花祭り2
フードを目深にかぶって通りに出ると人の多さに気圧される。
「緊張していますか?」
カイニスがそっと優しい声で聞いてくれる。エメラダはちょっと考えてから素直に気持ちを伝えることにした。
「はい…いつもはアイリス叔母様に手を引いてもらっていたので…」
そう。いつもはアイリス叔母様のおかげで人混みも怖くなかったが、今は初めてアイリス叔母様以外の人と、初めての街めぐりなので正直なところ怖い気持ちが強かった。
「ならば…こうしたらどうでしょうか?」
カイニスがそっと手を握ってくれる。エメラダはカイニスの行動に驚いて思わず手を引いてしまったが、カイニスはそれを逃さないというようにさらに強く手を握った。
「どうかこのまま。この人ごみです。もしはぐれたら大変ですから」
そう言われると確かにこのまま大人しく手を握っている必要があるのかもしれないと思って、エメラダはそっと握り返した。
するとカイニスは優しい眼差しでエメラダを見つめてくれる。それが少し恥ずかしくて視線を逸らして前を見た。
(どうしてかな。なんだか落ち着かないのに手が大きくて暖かくて安心する。お父様が生きていたらこんな感じなのかしら?)
眼前に華やかな花冠を売る行商が多くいた。そのうちの1件、白詰草の花冠を売っている店に目がとまる。
「わあ…綺麗」
「この花冠がお気に召しましたか?控えめな美しさが貴方によく似合いそうですね。店主、これを1つ」
カイニスはそういうとフードの上からでも被れるように大きな花冠を購入してフードの上から可愛らしい白詰草の花冠を被せてくれた。
「あの…私はまだ恋人も結婚もしていないのですが…」
エメラダは戸惑いながカイニスに問いかける。
するとカイニスは背を屈めてエメラダの瞳を覗き込むと優しく微笑んだ。
「これを贈る意味はご存知ですか?」
(意味?どういうことかしら)
エメラダは少し戸惑ってその質問に答ええることができなかった。その姿が良かったのかカイニスはそっと手を伸ばしてきた。
「あなたの頬に触れても?」
「え…はい‥」
すると武術をしている人特有のゴツゴツとした大きな手が頬にそっとふれる。
暖かく無骨な手のひらが頬に触れると私はなぜか心がソワソワした。
(こんなになるまで努力を重ねてきたのね。この方は騎士なのかしら?でも…恥ずかしくても心が温かくなる。なんだか不思議)
生まれて初めての感覚に私は胸が高鳴った。