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12話 知見の鬼

救えば、信用してくれると思っていた。

必死さが伝わると。そうすれば、生きてくれると。そうした先で想いを伝えようと。

勝手に思っていた。

だが、少女に根付いた記憶は揺るがず恐怖を与えるという。今まで生きるために行ってきたことが、今は生きてはいけない理由になっている。

誰かを壊すかもという憶測が、今、自身を壊すものとなっている。

(希望があるから、謀反を起こしたと思っていた。逆だった。希望も未来もないから、命懸けでやったんだ。生きたいとかじゃない。生きちゃいけないと、まるで誰かに責められて、洗脳されたみたいだ)

ラジュネスの悲鳴。懇願のような声。否定すれば壊れてしまうし、否定したところで変わらない。少し触れれば、音を立てて崩れる。脆く、弱い少女が映る。

エテルネルは彼女の手を握る。とても小さくて、冷たい。

「ラジュネス、何か怖いことがあるのか?」

「…」

「周囲の目が気になるのか? なら、心配しなくていい。ここにはお前を蔑んで、不幸を祈る大人はいない。もう誰かが不幸になるとか、誰かを喜ばせたりとか、周囲の反応を見る必要はない。見返りなんていらない。

それにお前の手は不幸にする手じゃない。お前自身を守って、人を癒す手だ。今まで必死にやってきたことが苦しめるなら、俺も背負うから」

「は、くだらない」

ラジュネスは鼻で笑う。

「私のこと、知れば知る程、みんな壊れていく。今ままでもあなたのような大人はいた。でも、私がやっていることを知るなり、どこかに消えてった」

「…」

「怖いものなんて沢山あるよ。でも、それを全部解決なんてしたら、壊れる。どうせ失敗に終わるなら、もう何もされたくない。誰ともいたくない。信用するとか、もう、そんな感情…捨てたよ。

私の手は汚いから…」

ラジュネスが手を引いて、エテルネルの思いを拒んだ。

「分かったら、関わらないで」



──────────────────



「重症ですね」

ラジュネスの話を聞いたヴォヤージュはため息をつく。めんどくさいと思っているのではない。ラジュネスの言葉が全て本心だからだ。

卑屈なことを言い、自らを罵るラジュネスを、その場で慰めることができなかった。ラジュネスの行ったことは知っている。良いこともあれば、悪いこともある。いや、悪いことしかない。強制されたとしても、実験に加担し、多くの命を奪ったことは否定できない。惨さを理解していたから、ラジュネスの言い分は痛いほどわかる。

ヴォヤージュは、先程から無言なエテルネルを見た。いつもは活発な態度で頼れる大人。そして明るい性格の彼は沈んでいる。

「どこに行くのですか?」

「二人に話を聞きたい」

「え?」

「今までの大人はラジュネスのことを見放した。でも、俺は違うってことを証明したい。だから、彼女に起きたことを全部知っておきたいんだ」

エテルネルは、談話室へと足を運ぶ。そこではスィエルとヴェリテが食事をとりながら、談笑していた。他に部下もいるが、問題はない。エテルネルは二人の前に座る。

「…どうしたのぉ」

「協力してほしい。ラジュネスに何があったのか」

「え〜ん。だってぇ、ヴェリテ」

スィエルはご飯を頬張りながら、話題を振る。

「デスティネの直属になったのは、ラジュネス、ヴェリテ、俺っちの順だ。俺っちとヴェリテとの間でも一年の差があるよお」

「…」

「五年でしたっけ。ラジュネスが仕えて」

「正確には八年です。ラジュネスの、初陣は、七歳の頃なので…」

「十歳じゃなくて?」

「それは、デスティネの、側近になってから」

「…」

「話聞いて、ラジュネスを、救えれる?」

「ああ」

「じゃあ、話す、ね」

ヴェリテがゆっくりと話し出す。


私が初めて、ラジュネスと会ったのは今から三年前のことです。私は、魔法の才能を見込まれて、最高戦力になりました。ラジュネスは、私よりももっと早く仕えていました。十二歳とは思えないほど、落ち着いていて、そしてデスティネに、従順でした。恐ろしいほどに。

私が彼女と対面したとき、デスティネは彼女のことを四六時中傍に置き、監視していました。なぜ、そんなことをするのか、当時は疑問に思っていました。

その理由が分かったのは、思っていたよりも早かった。幹部らがラジュネスの陰口を叩いていた時です。

『ざまあないな!』

『あんだけ偉そうにしてたのに、足抜けは失敗』

『しかも、その大人に正体ばれて、捨てられたんだってなぁ。こりゃあ傑作だ!』

話からすると、あなた達の他に、ラジュネスのことを気にかける大人がいたようです。その大人は敵国の、かなり地位が高い人のようでした。ですから、彼女を保護できる権力を有していたはず。

だからこそ、助かるとラジュネスは期待していた。

しかし、大人はラジュネスのやってきたことを知るなり、保護を拒絶しました。殺人鬼であること、部下を沢山殺したこと。そして、それを黙っていたことに憤り、抵抗し、泣いていたラジュネスに罵倒の言葉と暴力を浴びせ、約束を破棄しました。代わりに、ラジュネスはロクザンという子供を指名し、その大人に引き渡しました。

足抜けがばれたラジュネスは毎晩毎夜、デスティネとともにいました。彼女だけでなく、彼女の管理下にあった人間奴隷を目の前で殺し、その責任を見せたのです。

殺人鬼を守りたいやつなんていない。お前は人殺し。周りを不幸にする。誰も、お前を見ない。幸せになる資格なんてない。

デスティネの寝室から、そんな声が聞こえてきました。洗脳です。以来、ラジュネスから笑顔が消えていました。感情を持たぬ従順な駒となり、デスティネの要望に応えてきました。それでも変わりません。

ラジュネスが一度裏切ったことは、執念深いデスティネに深く刺さり、もう逃げられぬよう暗示をかけました。長い時間をかけて、ゆっくりとラジュネスの精神を破壊し、制約という名の洗脳をしたのです。


「スィエルが最高戦力になると同時に、ラジュネスは最高司令官及び総帥に昇格しました。愛し子(サクリフィス)もその時だったと思います。

上に立つようになってから、ラジュネスを支える側近の人間奴隷も増えました。ですが、結局は理不尽な憂さ晴らしで命を落としてしまう。ヴォク・ラテクでは、そういったことは日常茶飯事です。ですが、ラジュネスに関わると不幸になると言う根も葉もない噂で、一層ラジュネスは孤立し、苦しんでいました。でも、ラジュネスは信じてしまった。周りが自分のせいで不幸になると信じれば、自分が悪い人間で、死ぬに値する人間だと解釈した。そうやって縋っていなければ、ラジュネスは今頃生きていません。

助けてもらうはずだったのに捨てられた虚脱感と、自分の行いで他人に不幸が降り注ぐ既視感で、自責の念に駆られています。ラジュネスは他人を信用していないわけでは、ありません。それ以上に、自分が生きる価値もない、不幸を振りまくだけの人間だと信じて疑いません。その認識が改めない限り、ラジュネスは…」

おどおどしていたヴェリテだが、今回は流暢に話す。だが、最後の言葉だけ詰まった。話を聞き終わったエテルネルは椅子から立ち上がり、扉の方へ向かう。反応を見たヴェリテは顔を伏せた。失望が混じる。

「ヴェリテ、話してくれて助かった。いい案が浮かんだ」

「え…助けるの?」

ヴェリテは、エテルネルの言葉に驚いて、思わず素の口調が出てしまった。

「約束したはずだ。助けると。俺は誓いは果たす」

エテルネルは悠然と言い放ち、部屋を後にした。


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