35話 不祥事
「アンフィニが…?」
アバンチュールの執務室に響くエテルネルの叫び。国中の書類作業をしていた彼に届いた悪い知らせ。何か起こらないかなと思っていた矢先に、望んでいない襲撃が発生する。
「アンフィニ様が毒を盛られ昏睡状態。容疑者は神人ジュレ様とヴォヤージュ様だそうです。告発文によれば条約締結を拒むジュレ様がヴォヤージュ様を脅し、強制的に毒を掠奪したと…情報が漏洩し、大陸全土にその事実が貴族の耳にも届いています」
「団長! たった今、メル・オセオンとセゾニエの条約締結が発表されました! それに伴い、宣戦布告が為され、ル・モン山脈に共同軍が侵攻中です!!」
「どのくらい進まれてるんだ…」
エテルネルは進行度を尋ねた。部下は一瞬どもったが、意を決して報告する。
「隠密部隊の情報では、中腹部に構えられた砦に残党はなく、おそらく今日中には峠を越えると思われます!」
「!」
エテルネルは驚きながらも、アバンチュールの国土地図を見る。
(アバンチュールとヴォク・ラテク両国はル・モン山脈に囲まれた地形だ。自然の絶壁で山脈を渡るだけでもかなりの兵力を失う。地上戦においての分がある一方で、海上戦ともなればメル・オセオンが強い。部下の焦り様からして山脈を超えた兵はかなりの数。国を挙げた宣戦布告ならば、戦力は想像の範疇を超える。貴族も知っているなら説明はいらないはずだ。なら…)
「国境沿いの領地を治める貴族に警備を固めるように伝達。領民は内陸部の領地まで避難。城の警備は最小限にし、地上戦に備えろ。幸いにも食料は自給できる地形だ。海路を封鎖されても問題はない。臨海部地域の貴族に召集をかけ、メル・オセオンの攻撃を最小限に抑えられるように」
「はい!!」
「軍団は各地方に遠征。魔法特務部隊は城の警護、隠密部隊は引き続き外部の情報収集。エクラに即刻戻るように伝達し、隠匿部隊出動命令を下す。メル・オセオンのソレイユ様へ会談の申し立てと、貴族の召集を!」
エテルネルの指示を聞いた部下は早急に仕事に取り掛かる。戦争に備えて軍の準備は進めつつも、武力行使に発展しないようにするしかない。
(ジュレ様は戦闘狂だが姑息な手は使ったりしない。嵌められたとなれば証拠が必要だ。それに手が回るか?)
エテルネルはセゾニエの序列を考える。
国同士の諍い事は普通であれば神人が先導する。だが、その神人が参画できない状態ならば、準ずるものに主導権が移る。そして、セゾニエの神人に準ずるものは宰相しかいない。
(ジュレ様が逮捕されたのも、同盟締結も速すぎる。見計らっていたな!)
エテルネルは無意識に机を叩きつける。ばきりと壊れた机から書類がはらはらと落ちる。
「どこからでも来い。俺は全力で殺してやるから」




