7話 危惧の夜半
城内に出現した魔獣の大群。無差別に繰り広げられる虐殺の嵐。敵わないことを理解している者らは自分だけでも助かろうと、逃げ惑う。助け合うどころか、逃げ遅れた者を餌にして自分が助かろうとする始末。従者が今まさに魔獣の手にかかろうとする刹那、魔獣の大群が一気に討伐された。逃げ惑っていた人々は足を止め、討伐者らに目を向ける。
「あ、アバンチュールの戦士だ!!」
ダン! ダン! ダン!ダン! ダン! ダン!
アバンチュールの軍団が規則を作り、城に進行する。軍団の奥から、思いのままに奔放する隠匿部隊の精鋭。圧巻の光景に見舞われて、城の関係者は恐れをなして動けない。
軍団の先頭に立ち、その場の空気を支配する団長エテルネル。
「団長。魔法特務隊が地下の研究室への侵入を完了したそうです。隠密部隊も人間の保護に成功。避難に時間がかかるそうです」
「わかった。だそうだ、エクラ」
「おう」
エテルネルの横を歩いていたエクラが意気揚々と返事をする。
「下層が喧しいな」
「なら、上は雑魚しかいねえな」
「俺はこれから単独行動だ。エクラ、ぶちかませ」
「お前もな」
エテルネルを見送って、別れた。敵の制圧に労力は使わないが、未知の魔獣に悪戦苦闘する。それを見たエクラの口角が上がる。グローブを手にはめて、魔獣の前に立つ。
「最近暇だったんだよ。精々楽しませろ!!」
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地下にまで届く地上の轟音。僅かに揺れた感覚。地上はどうなっているんだろうか。アンフィニは遊び疲れて眠っている子供たちに優しく寄り添う。すやすやと穏やかな寝息が聞こえてくる。部屋には子供たちを退屈させないように配慮された絵本や玩具の数々。足が傷つかないようなクッションの床。空調設備も整っている。外からの攻撃が聞こえず、恐らくは防音。まるでシェルターだ。
『あんな小さな体で、やらなければならないこと…』
アンフィニはぽつりと溢す。考えを巡らせていると、外から足音が聞こえた。多勢。だが、その気配に覚えがあるアンフィニは安心する。
ガンと施錠された扉を破壊して突入してくる。
「無事かい?」
レーヴは穏やかな雰囲気だ。緊張感はあるが、子供たちがそれで起きないように配慮している。魔法特務隊が子供を一人一人抱きかかえ、保護する。
「なんか顔色良くないかい?」
『そうですか? 変なことは一つも…』
「まあ、なんでもいいけど」
『状況は?』
「城は魔獣に溢れて大混乱。神人とあの三人の行方は掴めてないけど、ヴォク・ラテクが没落するのは時間の問題だな。エテルネルが単独行動中だ。合流するかい?」
『いいや、彼の好きにさせよう。そうだ、ヴォヤージュに伝えてくれるか。デスティネの行った報告書・カルテ・実験結果・副産物。なんでもいい。物証をかき集めろ』
「!」
『神人デスティネを引きずり下ろす!』
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「この悪魔ぁぁ!!!」
城の上層部に響く断末魔。魔の声は首を落とすか、血を流すかで止む。ラジュネスは剣についた血を拭き取り、ブレイドを見つめる。ブレイドに映る自分は無表情で笑いもしない。悲しみも何もない。温度を感じられない。冷酷だ。
「悪魔なんてこの世にいないのに…」
ラジュネスは気だるげに言った。断末魔の語彙はほとんど同じ。今まで蔑んできた軍部の上官を殺し、軍部を崩壊させる。私怨に塗れた醜い行動だと知りながらも、今までの屈辱は命を奪わなければ収まらない。苦しい日々が終わるとは限らないが、今、この瞬間は気持ちが軽い。
ラジュネスは暗黒の夜空を仰ぐ。星の一点もなく、月光も落ちない不純の夜。こんな夜に悪魔が降りてくるのだろうと、思ってしまう。
(悪魔は破壊の権化。善悪を破壊する怪物。でも、悪魔は私たちの悪を破壊してはくれなかった。だから、悪魔なんて無用の生物は存在しない。でも…)
ラジュネスは、スィエルとヴェリテと合流する。二人は返り血を浴びているが、幸いにも怪我はない。ラジュネスは二人の血を拭いながら、思う。
(悪魔は何かを破壊しても怒られない。罵倒されようと、殺されない。だって、破壊こそが悪魔に与えられた神からの仕事。それなら、私は悪魔になってやる! 悪魔になって、二人が悲しむことを、私はぶち壊す!!)
三人は血の池を作る廊下を歩く。鼻を突く悪臭が気にならないほどに、高揚している。最後の扉。それを開けると、眠っていたはずのデスティネが起きて、テラスへ佇んでいた。いつのまにか、月は出て、神人を照らす。
「お早いお目覚めですね」
『騒がしいな。管理を放棄したのか?』
「くそったれな世の中に蜂起しているのです。あなたもいずれ天に逝く」
『くっ…あっはははは!!』
ラジュネスの言葉を聞いて、爆笑するデスティネ。その忌憚な行動が場を緊張に導く。
『本当に貴様らは愚かだな。だが、余は寛大だ。愚かな貴様らを、もう一度愛してやろう』
横暴な言葉にスィエルは憤り、ヴェリテは殺意が迸る。ラジュネスは剣に力を込め、感情を制御する。三人を前にして動じぬ胆の座り具合。神人の泰然自若が強さの証。
「ここで終わりだ」




