ

 アイリス叔母様は必要最低限のものだけ持って今度は北に向かって歩き始めた。いつも東に帰るのに、本当にあの山小屋には戻らないのだと思うと心が痛んだ。


 それというのもエメラダが不用意にフードを外してしまったから。あれほど外ではフードを外さないようにと言われていたのに。その約束を破ってしまったから、アイリス叔母様にも迷惑をかけてしまっている。


 強く引く手に身を委ね、数日かけてたどり着いたそこは、人の少ない深い森の中に、見覚えのある小屋が立っていた。


「え?アイリス叔母様?ここは…」


「驚いた?転移魔法で小屋をここに移したの。いざという時のために小屋の各所には様々な魔法を組み込んであるから。だから安心して暮らせるわ。ただ、この場所は北の国境に近くて夜や冬は冷え込むから…新しく防寒着と暖かい布団を買い足しましょう」


「じゃあお店は?」


「それも用意してあるわ。街角の一角にちょうど空き店舗があったからそれを買い取ったの」


 エメラダは安堵した。転居はしたが、前と同じように過ごせることに。

 だが、心のどこかで寂しさも感じていた。

(同じ暮らしができるのは嬉しいけど、カイニスとはもう会えないのね…この鳥笛もこんなに遠くではきっと届かない)


 試しにそっと吹いてみたが、鳥はいつまで経っても飛んでこなかった。


「エメラダ。さあ。長旅で疲れたでしょう?お風呂に入って軽く夕食を済ませたらもう眠ってしまいなさい。あなた随分疲れた顔しているわよ?」


 アイリス叔母様は私が元気ないのが長旅の疲れからくるものだと思っているようで、心から心配してくれていた。


「アイリス叔母様。私なら大丈夫よ。じゃあ。簡単に豆のスープを作るから叔母様はお風呂の準備をお願いしてもいい?」


 調理が苦手なアイリス叔母様はほっとしたように笑顔になる。


「あなたのスープは絶品だから楽しみだわ。じゃあお風呂の支度をしてくるから」


 エメラダは早速スープの準備に取り掛かったが、考えるのはカイニスのことばかり。寡黙で男らしい人なのかと思えば、優しくて親しみやすく、私が楽しめるように色々な話をしてくれる気遣いのできる人だった。


(これって、きっと恋…なんだよね)


 出会って間もない人に恋をするなんて思わなかった。でも彼の誠実なところ、優しさに強く心惹かれていた。


(もう会えなくなるの…嫌だな)


 いつの間にか涙を流していたようで、エメラダは涙を拭いながらスープを作った。


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