36話 行き交う駒
宣戦布告から約一時間後。
アバンチュール会議室に召集された貴族の面々。隠密部隊からの情報提供で貴族間の混乱を鎮める。
「ル・モン山脈を通り、メル・オセオンとセゾニエの陸軍が侵略中。そして、海路を使うメル・オセオンの海軍。空路を使うセゾニエの空軍を確認。空と海を囲まれ、分は悪い」
「ヴォク・ラテクは全面戦争を避け、国内の防御に力を入れるように指示はしてある」
会議は軍団団長エテルネルと、精鋭隠匿部隊隊長エクラが握っている。対応に納得する貴族だが、公爵が質問をした。
「アンフィニ様はどうなっている?」
貴族がざわめく。隠密部隊が現在の情報を開示した。
「メル・オセオン情報院からの提供では、アンフィニ様は現在一命は取り留めているものの危うい状態には変わらないとのこと。摂取された毒はヴォヤージュ様が携帯している医薬品と合致し、その証拠でヴォヤージュ様は捕縛されたままです」
「移動できないのは分かりましたが、医療国家たるアバンチュールを放って治療をせぬのは話が違います。せめて、数人の治療師を送ることはできないのですか?」
女伯爵が提案する。それはエテルネルも考えていたが、できない理由が増えていく。
「メル・オセオンへ発った一部の魔法特務隊が先程帰ってきた。その中にレーヴ隊長の姿はなかった」
エテルネルの言葉に貴族は一瞬意味が分からなかった。続けて、
「魔法特務隊レーヴ隊長と、後継者ヴェリテはプロンジェ子爵に拉致され、現在メル・オセオンに軟禁されている」
会議室が一瞬にして騒めき立つ。
「隊長の拉致軟禁、山脈への侵攻、空海の封鎖、神人を人質にされている。メル・オセオンを信頼できる証拠がない。会談を申請しているが、返答はない。かと言って、セゾニエを信頼するわけでもない」
「では…」
「全面戦争だ」
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「軍団が早々に動いたみたいよ」
セゾニエとメル・オセオンの国境に建つ共同戦線の砦。ヴァン侯爵が到着する。魔法で各地方の状況を見ることができる司令塔で事を構えるカルム宰相がにこやかに返事をした。
「そうみたいですね」
「ヴォク・ラテクは防衛徹底。アバンチュールの軍団は山脈の兵とそのまま攻め込むみたいよ。隠匿部隊は海軍の殲滅に動いてるわ。貴族は国境沿いに集結してるみたい」
「城は手薄みたいですね。蕾だけで本当によろしいのですか?」
「ええ、私も動きたいから」
ヴァン侯爵の返答に、宰相は駒を増やす。チェス盤に置いて、駒を進める。
「カテドラル伯爵の情報では、エテルネル殿が秘密裏にリュイヌ卿に援助を求めているようです。まあ、彼がいる限り天空には届きませんがね」
宰相は目を瞑って、拳を握る。月桂樹のヴェールを被る天女を思い出す。
(もうすぐ、もうすぐです。お前を苦しめた世界が壊れる。お前の復讐、父が果たします)




