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38話 防御に徹する

メル・オセオンとセゾニエの共同軍の侵攻による大戦が勃発し、ヴォク・ラテクの支援を受けながらアバンチュールは前線に立っていた。山脈で激化する抗争と、臨海部で衝突するメル・オセオンの海軍とアバンチュール隠匿部隊。両者一歩も引かない戦況だが、日を追うごとに戦死者は増えていく。前代未聞の大戦は一ヶ月経とうとしていた。


ネージュ・セルクイユ、城の頂上。神人グロワールが空に手を掲げて、権能を展開した。城を中心に広がる膜が空を覆っていく。国全土に届いた膜は虹色に光った瞬間、透明になる。グロワールは再度手を伸ばし、膜を下ろす。それは帳と呼ばれる結界である。

グロワールの後ろで見守っている側近ロクザンは見上げる。

(神人グロワール様の権能”結界帳”。防御のみに特化した権能だが、一度張られれば塵一つ通さない鉄壁の結界だ。ネージュ・セルクイユは特定の軍隊を持たないが、今日まで国を守れたのは友好的に外遊する外交と、グロワール様の結界の権能。破られたことはないが、どうだろう…)

ロクザンは怪訝に眉をひそめた。

『我の結界に不満か?』

「いえ、情報では海軍を引き連れているのは神人ソレイユ様本人なので…」

『ああ、我が毎日毎日結界を張りなおさねばならんのだ。若造が…好き勝手しよってからに。戦況はどうじゃ?』

「両軍一進一退の戦況です。が、忍耐力ではアバンチュールが不利かと。食料などの資源に富んでいても、海と空のスペシャリストが相手ですので…なにより、人質がいますので負けるとは断言できませんが、被害は甚大でしょう」

ロクザンの報告を聞いたグロワールは空を見上げた。灰色の背景に黒い雲が流れている。

『ロクザン、お主はメル・オセオンの子爵とセゾニエの伯爵に内通せよ』

「応えてくれますかね…」

『あそこの貴族は以前から亡命したいと言っておったはずじゃ。我の目に狂いはない。アバンチュールがいくら強いからと言って、神人と隊長二名の身柄を拘束されていては動けまい。加えて、カテドラル伯爵が天空への道を邪魔しておる様子。アバンチュールは気にかける余裕はあるまいが、我の目はごまかせぬぞ。我らネージュ・セルクイユは戦争に干渉はせんが、手助けくらいならしてくれよう』

「…」

『どうじゃ、ロクザン。久方ぶりに同期と任務をしたいと思わんか?』


─────


「……」

レーヴは悪戦苦闘していた。頑強な鎖で封じられた体。体力だけは残る体にぐっと力を入れて、怪力だけで捻じ伏せようとする。海の膜で覆われたという部屋では魔力が上手く練れない。お腹もすかないし、睡眠も不要な空間に監禁されて、時間の経過が分からない。だが、助けが来ない辺り、騒動が起こっているに違いない。レーヴの勘が語っている。

「ヴェリテ…」

あれから何度もヴェリテの名前を呼んだ。神人ソレイユが彼女から魔力を奪った衝撃で、深い眠りに入っていると推測した。でも、守ると約束した。

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

脳天を灼く怒りで怪力を生み出す。ばきばきと鎖を粉砕した。重い痛みと金属の破片が刺さって、音を上げる。

「ヴェリテ!!」

駆け寄って、ヴェリテを抱きかかえる。彼女が持っていた魔力が一欠けらも感じられない。命に別状はないみたいだが、やつれている。悪夢を見ているような苦しみの寝顔。なんとか目を覚ましたい。

「回復魔法!」

レーヴは回復魔法を連発して、ヴェリテの各器官に循環していた魔力の補填に移る。

(はやく、はやく、起きてくれ!!)


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