31話 残虐な人魚
メル・オセオン全土に吹く海風。太陽がぎらぎらと輝く。潮の匂いがする。湿度は高いが、風が吹いているためか、冷涼な気候である。海洋国家と言われるだけあって、街を降りた先には海が見えて、浜辺で寛ぐ人魚や鬼の姿が見える。
ヴェリテは物珍しそうに眺める。
「面白いかい?」
「ちゃんと、見たのは初めて、かも」
隣を歩いていたレーヴに軽く受け答えする。露店にある魔法雑貨に心躍らせている様子だ。レーヴも、周りの魔法使いも微笑ましく見る。
「海洋国家メル・オセオンは、五カ国の中で最も海に面した国だ。海洋資源に富んでいて、海に宿る魔力の研究を熱心に行っている。それだけに独自のアーティファクトを発明している。神人ソレイユ様は海を超越した御方。つまり、海のご加護を受けた国ってことさ」
「へえ、おもしろいね。とっても」
レーヴの話を楽しそうに聞くヴェリテは表情は柔らかく、怖いとか、そういった感情は読み取れない。
「子爵は、アーティファクト専門、なの?」
アーティファクトは魔法器具とは違い、古代の遺跡や洞窟などで自然が構築した魔法遺産を指す。希少価値が高いのに加え、アーティファクトの放つ独特なオーラに吸い寄せられ、魔獣が凶暴化することが多い。
「子爵の領地は元々ネージュ・セルクイユとセゾニエの国境に位置していた所だったんだ。そこで三国間の貿易の仲介役として活躍。流れ込んできた物品を、メル・オセオンに販売する商人としての地位を確立したんだ。国同士仲が悪かろうが、できないことを補う分業体制だからね。
今はメル・オセオン中央にも領地を与えられて、プロンジェ子爵当代は中央。ペナンシェル令嬢は国境沿いの領地にいるんだよ」
「ここは、国境?」
「ああ、商人の町さ。海港が多くてね、貴族たちの中継地にも指定されているんだ」
レーヴは屋台で売られているジュースを買い、ヴェリテに差し出す。柑橘の爽やかな味わいに、ヴェリテの口角が上がる。魔法特務隊は港町を各々で散策しながら、欲しい魔法道具を買っているようだ。
レーヴも気になったものを手当たり次第に購入している。
「楽しそう、みんな」
「普段は魔塔に引きこもって研究ばっかしてるけど、息抜きも重要さ。ヴェリテも好きなものがあれば買いな」
レーヴの言葉に、こくこくと頷いて、ヴェリテは向かいの店に入る。そこは少し古臭そうな造りの店だ。だが、陳列棚の商品はどれも品質が高い。灰色の宝石が組み込まれたネックレスを手に取る。
「それが気に入りましたか?」
「!」
いつの間にか隣に立っていた店主らしき人物に声をかけられた。ヴェリテが驚いてしまうと、フードを被っている店主は申し訳なさそうに謝罪した。
「ご、ごめんなさい…勝手に」
「いえ、こちらこそ。そちらの商品がお気に召しましたか?」
「え、あ…そうです。できれば、買いたいのですが…」
「可能ですよ。さあ、こちらへ」
店主は商品を丁寧に包装する。代金を支払ったヴェリテは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「宿泊なさるのですか?」
「その、つもりです」
「でしたら、夜の海を回遊してみてはいかがでしょう?」
店主の薦めに、ヴェリテは興味を示す。
「今は活発さに溢れていますが、夜は一層濃くなり、昼とは違った魅力がありますよ」
「わか、りました。ありがとう…」
ヴェリテは礼を言って、店を後にする。店主は彼女の去る姿を確認して、通信魔法器具を起動した。
「指示通り、アーティファクトを売却しました……」
『それで?』
「……夜の海を紹介しました」
『必ず来るの?』
通信相手の傲慢な態度と威圧的な発言に店主の顔は青ざめていく。
『誘い出せないの? なら、仕方ないわね』
「お待ちください!! 町の者総出で行いますので!」
『ふぅん。失敗すれば…分かるでしょうね?』
「もちろんです。すべてペナンシェル様の望みのままに」




