44話 龍と少女が告げる鐘
大陸に吹く風。
ネージュ・セルクイユ、神人直轄領で引き渡しが行われる。ぐったりと眠っているアンフィニを、側近のヴォヤージュが抱きしめる。
「ヴォヤージュ殿、治療室へ」
ロクザンが二人を退出させる。神人グロワールを代表して、大戦の幕引きを見送ったロクザンは、大陸全土に跋扈する異質な魔力を感じ取っていた。交渉術を買われてはいるが、固有魔法の影響で、魔力の動きを見ることができる。
(大陸にある自然の魔力が結びついている。意図的に設置された魔力が、共鳴し、反発して…今、爆発する!)
胸の内が騒がしい。非戦闘員のロクザンは世界規模の外面的事象には対応できない。得意なのは、政の内面的事象。
「ラジュネス、あなたの魔法を見るのはいつぶりでしょうか…」
ロクザンは部屋を見上げる。見上げた先は塔の上。そこにいるのは、ヴォク・ラテク最高司令官及び総帥に復職したラジュネス。
新緑の覚悟が決まった目が、大地を見下ろす。普段と変わらない大地の風景の中、地脈で動く魔力を測る。
「来る」
ラジュネスは天を見上げた。突然、砂嵐が勃発した。砂嵐が町を襲う。一つだけでなく、大量の嵐は五カ国を横断し、文明を破壊していく。だが、ラジュネスが見ていたのは、嵐ではない。邪気が世界のすべてを覆い、青空と雲が禍々しい闇のオーロラに占領された。
咆哮を上げて、降り立つ世界最古の龍デザストル。長細い肉体を蛇のようにうねらせ、背骨から無数の黒翼をはばたせる。鱗がオーロラの光を反射して、ラジュネスの顔に光を落とす。デザストルの叫びで、魔力が無茶に共鳴し、全世界に大爆発を引き起こした。
ドン、ドン、と第二の火災が起こり、砂嵐に乗って、被害が増幅する。一瞬で、目の前に広がる光景が火の海に染まる。
「魔法をちゃんと使うのは、いつぶりか」
ラジュネスは魔力を練り上げ、魔法展開の支えである杖を生成する。いつものラジュネスは、短縮した詠唱と杖なしでも最上位の魔法である生命魔法を行使できる。だが、それは回復を主とするときである。
生命魔法の神髄は回復ではない。あらゆる生命を操る魔法。回復もできれば、簒奪も可能である。その代わり、身体に大きな負荷がかかる。その魔法は命を代償とする魔法である。
「生命の簒奪者よ。創世の理に背き、万来に尽くせ―」
正式詠唱がラジュネスの口から発せられると、飛行するデザストルの周りに魔法陣が無数に展開された。緑の粒子が陣から放出し、空に溶け込む。陣から黒い靄が手のようにして現れる。巨大な靄の手はデザストルを掴んだ。
「壊せ―生命魔法ヌ・ラーシュ・リヤン」
黒い靄に緑の粒子が配列を組んで、効力を発した。デザストルの生命を奪い、人類最古の龍に深い眠りを与えた。
デザストルから奪った寿命は水晶のような形になる。ラジュネスは手を伸ばして、寿命を手繰り寄せた。
「最古の龍よ、暫し眠れ」
労いをかけたラジュネスは、杖を天に掲げ、生命魔法を行使した。その瞬間、大陸に根付いていた魔力が再度反発して、幾度目かの大爆発を引き起こす。地脈から放出した魔力はマグマのようになだれ込み、文明を破壊する。
「崩落の天然は終極に朽ち果て、命の芽吹きを呼び覚まさん。愚かなる人類に、今一度…好機を与えたまえ…」
圧縮していた魔力をラジュネスは放ち、地脈で暴発する魔力の暴動を鎮静化した。
神帝教の宣戦布告を収め、ラジュネスは宣戦布告した。
大魔法使いの偉業をもう一度、世界に晒し、人殺しの英雄が躍動する大戦が幕を開ける。




