カイニスの思い
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。約束の二時間があっという間に過ぎてしまった。
(もっと一緒にいたいけど、アイリス叔母様が心配してしまうよね)
エメラダはアイリス叔母様を悲しませることはしたくなかったので先を歩くカイニスを呼び止めた。
「カイニス様。そろそろ約束の時間ですので…」
エメラダがそう言うと、カイニスも寂しそうな顔をした。
その表情は捨てられた子犬のようで、エメラダは少し心が痛んだ。
だがアイリス叔母様との約束は絶対だ。それに1ヶ月もすればまた街に降りてくる時に会える。鳥を介したやりとりだってできる。
ただ、こうして手を繋いで歩けることはこの先あるかわからないのでカイニスの手をぎゅっと握った。カイニスも同じ気持ちだったらしくて手を握り返してくれる。
「エメラダ殿。またお会いできますか?」
「そうですね…。アイリス叔母様から許可が出れば1ヶ月後に…」
エメラダは本当なら毎日でも会いたい気持ちをグッと抑えてそう答える。
寂しい。もっと一緒にいたい。その気持ちが強くてエメラダは俯いて涙が滲んだ瞳を隠す。だがそれはあっという間にカイニスによって暴かれてしまう。
顎に手を添えられて上を向かせられる。その瞬間、目深にかぶっていたフードが取れてエメラダの美しい白銀の髪と淡い緑の瞳がさらされる。慌ててフードを被り直そうとしたが、それより早くカイニスはエメラダの髪をひと房手に取るとそれにキスをした。
「カイニス様!」
あまりのことに、恥ずかしくてエメラダの頬が朱色に染まる。
「エメラダ殿。俺は…今はまだ明かせませんが、いずれ俺についても知ってもらいたい。それまでは、どうか。俺のことを信じて…俺のことを考えて欲しいのです」
それは実質の告白だった。
エメラダは過去何度も求婚されてきたが、ここまで真摯に思いを寄せてくれる人は初めてで戸惑いが隠せなかった。
「カイニス様。私。こんなこと初めてで…どうしてそんなに私のことを思ってくださるのですか?」
「それは…。今はまだお伝えできる段階ではありません。どうかお許しください。ですが信じてください。俺は貴方を好いていることを」
カイニスは真剣な顔でそう告げるので、エメラダもそれ以上追求することができなかった。
(カイニス様からは真摯な気持ちが伝わってきたわ。きっと…信じても大丈夫なのよね)
エメラダはカイニスがただの一時の遊びでエメラダにちょっかいをかけているのではなく。真剣に思ってくれていることがわかって安堵した。
「それではこれ以上遅くなる前に家に送り届けましょう。エメラダ殿。お手を」
一度離した手を再び握り直し、カイニスはエメラダの手を引いてお店へと戻っていった。