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23話 世界の縮図

饗宴当日、空の上にある神域の城で開催される宴に、多くの貴族が揃い踏みである。錚々たる顔ぶれ。賢者が住まう天空で牽制と威圧の攻防が繰り広げられている。その中で早くも帰りたいと思うヴェリテとスィエル。

スィエルの装いは、普段の衣装を少し改良している。ヴェリテは、後見人であるレーヴと同じパンツスタイルだ。エクラもレーヴも他の貴族への挨拶で席を離れている。ヴォヤージュは、神人アンフィニに付き添っている。一通りの挨拶が終わった二人は大広間に設置された個室で寛ぐ。カーテンで仕切られているため、個室の中は見えない構造となっている。

「寛ぎ過ぎでは?」

個室に入って来るや否や苦言を呈するロクザン。三人は面識はないが、元最高戦力で話は合う。

「ロクちゃ~ん、疲れたんだも~ん」

「はあ、その様子じゃ貴族の顔は分かっていないようですね」

呆れたロクザンは目配せをして、貴族の説明をしてくれた。彼は大広間の前に鎮座している者に目を向ける。

「あれが神人です。グロワール様、アンフィニ様は説明はいらないでしょう。その横に座る金髪の麗しいお姿をなさっている御方がメル・オセオンを統治する神人ソレイユ様です。側近の方もいらっしゃるようだ。

その隣、三つ編みでまとめた茶髪の御仁がセゾニエを統治する神人ジュレ様です。真ん中の席は賢者リュイヌ卿のために設けられたものです」

「ここまでは勉強通り…」

次に会場を指差す。ロクザンは特に主役的位置にいる貴族を簡潔に教えてくれる。


濃い紫のドレスに、体の線に沿うように宝石のチェーンで埋められ、鮮烈な光を持つ装飾品を身に着ける女性。紫の髪と艶めかしい瞳。その頭には王冠が乗せられている。

「セゾニエの筆頭貴族ウラガン・シャルール・ヴァン侯爵当代。彼女は精霊です。そして、社交界の華であるため、王冠を被ることを許されています。今の蕾が華となれば、同じように振る舞うことになる」

「華は何本あってもいいんだ~」

「綺麗なものこそ維持が難しい。中々華にはなりえません」

次に映る銀髪とターコイズブルーの瞳を持つ紳士。唇の下に黒子がある。端正な顔立ちだが、男だと分かる。

「あの御方もセゾニエの貴族ですが、宰相を務めますカルム・ベル・タン貴になります」

「ジュレ様の近く、いない」

「カルム貴は神人の腕です。傍に仕えず、貴族に対応する。貴族寄りの神人直属ですので、敬称は”貴”。間違えぬように」

二人が頷くと、説明を続ける。

瑠璃色のストレートヘアを後ろで留める品性漂う雰囲気の男。だが、気さくな性格で周りを笑顔にさせている。

「彼はメル・オセオンの有力貴族アムール・デテ・プロンジェ子爵です。元々は商人でしたが、その腕を買われ、子爵の地位を与えられました」

「ペナンシェル令嬢」

「ああ、よくお気づきで…ええ、子爵の娘ペナンシェル令嬢は社交界の蕾です。今は、侯爵と話していますね」

スカーレットの波打つ髪。人魚特有のヒレに宝石を提げている。透き通るようなブラウンのつぶらな瞳。親の子爵と似て明るい性格で、ヴォヤージュに聞いた通り可憐な少女だ。

「人魚って足を変えれるんだね」

「特別な訓練をしていればね。彼女の裏の顔は怖いですよ。もう一輪の蕾は、あそこにいますね」

取り巻きの中心にいるノワールの瞳を持つグラマラスな体型の美女。自分が一番だと分かる表情と仕草。色気を押し出したドレスは、可憐と純真を体現するペナンシェル令嬢とは対となっている。

「エキゾチック~~~ッ」

スィエルは思わず見惚れる。

「セゾニエ貴族代表フィルママン公爵の一人娘ナディール令嬢です。近くに公爵もいらっしゃいますね。フィルママン公爵は代々竜の家系。相応の武術を会得しています」

ナディール令嬢に釘付けになっている男性は多い。それに満足しているナディール令嬢は高笑いをして、隠すことない悪意を顔に張り付けている。

「おや…」

ロクザンが何かに気づく。彼の視線の先には二人の男性がいる。

片方の大柄な男性にスィエルとヴェリテは面識がある。アバンチュールのエトランゼ・アルカンシエル公爵だ。公爵は城を出入りしているので、最低限の会話をしたことがある。

その横の不機嫌そうな、憂鬱な顔をしている。まるで孔雀を彷彿とさせるかのような男性だ。

「ヴォク・ラテクのフロンティエール・カテドラル伯爵ですね。公爵と伯爵は領地が近い。貴族間の貿易で関係は良好。そういった貴族は少ないので珍しい」

大国であるため、個々の領地では取引が多く、他国との貴族間の交易は盛んに行われている。中央で管理しているが、問題が起こらない限り、介入はしない。

一通り見た。どの貴族も個性を重んじて飾り、裏の冷戦に挑んでいる。その中で思う。

「ラジュネスが一番だね」


まだまだ貴族の紹介が続く。すると、貴族の話が一変する。聞き耳を立てずとも、彼らの話が聞こえる。

「もうすぐいらっしゃるのかしら。エテルネル様」

「百年ぶりですわね。エテルネル様を拝見するために来ていると言っても過言ではありませんわ」

「まあ! 聞こえますわ!」

「相変わらずイケメンなのでしょうね」

「ですが、婚約者ができたのでしょう?」

「ヴォク・ラテクの人間ですわね。英雄と祭り上げられている野蛮人」

「楽しみですわ」

「蕾は小さきもの。すぐに折れてしまいますわ」

令嬢の蔑みの次は、大人の政の解釈。

「最高司令官の座を引いたとか」

「総帥の地位も…正直安心しています。かの方の側近は何でも暴力で解決するとか」

「戦場ではまさに鬼人(・・)。名を聞いただけで身震いする」

「だが、子供だろう? 世間知らずの…」

「聞こえるぞ、ここには神人が揃っている」

「神人が警戒している人間だ。別にどうってことない」

冷笑と侮蔑の言葉の交錯。まるで余興としか思っていない貴族の言葉に、殺意を抱く。だが、ヴォク・ラテクの貴族は悠然としている。神人は品定めの姿勢に入る。

恐ろしい光景。隠すことのない悪意と邪心。

しかし、ラジュネスを知っている者は心の中でほくそ笑んだ。彼女の偉大さと秀逸さは、蕾にとどまらず、星となる輝きを放つことを知っているから。

踊り場の豪華な扉が開かれる。その一瞬で、音は途切れた。談笑の裏に潜む牽制が一時的に幕を閉じ、新たな華を見るための瞳をつくる。

『エテルネル・オンブル・セレニテ卿御入来!

ラジュネス妃殿下御入来!』


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